第185話 完成

「ま、まぁ敵がいなくなったならいいか……。それじゃあ早速バビロンに戻ろう」

「船はどうしますか?」


 なんとか気持ちを切り替え、バビロンに帰ろうとする俺にバレッタが尋ねる。


 確かに船は別に格納庫にある必要はないもんな。

 宇宙にこのままいてもいいわけか。


「それならこのまま宇宙に居てくれ。何かしたいことがあればやっておいてくれ」

「承知しました」


 転移してきた後の眺めが宇宙ってのもおつなもんだろう。


 ということでバレッタには今後は宇宙に居てもらうことにした。


 アダマンタイトやオリハルコンがもっと必要になればバレッタが採取しておいてくれるはずだ。地上でも必要な人がそれなりにいるだろう。市場にあれだけの量を流せば値崩れする可能性があるのでやらないが、グオンクに流通量を確認して一定量放出して需要を満たすのも悪くない。


「それじゃあ帰りますか」

「ええ」

「うむ」

「おお」


 俺は呟くと、リンネ達が続く。


―グゥ


 しかし、帰還ムードの中、どこからか可愛らしい音が聞こえた。


「お腹すいたよ、うまおじ!!」

「私も」

「あたしも」

「俺も肉が食いたい!!」


 音の元を辿ると、子供たちが挙手してぴょんぴょん跳ねながらアピールする。


 確かに今日は朝から奉納してバビロン行って、ロボットに乗って、その後宇宙にやってきてあの黒い悪魔と戦って、と飯も食わずになかなかハードなスケジュールだった。


「そうだな、帰るのは飯を食ったらにするか」

『やったー!!』「にゃー(やったー!!)」


 俺がにこりと笑って答えると、子供たちとイナホは飛び跳ねて喜びを表現する。


 子供たちの喜ぶ姿は思わず目許が綻んでしまうな。


 いつかは俺とリンネにも子供ができるのだろうか……。

 その時はきっとめちゃくちゃ甘やかしてしまうのだろう。


 いつになるのかは分からないが、とても楽しみだ。


 やはり女の子が生まれたら溺愛してしまうのだろうか。

 その時はなんとか嫌われないようにカッコいいパパを目指したい。

 もちろん結婚は認めないぞ!!

 娘が欲しければ、私を倒してからにしてもらおうか!


 と、いかんいかんまだ見ぬ未来へ思いを馳せすぎた。捕らぬ狸の皮算用もいいところ過ぎる。


「バレッタ、忙しくて申し訳ないが、食事を頼む」

「了解しました」


 それから俺たちはバレッタの食事を楽しんでからバビロンへと帰還を果たした。


「ふむ。帰ってきたか、我が至高の主よ」

「帰ってきたか、じゃないわ!!なんだあの黒い悪魔は!!あんなもんがいるなら前もって言っておけよ」

「あのバグズか。あんなもの我が長姉と船があれば何するものでもないであろう?」

「そうだけど!!だけどあの大きさと姿はキモすぎる。身体的には問題なくても見るだけで精神的にやられたわ!!」

「そうであるか。あの造形もなかなか悪くないと思うのだがな」


 さっそくワイスに文句を言ってみるが、どうやら彼女にとってあの黒い悪魔は特に醜い物でもなんでもないらしい。なるほど、そういう考え方なら確かに俺達に何も言わなかったも頷けるな。


 俺はすぐに思考を切り替えた。


「そうか、俺達が気持ち悪くなることが分からなかったならしょうがないな」

「いや、分かってはいたがな」

「分かってたんかい!!」


 絶対悪意あるだろ、ワイスの奴。


「はぁ……これ以上は言っても仕方ないな。それはそうと素材を取ってきたから皆の分のロボットを作ってくれ」

「うむ、承った」


 そして次の日。


「出来たぞ、我が思考なる主よ」

「はっや!!」

「早速見るがいい」

「お、おい待てよ!?」


 バビロンにそのまま泊まった俺達は朝一番にワイスに起こされた。


 俺達は昨日イクスヴェルトがあった格納庫へ連行されると、そこにはカラーリングの違う三つの新しい機体がイクスヴェルトと並んで立っていた。


「なにあれ、おっきい像?」

「どうやって作ったんだろ」

「でかいね」

「あんな大きな肉を食べたい」


 昨日ロボットを見ていない子供たちはロボットを見て興奮している。


 ワインレッドの機体、黒寄りの紺色の機体、渋い暗い茶色の機体って感じだ。それに微妙に細かい部分や装備品が違う。


「赤が姫君、青が隠密殿、茶が鍛冶師殿の機体だ」

「私専用!!」

「うむ!!如何にも私の種族らしい装いで素晴らしいな!!」

「俺も色が気に入ったぜ」


 ワイスが機体を紹介すると、それぞれ目を輝かせていた。


「それじゃあ、早速試運転しましょ」

「奥方様、それがいい」

「そうじゃな」


 そしてすぐに乗ることになった。


「あれはロボットって言ってな。自分で乗って動かせるゴーレムみたいなもんだ」

『いいなぁ』


 俺が説明すると羨ましそうに指をくわえて見つめる子供たち。


 流石に子供を一人でロボットに乗せるわけにはいかないからな。

 専用機は大きくなってからだ。


「それぞれの機体には幼子も乗せられる補助席がついている。乗せてやるがいい」


 そんな子供たちの心情を悟ったのか、ワイスがニヤリと笑って述べる。


『やったぁ!!』


 ロボットに乗れると分かった子供たちは思い切り飛び跳ねた。


 その後、俺たちは訓練場に向かい、満足するまでロボットを動かしていたらその日が終わっていた。

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