第178話 浪漫と深まる謎

「それで?何がどうなってんのよ?」


 俺が落ち着いたのを確認したのか、リンネが俺に尋ねる。


「目の前にアレがあるんだぞ!?感動せずにはいられないだろ!!」


 そうだ!!実際に目の前にあんな明らかに二足歩行ロボットってやつがあったら駆け寄らざるを得ないに決まってる。


「あの大きな鉄の騎士の像?がどうしたのよ。ただの像じゃない」


 リンネは俺の言ってる意味が分からないのか、困ったような顔で首を傾げた。


「確かに主君よく分からないぞ?」


 カエデも同様らしい。困惑を浮かべている。


「バッカ!!リンネ、バッカ!!あれの良さがわからないのか!?」

「バカじゃないわよ!!バカっていう方がバカなんだからね!!」


 俺はなんで分からないんだと憤慨しながら詰め寄ると、襟をつかまれて逆にグイっとガクガクと俺を揺らした。


 おおう、頭が揺れるぅ!!


「ハァ……ハァ……ワシには分かるぞ!!あ、あれはゴーレムなんだろ!?」


 そこにドスドスと遅れて走ってきたグオンクが口をはさんだ。その目はキラキラと好奇心を湛えていた。


 流石ドワーフ。何も言わなくても俺の言いたいことが分かるか。

 それでも半分だけどな。


「え!?そうなの!?あんな大きなゴーレムなんてみたことないし、聞いたことがないわ!!」

「うむ。私もそのような話は聞いたことがないな」


 グオンクの言葉に大げさかどうかの違いはあれど、リンネもカエデも一様に驚きを示す。リンネは驚きと共に俺の襟をパッと離してくれた。


「ゲホッ……ゲホッ」


 俺はせき込みながら自分の行為を反省する。ついつい俺の常識で話してしまった。


 そういえばこっちの世界には巨大ロボットやドックなどという概念さえない。だからここがどういう場所でどういう作業が行われるのか想像が及ばないし、あの像が動くということさえ考えつかなかった。


 確かに小さい頃からSFチックな作品を見ていないと、そこまで興味をもてなくても仕方がないか。


 それなら俺が教えて進ぜよう。


「いいか。動くだけじゃないぞ?あれはな、自分で中に乗って動かすことができるゴーレムのようなものだ?なぁそうなんだろ?」

「うむ。前所有者が造り上げた最高傑作『イクスヴェルト』。胸にあるあの球体の中に乗り込み、思考通りに操ることができる二足歩行型の機動兵器である。発想、造形、機能、どれをとっても究極の逸品であることは間違いないぞ」


 俺が説明し、ワイスに同意を求めると、正解とばかりに頷きながら尊大な態度で説明してくれた。


「うほぉおおおおおおおおお!!『イクスヴェルト』カッコよすぎる!!」


 同意された俺は改めて目の前のロボットが間違いなく、人が乗り込んで操ることができる二足歩行型の機動兵器であることを認識して、ガッツポーズを決めながら奇声を上げた。


「確かに凄いとは思うけど、あそこまではなれないわね」

「そうだな、奥方様」


 奇行に走る俺をリンネとカエデが冷めた目で見ている。


 いいんだい!!理解されなくたっていいもん!!

 俺がその価値を分かってればそれでいいだもん!!


「うぉおおおおおおおおおお!!あのゴーレムに乗って動かせるのか!?それはめちゃくちゃ面白そうじゃねぇか!?」


 そんな俺にもグオンクという理解者が居た。


「おお……分かってくれるか友よ!!」

「ああ、もちろんだ!!女にはこの良さが分からないんだ!!ガハハハッ」


 俺とグオンクはハイタッチをして肩を組んで喜びを分かち合った。


 やっぱりドワーフなら分かってくれると思っていた。


『作った方は女性ですがね』


 そこに容赦のない突っ込みがはいる。


 流石パーフェクトメイド鋭い!!


 それにしても前所有者っていったい何者なんだ?

 明らかに俺たちの文化や浪漫を理解している節がある。

 めちゃくちゃ進んだ技術を持つ国に生まれたとしても果たしてここまで似通うことがあるだろうか?

 やはり転生者か転移者なのか?


『そのうちわかるでしょう』


 頭の中で考えた俺の疑問にバレッタが意味深に呟いた。


 まぁそのうち分かるならその時でいいか。

 特に分からないからって困る事でもないし、俺に今の生活を与えてくれた大恩人だ。

 知る時が来るのならその時が一番いいんだろう。


 頭の中でそう結論付けた。


「私も当然あの前所有者が造り上げた漆黒の聖騎士ともいえるあの機体のすばらしさを理解してるぞ、我が至高なる主よ」

「ワイスも入るか?」

「うむ」


 二人で肩を組んで小躍りしている俺達の前にワイスが近寄ってきたので『機動兵器最高だろ同盟』に誘うと、乗り気で俺と肩を組み、三人で踊ることになった。


「本当に意味が分からない……」

「私もだ、奥方様」


 俺たちを見つめる二対の目。

 二人の姿がなんだか煤けて見えるな。


「そういえば、我が至高なる主よ。お主は鍵を持っておるな?」


 小躍りしていた俺達だが、ワイスがふと足を止めるに釣られ、俺とグオンクも足が止まり、お互いに少し離れる。


 そして思い出したようにワイスが俺に尋ねた。


「鍵?」

「そうだ。イクスヴェルトを起動するのに必要な鍵だ」

「うーん……」


 ワイスに言われた鍵を思い出そうとするが、一向にそれらしいものが思い出せない。倉庫にも鍵らしきものはなかった気がする。


「鍵らしい鍵は持っていない気がするが?」

「確かに外見はそうかもしれぬ。確か起動キーの名は『エクスターラ』。漆黒の銃のような形をしている」

「なんだと!?」


 俺が首を傾げて応えると、思わぬ答えが返ってきて、俺は声を荒げてしまった。


 まさかエクスターラが起動キーだとは……。

 確かに名前が似ている所もあるし、言われてみればそうっぽい気もするな?


 でもなんで機動兵器の名はイクスなんだろうな?

 エクスで統一しても良いと思うけど。

 まぁ天才の考えなんて俺には分からないか……。

 でも意外と語感がこっちの方が良かった、とかそんな程度かもな。


『おっしゃる通りです』


 俺が頭の中で脱線していると平然とバレッタが介入してきた。


 それにしてもその天才は案外俗ぽいのかもしれない。


「確かに持っているぞ」


 俺はエクスターラを倉庫から出してみせる。


 すると、イクスヴェルトの胸にある球体からエクスターラに向かって真っ白な光の細い線が伸び、お互いに繋がると、俺の体が発光したと思ったら視界が消えた。


「ケンゴ!?」

「主君!?」


 消える寸前にリンネとカエデの悲鳴のようなものが聞こえた気がした。

 

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