第184話 黒い悪魔
外部モニターに映し出されたのは虫のような異形の生物。赤黒く、あまり明りのない宇宙では見づらいが、その数は数百匹以上。見た目は一匹いたらニ十匹いると言われる黒光りする人類の敵と言っても過言ではないあいつらによく似ている。
「うげっ!?」
「キモッ!?」
「あんだあのおぞましい生き物は……」
「にゃにゃー(きもちわるーい)」
『こわーい』
その姿を視認した他の面々が各々の反応を見せる。
宇宙に来て早々あんな数の漆黒のGに遭遇するとか宇宙ヤバいな。それにしてもここにはあんな化物がいるのか。よく異世界の星に侵略してこないな。
「あの星には非常に強固な結界が張られていますので、敵性存在は突入しようとしただけで消滅します」
俺の思考を読んだバレッタが間髪入れずに答えを提示する。
「マジか……よくそんなこと知ってんな」
「パーフェクトメイドなので当然です」
さも当然というように答えるバレッタ。
なんだ?パーフェクトメイドはなんでも知ってるのか?
「いいえ、知ってることだけです」
エア眼鏡を手で上げるような仕草をしながらうちのメイドが答える。
相変わらずどこかの委員長さんの真似をするうちのパーフェクトメイド。全作品を見た訳じゃないが、超古代文明時代のアニメに似たような作品があったのかもしれないな。
そしてお気に入りに違いない。
そういえば、ワイスのやつ簡単に取ってきたらいいとか言っていたが、こんな喜色悪い悪魔がわんさかいるならちゃんと言っておけよな。
俺は帰ったら一言文句を言ってやると心に決めた。
「それはそうと撃退は可能か?」
「そうですね、イクスヴェルトを使用すれば殲滅可能です」
なるほどな。でもまだ訓練場で少し動かしただけだ。不安が残る。
「でもまだ多少訓練した程度だが問題ないか?」
「はい、スペックと知識と経験のインストールを考えれば全く苦にもならないでしょう。それにインフィレーネで外に出て生身で戦っても何も問題ございません」
「それは遠慮する」
いや~、あんなおぞましい生物と生身で結界で守られているとはいえ戦うとかないから。ロボットに乗って戦うのもちょっと嫌な気がしないでもない。いやいやロボットで戦うのは楽しみだしなぁ。
「後どれくらいでこの辺りに到達するんだ?」
「5分ほどですね」
「短いな……」
くっ。心を決めるまでの時間の猶予がほとんどない。とはいえ、俺が戦わないと撃退できないのなら実質一択だが。
「はぁ……。それじゃあ、さっさと行って殲滅してくるか」
「ケンゴ、私がいけないのは非常に残念だけど、頑張ってきてね!!」
「主君、今回傍で守れないのは配下として失格だが、機体がないのならどうしようもない。頼んだぞ」
「ケンゴ、ワシも行けるならハンマーで蹴散らしてやるんだが……。行けないからな。頑張ってくれ」
「にゃにゃにゃーん(あるじぃ、気持ち悪いから僕はここで見てるね)」
「うまおじガンバ」
「おじちゃん、よろしく」
「おじさん、頼むね」
「おっちゃん、宇宙肉よろしく」
他の面々もそれはそれは素晴らしい笑顔で俺を見送るつもりだ。
うわぁ、くそ、嫌だといえない雰囲気じゃねぇか。
「はぁ……仕方ない。行ってくるか」
俺はため息を吐いて船の中のドックに向かおうとした。
―ドーンッ!!!!!!
しかし、次の瞬間、幾百を超える光の糸が船から射出され、彼方へと飛んでいく。その光はあっという間にモニター圏内に入り、おぞましい悪魔の集団に着弾し、船を揺らした。
『は?』
その様子を見た瞬間、全員が間抜けな顔を晒し、声を吐く。しばし茫然とその様子を見つめていた俺達。爆発の余波収まったそこにはすでに悪魔たちの姿はなかった。
「え?いやなに?なんで倒してくれちゃったの?」
「いえ、ケンゴ様が行きたい気持ち49%に、行きたくない気持ちが51%でしたので、誠に勝手ながら船の方で処理いたしました」
我に返った俺はバレッタに詰め寄る。
「いや確かに行きたくないなぁとは思ってたよ?でも流れは完全に俺が倒しに行く流れだったじゃん?俺がロボットに乗って颯爽と敵を倒して戻ってくるところじゃねぇか!!」
「申し訳ございません。あれ以上時間が経ちますと他の方々の精神衛生上良くありませんでしたので、誠に勝手ながら対処させていただきました」
「さいですか……」
淡々と語るバレッタに俺は何も言えなくなってしまった。
いや、うん、なんだかんだ言いながら行くのを渋っていた俺が確かに悪いな、うん……。
俺は釈然としない気持ちのまま何も映らないモニターを見つめていた。
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