第188話 意外な答え

「な、なんじゃああ!?」


 俺の言葉に驚いたデメテルが仰け反って叫んだ。


 いかんいかん。


「コホンッ……おっとすまん。少し興奮してしまったようだ」

「う、うむ」


 俺が取り繕うように咳払いすると、デメテルは困惑しつつも頷く。


 ふふふ、アレナの時はまさかののじゃロリじゃなかったからな。ここにきて出てくるとはやるじゃないか。やはりロリと言えばのじゃロリが出てこないとな!!


「それじゃあ改めて取り掛かってもいいか?」

「うむ。任せるのじゃ。工房はこっちじゃ。ついてくるがいい」

「了解」


 デメテルはマントを翻し―翻しきれてはいないが―、店の奥に向かってマントを引きずりながら歩いていく。俺はその後ろをついていった。


「ここが工房じゃ」

「おお、なんか魔女って感じの部屋だな」


 案内された部屋は全体を見渡せる程度には明るいが魔女が混ぜてそうな大きな釜が置いてあったり、おどろおどろしい薬の入ったフラスコやビーカーのような容器や分厚い本が収まった本棚が置いてあったりして非常に雰囲気がある。


「ほれ、はよせんか」

「お、おう」


 テーブルの奥側に陣取り、催促するデメテルに我に返った俺はテーブルの反対側に付いてとある魔道具の設計図を広げた。


「ふむふむ。見れば見るほど興味深いのう。これは魔法を放ったり、この魔道具そのものが変形したするものなのじゃな?」

「そうだ。魔法が使えない奴でも使えるような魔道具を作りたくな」

「なるほど。魔法が使えない者も、か……。今までそんなことを考える奴はいなかったのじゃ。面白い。じゃが、ここまでしっかりした設計図があるのであればお主だけでも作れるのではないか?」

「そう思って作ってみたんだけど上手くいかなくてな。専門家に聞いてみようと思ったわけだ」

「試作品はあるのか?」

「ああ、これだ」


 俺は見てくれだけはちゃんと作ってあった魔道具を取り出した。


「ほほう。アイテムバッグを持っておるのか。羨ましいのじゃ。さてさて……」


 俺が容量以上の物体を取り出したことで少し羨ましげにしたのもつかの間、その魔法具を手に取り、機能を確かめていた。


「ふむ。確かにこのスイッチを押せば本来は先端に取り付けられた魔石から魔力を消費して魔法が放たれるはずなのじゃが、運とも寸とも言わんの。解体してもいいか?」

「ああ、問題ない。何か分かることがあれば教えてほしい」

「承知したのじゃ」


 それからデメテルは魔道具を分解して機構を確認し始める。


「この文字の意味はなんじゃ?」

「この構文はどうなっておるのじゃ?」

「ここはなんでこういう造りになっておるのじゃ?」


 などと俺に質問をしつつ、ひっくり返したり、覗きこんだりしながら魔道具の隅々まで確かめ、それから古代魔法の付与魔法に関してある程度講義も挟んだ。


「なるほどのう。なんとなくわかったのじゃ」


 しばらく穴が開くほど魔道具を見ていたデメテルが、目を離して姿勢を正し、唐突に呟く。


「ホントか?」

「うむ。お主はどうやら付与魔法のみでどうにかしようとしたようじゃが、複数の機能を持つ魔道具は一つの魔法や技術の実で造られておらん物の方も多い。付与魔法自体がどこまでできるかワシには現段階ではなんとも言えぬが、付与魔法だけ実現するのではなく、刻印や他の技術も併せて使う必要があるのでないか?」

「なるほどなぁ。確かに言う通りかもしれん」


 デメテルの説明を聞いて府に落ちる部分があった。


 確かにイメージとして付与魔法で付与さえすればなんとかなると思っていた。なんかやっちゃいました系ラノベでは大体そんな感じだしな。先入観があって、それでどうにかしようとしたのが失敗だった。今回は専門家に意見を聞いてみてホントに良かったと思う。


「それじゃあ、どうしたらいいと思う?」

「この機能とこの機能は刻印して実現。この機能は元々問題なさそうだから付与でいいんじゃないかのう。後は少しずつ動くかどうか試しながら模索していくしかないのじゃ」

「分かった。手伝ってもらえるか?」

「うむ、お安い御用じゃ」


 俺はデメテルに師事を受けながら、こちらも付与魔法を教えつつ、その日は魔法具づくりに没頭した。

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