第189話 試作品

「んほぉおおおおおお!!試作品だが、完成したぞ!!」

「うむうむ。なかなか得難い経験だったのじゃ!!」


 俺とデメテルはいぇーいとハイタッチして二人で手を取り合って小躍りして喜んだ。


 目指す最終形にはまだまだ至らないが、必要最低限の機能をもった魔道具としては一応の完成をみたのである。


 ふぅ、世界樹を出てからも約束したことだから一人でどうにかしようと思っていたが、にっちもさっちもいかなくなってたから本当に相談してみて良かったなぁ。


 バレッタやアンリ、それにワイス辺りに相談すれば一瞬で解決しそうだけど、こればっかりは出来るだけ自分の力でどうにかしたいというか、流石にチートに頼るのもどうかと思うしな。


 流石に惚れた女との約束は出来るだけ自分が頑張ってどうにかしてやりたいと思うのが男ってもんだろう。


「いやぁ、ありがとう。デメテルのおかげで大分捗った。これなら完全版の完成も目指せるってもんだ」

「気にするでない。妾も新しい知識を得られて僥倖であったわ。それにお主が作った魔道具も非常に興味深い。今後も何かあれば手伝ってやろう。いつでも相談にくるのじゃのぞ?」


 小躍りを止め、気持ちを切り替えて手を差し出すと、デメテルはニヤリと口橋を吊り上げて俺の手を握った。


「ホントか?ありがとな」

「うむ。お主のおかげで色々新しい着想が浮かんできた。妾も久しぶりに研究に没頭するとするのじゃ」

「おう、んじゃまたな!!」


 俺は軽やかな足取りでデメテルの店を後にした。


「ケンゴ、おかえり」

「ああ、ただいま」


 バビロンに行くと、ホクホク顔のリンネが俺を迎えてくれる。


 どうやら満足いくまでロボット動かしてたんだろうなぁ。リンネが満足してくれたらないいことだ。


「くんくん」

「なっ!?どうしたんだ!?臭いのか!?」


 しかし、満足気だった顔が真剣になり、俺の体のあちこちを探るように嗅ぐリンネ。俺も釣られて自分の匂いを嗅ぐ。


 特に臭いということは無いはずだ。しかし、自分では分からない事も多いし、年齢を重ねるにつれ、自分の臭いに鈍感になるともいうから安心できない。


「知らない女の臭いがする……」


 暫く臭いを嗅いでいたリンネが、ふと動きを止め、ポロリと呟いた。


 そっちかよ!!てっきり加齢臭とか汗臭いとかだと思ってたぞ。


「今日グオンクに紹介された魔道具師のデメテルがドワーフの女だったんだよ」

「ふーん。でも普通に臭いなんて付かないよね?」


 俺がデメテルのことを説明するが、疑り深くジト目でリンネは俺を睨む。


 むむむ、まさか感極まって二人で小躍りなんかしたせいでこんな疑いを掛けられるとは……。ここは正直に話すしかないだろう。


「隣り合って一緒に魔道具を作ってたんだ。お互いの体が触れることもあったし、念願叶って魔道具の試作品が完成した時は手を取り合って二人で小躍りしちまったからな。その時に匂いがついちまったんだろうよ」

「一緒に魔道具作りぃ?手を取り合って小躍りぃ?」


 俺の言葉にさらに眉間に皺を寄せるリンネ。


「いやいやいや、やましい事は何もないからな!!それに、遅くなっちまったが、リンネとの約束を果たす為に魔道具店に行ってきたんだ。信じてくれ」

「私との……約束の……ため?」


 俺が慌てて拝むように伝えると、ピリピリとした雰囲気は霧散し、不思議そうにリンネが呟く。


 ふぅ……。どうやら少し冷静になってくれたみたいだな。

 これでちゃんと説明できる。


「ああ、そうだ。リンネでも魔法を使えるようにするって約束したろ?」

「まさか!?」


 俺の説明の続きに思い切り目をリンネが見開いて驚きの声を上げた。


「そう、そのまさかだ。魔道具が完成したんだ!!」

「え!?ホントなの!?」


 身を乗り出すようにしてさらに驚愕するリンネ。


 余程信じられないのだろう。多分本来は魔道具作りにはもっと時間がかかるせいか。


「ホントだ。まぁ期待させてる所悪いが、本当に簡単な魔法を一種類しか使えない試作品だがな」

「ううん……それでも魔法を使えない私でも使えるなんてホントに凄いわ!!ホントにありがとう。約束を守ってくれて……ぐすっ」


 俺が自嘲気味に述べると、リンネは首を振った後、にこりと微笑んで首を傾けた。その頬には一筋に涙がこぼれる。


 こんな笑顔が見れるなら頑張ってきたかいがあるってもんだ。いやしかし、今が始まりだ。こんな所で気を抜いてる場合じゃない。


「泣くのはまだ早いぞ。さっきも言った通りまだまだ試作品。これから実現したいことが全部できる程度にまとめたものを作成していくつもりなんだからな」

「ぐすっ……ふふふ、それもそうね。」


 俺はその涙を右手で拭ってやり、ニヤリと悪い顔で笑っていると、リンネも泣きそうな雰囲気が霧散し、一転して和やかなムードに変貌した一室。


「それで?その肝心の魔道具を見せてもらえるのかしら?」

「もちろん。早速取り出してみせる。その魔どう具とはこれだ!!」


 気持ちを切り替えて手を差し出すと、倉庫から魔道具をとりだした。


「マジマジステッキ4.03だ!!」


 その魔道具を掲げて俺は叫んだ。

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