第182話 あれ?空は?

「地球は青かった……」

「何黄昏て変な事言ってるの?気持ち悪いわよ?」

「うるせ!!」


 人生で一度は言ってみたいセリフの内の一つを呟いていると、皆からジト目で睨まれていた。


 いいだろ!!感動に浸っても!!


「……コホンッ」


 それはさておき、やって参りました宇宙!!


 俺たちは今元いた星の周りをまわるような軌道で飛行していた。


 真っ暗な中に星が放つ光が点々としている空間。それはどこか何千もの蛍の光が舞う森のように幻想的で不思議な場所だった。下から見上げた時とは全くの別世界。光の射しこむ鮮やかな海中の世界と灯篭流しのような非日常的な雰囲気を併せ持ち、視界の目の前に浮かぶ、鮮やかな色を放つ星は心を魅了するには十分な光景だ。


「それであの丸いのが私たちがいた世界なの?」

「そうだ」

「私たちのいた世界も星なの?」

「当然だ。この漆黒の空間。宇宙っていうんだが、俺達がいた世界も宇宙に浮いている星の一つに過ぎない」

「へぇそうなのね。初めて知ったわ。とても綺麗ね……」


 リンネの疑問に俺が答えると、リンネは感心しながらウンウンと頷き、ウットリとした表情で元いた星を見つめていた。


 確かに宇宙なんて知ってるわけないもんなぁ。


 天動説という説があるかは知らないが、中世っぽい世界ならこの星が世界の中心で、その中心の周りを空が回っているっていう考え方が一般的だろうからな。


 地球と同じような太陽の周りを公転する他の惑星があるかもわからないし、星の観測方法とかもよくわからないからなんとも言えないけど、少なくともここにいるメンバーは天動説が普通だと思っているらしかった。


「もうシートベルトを外していただいても大丈夫ですよ」

『わぁーい』


 バレッタの案内で子供たちは皆シートベルトを外して窓、というかブリッジは入ってきた入り口側以外は全面ガラスのような透明な材質張りになっているので、そのガラスのような場所に貼りついて外を眺めて出した。


 俺以外は全員が目に焼き付けようと思い切りガラスに顔を押し付けている様子だ。


 そんな様子を微笑ましく思いながら、俺も側面に近づいて一緒になってしばらく暗闇を明るく照らす青と緑で溢れた世界に目を奪われていた。


「さて、バレッタ。オリハルコンやアダマンタイトはどこにあるんだ?」

「どこにでもありますよ?その辺に浮かんでる大き目の隕石になら大体含まれています」

「はぁ!?ほんとに取り放題じゃねぇか」


 うっかり忘れかけていた目的を思い出し、バレッタに尋ねると、どうやら本当に宇宙にはありふれている素材らしい。


「採掘したいんだが、どうすればいいんだ?」

「船に転送の機能があるので、ご指示いただければ採掘いたします」

「んじゃ頼むわ」

「承知しました」


 バレッタは俺の指示に従って船を動かし、当艦よりも大きな隕石に近づいた。


 一定距離まで近寄るとバレッタは端末をカタカタと操作する。すると、隕石が船の前の空間が歪み、その中に隕石が吸い込まれていった。


 どうやら倉庫かどこかに送ったらしいな。


「後どのくらい集める必要がありそうだ?」

「そうですね。含有量を考えると今の大きさの隕石を百個程度でしょうか」


 俺がバレッタに尋ねると、ピコピコと操作をして隕石に関する情報を見た後、俺に答えた。


「そうか、必要量を集めてもらっていいか?」

「承知しました。お任せください」


 百個だとしばらく掛かりそうだな。

 何か時間を潰すことが出来ればいいんだが。

 ん?そういやぁ、宇宙だってのにこの船には普通に重力があって、特にフワフワしたりすることもないな。


「宇宙は無重力だよな?無重力を体験できるようにできないか?」

「トレーニングルームで重力発生装置の機能を切ることもできます。そちらで楽しまれてはいかがでしょうか?」

「分かった。よーし、お前らもっと面白い体験させてやるからついてこい!!」

『はぁーい』


 俺たちはバレッタに採掘を任せ、俺達はトレーニングルームに移動することになった。


 あれ?そういえば空は?


 思えば俺たちは空を通り越して宇宙に来ていた。


 天空島に行くために船の部品を作ったはずなのにどうしてこうなった?

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