第181話 船の復活

 ロボットで遊んだりなんだりしていたら随分と時間が過ぎていたので、その日はそのまま船に行ってイナホや子供たちと合流して休むことにした。


 そして次の日。


「よく来たな、我が至高なる主。既に頼まれていた部品はできているぞ」


 部品を取りにバビロンに向かうと、既にワイスが部品を用意してくれていたので俺は早速倉庫に送ってから再び船に戻った。


「おかえりなさい。すでに船の改修は完了しております」

「は?」


 俺の脳が出迎えてくれたバレッタの言葉を受け入れるのを拒絶する。


 え?いやいや、送ったの数秒前だよね?

 帰ってきたの殆どノータイムだったよ?

 一体いつ改修したの?


 俺は頭の中で様々な疑問が浮かんでは消え、混乱の果てに間抜け面を晒した。


「いやいやいや速すぎでしょ!?」

「パーフェクトメイドなのでこのくらい当然、です!!」


 我に返った俺が焦ったように突っ込みを入れると、バレッタが体の前で手を組み、体をちょっと傾けて完全無欠の笑顔を浮かべ、髪の毛をサラリと揺らす。


 作り物めいた有無言わせぬその表情に俺は何も言えなくなった。


「そ、それじゃあ早速出発するか」

「皆様もブリッジに向かっておりますよ」

「了解」


 たじろぎながらも俺は早速ブリッジへと向かった。


「おお!!」


 ブリッジは最初に来たときは完全に四人だけ乗れるだけの椅子しかなかったが、その後ろに外が見えるように外側に向かって客席が左右に備え付けられていた。


 これも一瞬で改修したのか?


 俺は恐る恐るバレッタの顔の方に首を回すと、ニコニコと先ほどと変わらない表情を浮かべて居たので、何も言わずに首を元に戻した。


「皆揃っているみたいだな」

「ええ、バレッタが呼びに来たから」

「うむ。空を飛ぶ、というのは初めてだからな、楽しみだ」

「ワシでさえバレッタの動きが全く見えなかった。あ奴はとんでもない技術者のようだな」


 皆に声を掛けると各々が感想を述べる。その様子は初めての経験への期待で頭の中が埋め尽くされているのがありありと分かった。


「お空を飛ぶんだって!!」

「凄いね!!」

「凄い!!」

「空に肉はあるのか!?」


 子供たちは備え付けられた椅子に既にシートベルト付きで座らせられていて、まだ船の格納庫の壁しか見えない中、まだ見ぬ空の世界に思いを馳せている。


 無邪気な子供たちを見るとほっこりするなぁ。


「それじゃあ、早速行ってみるか!!」

「ええ」「うむ」「おう!!」


 俺もわくわくした気持ちを隠そうとせずにニカッと笑って促すと、全員が口をそろえて同意した。


 俺はいかにも艦長が座りそうな位置にある椅子に腰を掛け、リンネは俺の左側にある椅子へ、カエデは一番先頭の席へ、バレッタが案内していた。右側の席にグオンクが案内されるのかと思いきや、彼は子供たちのいない方の客席に座らさせられた。


 グオンクの顔にはなぜか恐怖が浮かんでいたが気のせいだろう。


 うん、俺は何もしらない。


「バレッタ頼む」

「承知しました」


 全員が席に付いてシートベルトをしたのを見計らってバレッタに指示を出すと、バレッタは艦長席のすぐ前のちょっと下の方にある席へと座り、ピコピコといじり始めた。


「打ち上げ準備完了。発射台へ移動します」


 バレッタが呟くと同時に、船が動き出す。とはいえ船そのものが動いているというよりは、床が動いて船を移動させているような感じだ。


 うぉおおおおおおおおおおおおおお!!

 こういうシーンアニメで一度は見たことがあるぞ!!


 正面を向いたまま横へ移動され、壁だった場所が左右に分かれて道が出来、その奥へと向かって流されていく。そして目的の場所に辿り着くと、ガシャコンと船が何かにハマった音が聞こえ、そのまま船が回転して先端が天井に向かう位置まで向きが変わった。


「ハッチ開放」


 天井が開く。それも天井は一つだけでなく、いくつもの隔壁が開くように次々と開いていき、ついに青空が顔を覗かせる。


「打ち上げカウントを開始します。10、9、8、7……」


 いよいよ打ち上げか。宇宙なんて行ったことないからめちゃくちゃ楽しみだ。

 こっちの宇宙と元の世界の宇宙が同じかは分からないけどな。


「皆舌噛まないように口をしっかり閉じとけよ!!」

『はーい』


 俺の指示に皆仲良く大きな返事をする。


「3、2、1……エンジン点火!!」


―シュゴォオオオオオオオオオオオ!!


 和やかな雰囲気もつかの間、凄まじい轟音と共に船が少し振動して凄い勢いで空へ向かって飛び出した。思ったよりもGが掛かる様子は無く、ジェットコースター程もかからない。徐々に青空が近づき、あっという間に地上へと躍り出る。


 俺たちはそのままぐんぐん空を登る。横から見えるのは青と白の世界ばかり。しかし、それもほんの数十秒。俺たちはあっという間に漆黒の空間へとたどり着くことになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る