第183話 初体験と大漁

 トレーニングルームにやってきた俺達。


「どれどれ?」


 俺は入室してすぐに、部屋に備え付けられたエアコンの操作パネルを高度化したような管理パネルを操作する。メニューの中に重力設定があったので、そこをクリックし、重力をオフにしてみた。


 途端に体がフワリと床から浮かび上がり、移動を自分でコントロールできなくなってしまう。


「お、おお、おぉおおおおおおお!!」

「ええ?なにこれ?どうなってるの?」

「主君!!これは一体何がどうなってるんだ!?」

「なんじゃこりゃあああああああ!!」

「にゃにゃにゃにゃ!?(一体どうなってるの?)」

『うわぁあああああああああああ!!』


 俺も含めて初めての体験に、俺達は驚きと感動、そして困惑の声を上げた。


 皆がてあしをバタバタさせて床に足を着こうとしてみたり、泳いで天井に向かおうとしたり、各々がなんとか自分が望むほうへと動こうと試みるが芳しい成果を得ることが出来ていない。


 しかし、空間には天井があるので、浮かび上がった勢いのままゆっくりと天井に進み、やがて天井に到達した。


「どうだ皆、物凄く面白い体験だろ?俺たちの居る世界、あの星には重力っていう星の中心に向かって引っ張る力が働いているんだが、宇宙にはそれがないんだ。船の内部では床に向かって常に重力が発生していたが、それを今発生しなくさせたから。こんな風に俺たちは浮かんでいる。」


 俺は説明しながら天井をかるーく押して床に降り立った。


「こんな風に壁をほんのちょっと手で押せば移動することも出来る。俺がいた世界の宇宙船には重力を発生させるなんていう超高度な技術はなかったから、いつでもこの状態だったんだ。た~だ~し、くれぐれも「いっだ!!」」


 実演しながら説明を続け、注意点を述べようとしたところで、案の定誰かがやってくれた。


「誰だ?子供たちですら大人しく聞いてるってのに人の話を聞かないのは?」


 俺はそう言いながら声のした方を振り向くと、グオンクが頭を擦りながら、空中を回転しながら漂っていた。


 おそらく激突した後の反発力でまた流されてしまったのだろう。


「すまん」


 全員の注目を浴びたグオンクは頭を抑えながら涙を溜めて頭を下げる。


 これがいい薬となってもう少しちゃんと話を聞いてくれるようになるといいんだがな。


「と、こういう風に壁をいつもの調子で蹴ったりすると、とんでもない速さで壁に激突してしまうから、くれぐれも軽い力で押す程度に留めるように!!」

『はぁ~い』


 反面教師が目の前にいたせいか、皆素直に返事をしてくれた。


「無重力っていうのもなかなか面白いわね」

「うむ。なかなか得難い体験だった」

「ワシはえらい目にあったがな」

「皆楽しめたようでよかった。それは自業自得だろ」


 しばらく無重力状態を楽しんだ俺たちは重力を元に戻して、トレーニングルームの休憩室の椅子に座り休んでいた。


 リンネとカエデは満足げに呟き、グオンクは少しふてくされた表情で頭をさすりながら文句を言うので、冷たく言い放った。


 子供たちはイナホは隣のテーブルでジュースを飲みながら、キャッキャッとはしゃいで先程までの体験を共有している。


『ケンゴ様、採掘が完了しました。倉庫にお越し頂けますか?』


 穏やかな時間を過ごしていると、バレッタから通信が入ったので、休憩もそろそろ切り上げようと思っていた俺達は倉庫へと向かった。


『こちらです』


 倉庫に入った途端、バレッタの声と共に床が動き出す。


 倉庫は広いので管理パネルか端末を使っていきたい場所を指定すると、そこまで勝手に連れて行ってくれるのだ。今回はバレッタが操作して俺達を自分の元へと案内したのだろう。


「採掘及び精錬が完了しております。ご査収ください」


 案内された場所にあったのは、俺よりも大きいサイズのインゴットを積み上げた、アダマンタイトとオリハルコンの山であった。


「いやぁこりゃあ大漁だな!!これだけあれば問題ないだろう」

「はい、皆さまお楽しみでしたので、想定したいた量の三倍ほど集めておきました」


 声を掛けてくるタイミングがやけにちょうどいいなと思っていたら、採掘量を調整して俺達に合わせてくれたとは、本当にバレッタは有能だ。


「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!オリハルコンとアダマンタイトがこんなに沢山!!」


 グオンクが目を輝かせて山に近づいていった。


 地上ではなかなか取れない素材だけに、これだけの量を目にすることはほとんど、いや皆無だろう。職人としてはそんなレア素材が目の前にこれだけあればはしゃぐのも無理はない。


「よし、これで皆の分のロボットが作れるな」

「ええ、楽しみね」

「うむ」


 俺がリンネとカエデに話しかけると、見て簡単に分かるくらいウキウキしているのがわかった。


 ありゃあどんな機体にするか、そして機体が出来た後動かしている自分に思いをはせてるなぁ。


「それじゃあ、早速バビロンに戻ろうか」

「な、なぁ、こんだけあるんだ。ちょ、ちょっとくらい分けてくれてもいいよな?も、もちろん金は払うからよ」

「わかったわかった。後でやるから大人しくしろ!!」


 そんな二人の想いを組んでさっさと戻って機体を作ってもらおうとする俺に、グオンクがバツの悪そうにしつつもにじり寄って懇願してくるので、同意して押し返す。


 こいつはホントに話を聞かないな。


「本当だな?約束だぞ?」

「わかってるって」


 念押ししてくるグオンクをおざなりに相手をしながら、俺達はバビロンへと戻ろうとする。


「ケンゴ様、敵が接近しています」


 しかし、バレッタの発現がその行為を止めさせた。


 どうやら機体はお預けらしい。


 俺はまだ見ぬ敵に気を引き締めた。




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