第159話 蚤の市

 開会式を終えた俺たちは品評会まで時間があるので、ぶらぶらと歩いてみることにした。


「さてどこに行くか……」

「蚤の市にでも行ってみるか?」


 俺がうーんと少し考えるそぶりを見せると、グオンクが俺に提案する。


 蚤の市。蚤の市と言えば掘り出し物。これは中々面白そうだ。


「そうだな。行ってみるか」

「おう。それじゃあついてこい」

「了解」


 俺たちはグオンクの案内の元蚤の市の会場へと向かった。


「おお、賑わっているな」

「そうだろ?ここには玉石混交。とんでもなく良い物からとんでもなく悪い物までいろんな作品が混ざっている。この中で掘り出し物を見つける醍醐味を求めてやってくる奴が多いのさ。まぁ一種のギャンブルのようなものだが」


 蚤の市の会場はコミケの会場のような広さの空間の部屋で、同じようにスペースが用意され、そこで各々好きなように自分の作った作品を展示して販売している。販売者と購入者の距離が近く、至る所で値段交渉や創作談義などの雑談などが繰り広げられており、なんというか熱さを感じさせた。


「わー。いろんなものが沢山あるね!!」

「あ、あれはキラキラしてる!!」

「へんな形のつぼ~」

「肉は?肉はないのか!?」


 子供たちは見たことのないものが沢山あるので目を輝かせている、若干一名以外は。


 落ち込みすぎだろ、キースよ。


「さて、みんなで回ってもいいが、どうする?」

「そうねぇ。子供一人、大人一人でペアを組んでみ回るのはどうかしら?それぞれが見つけた掘り出し物を持ち寄るのよ。あ、イナホは別ね。イナホは誰でもいいから好きな人についていけばいいわ。」

「そうか、それは面白そうだな」

「にゃー(りょーかい)」

「集合場所は入り口近くのここね。時間は二刻後くらいでどうかしら?」

『了解』


 俺たちはそれぞれ分かれて蚤の市を散策することとなった。ちなみに俺のパートナーはキース。イナホはリンネについていった。


 ケモノホイホイを持ってる俺についてこないからって、べ、別に悔しくなんてないんだからね!!


「キースはどんな掘り出し物がみたいんだ?」

「肉」


 尋ねる俺に即答するキース。愚問であった。


 いや肉って言われてもここは蚤の市。食べ物は売ってないんだよ……。そりゃあ外に行けば出店にあるけどさぁ。


 まぁいいか、肉っぽい何かが探せばあるかもしれない。


 そうして探した結果、それはあった。


「にくぅうううううううう!!」

「良かったな」


 見つけたのは漫画肉のクッション?みたいな物。サイズが結構大きくて小学校低学年くらいのキースにとっては抱えるようにして持つほどだった。


 俺はキースの頭をなでてやると、嬉しそうに目を細めた。


 そんな時俺の目に一つの商品が目に止まった。


 それは壺。一見すると何の変哲もない壺だが。一つの特徴があった。商品から何やら気のようなものを発していたのだ。


 ほほう、これはつまり目に竜気を集めて商品を観察してみれば何かわかるのではないだろうか?


 俺は目に竜気を集めて壺を見てみると、その壺は竜気のような青白い気を纏っていた。


「こ、これは!?まるで『HANGER×HANGER』のようじゃないか!!」


 そう、HANGER×HANGERの劇中の競売市で出てくる掘り出し物も同じような反応があるのだ。


 俺はワクワクして竜気を集めた目であたりを見回した。


 すると、大なり小なりはあるが、ポツリポツリと青白い光が立ち昇る商品があちらこちらにあるのが分かる。


 これは勝ったな、ガハハッ!!

 ここからは俺のターンだ!!


 それから俺は竜気眼を使って掘り出し物を買いあらし、ホクホク顔で集合場所へと戻ると、


「私達はこれを見つけてきたわ」

「私達はこれだ」

「俺達はこれだ」


 各々戦利品を提出してきた。


 しかし……。


「お前らちゃんと目利きしたのか!?」


 思わずそう言わずにはいられない物ばかりだった。


 リンネはキュビズムのようなしかし似て非なるよく分からない絵画。カエデはよく分からないが、記録した匂いを再現する魔道具。そしてグオンクはいびつな形をしたワイングラスのような物。


「したに決まってるじゃない!!ケンゴにはこの絵の素晴らしさが分からないの!?」

「主君にはこの道具の素晴らしさが分からないのか!?これで主君の旨そうな匂いを封じ込めてだな……ハァハァ」

「お前にはこのグラスの芸術性がわからんのか!?」


 俺の言葉にプリプリと怒る三人。


「そういうお前は何を買ってきたんだ!?」

「そういうならとっておきを見せてやる。俺のはこれだ!!」


 そういって取り出したのは一冊の本。


 それはいわゆるNTR物のR18の同人誌であった。流石に日本のクオリティ程高いとは言えないが、それは確かにエロ漫画の体を成していた。


 過去の勇者が伝えた文化なのかは分からないが、異世界でこれを見つけることが見つけることができたのは凄いことだぞ!!


 ふふん、これで文句あるまい。


 俺はニヤリと口端を吊り上げた。


「こんなもの子供たちの前に出すんじゃないわよ!!」

「流石にこれはどうかと思うぞ、主君」

「お前流石にこれはないだろ!?」


 しかしなぜか三人からもう反発を受けた上に、リンネに本を没収され、ビリビリと粉々に破かれてしまった。


「うぉい!!なにすんだよ!!」


 俺はリンネに詰め寄る。


 皆にはこの本の素晴らしさがわからないのか!?


「不健全だから存在しちゃダメよあんなの!!」

「あんなの言うな!!あれは俺の国の文化ともいえる本なんだぞ!!」

「ケンゴの国はどうなってんの!?おかしいわよ!!」


 カエデやグオンクも入ってきて、俺たちはしばらく言い合った後一つの結論を出した。


 他人の趣味に口を出さない。


 この誓いを俺達は固く心に刻んだ後、品評会に遅れないようにその場を後にした。

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