第179話 イグニッション
「ここはどこだ?」
どうやら真っ暗な場所に転移したようだ。あちこち触ってみるが、体に特に異常はない。
―ブーンッ
電子機器を起動音らしきものが耳に届き視線を上げた。
『機動キーを挿入してください』
無機質な声が空間に広がり、辺りが二本の非常灯らしき光で照らされて、淡い光とはいえ周りの状態がよく分かるようになった。
俺は球体の空間にいるらしい。多分ここはイクスヴェルトの中だな。
うほぉ!!もう乗っちゃってるの俺!?
車や飛行機などの椅子をさらに高度な技術を詰め込んだような物に座り、目の前にはウィンドウが浮かび、その下には操作盤等の計器類らしき装置がある。
ひじ掛けの先の両手が来る辺りには水晶玉のようなものが備え付けられていた。
おそらくこれで操作するのだろう。
そして右足の横辺りにこれでもかと点滅して主張している、何かを挿入するソケットらしき空間がある。
エクスターラを挿入したらイクスヴェルトが起動するってことだよな?
―ゴクリッ
思わず喉が鳴る。
マジか!?マジなのか!?
俺が機動兵器に乗れるなんて!?
夢を見てるんじゃないだろうか!?
そう思うのはこの世界に来て一度ではないが、ロボットは憧れの中でも特に強い憧れた。しかし、叶うはずのない願いとは分かっていても憧れずにはいられない気持ちがある。
それが今まさに叶おうとしているのだ。
緊張しても仕方ないだろう。
『機動キーを挿入してください』
再び無機質な声に促される。
俺は倉庫からエクスターラを取り出し、恐る恐るソケットに挿入した。
『機動キーの挿入を確認。所有者情報を確認。設定をフォーマットします。……完了。所有者情報の更新を行います。……完了。起動シーケンスを実行します』
ソケットに収まると、ソケットから青白い光が地面に向かって電気信号のように走っていく。非常灯程度の明るさだった室内がパッと明るくなり、計器類にも電源が入ったように光が灯る。
それと同時に曇って見えなかった球体が壁面が透明になり、外の様子がはっきりと分かるようになった。
「ケンゴはどこに行ったのよ!!」
「主君はどこに行ったのだ!!」
「だからイクスヴェルトの中だと言っておろうに。話を聞かぬか、花嫁様に、護衛騎士よ」
外の様子が見えた途端、球体の外にリンネとカエデがワイスに詰め寄っている。
どうやら心配かけてしまったらしい。
『リンネ、カエデ俺は大丈夫だ!!』
俺は念話で呼びかける。
『ケンゴ!?無事なのね?』
『主君大丈夫なんだな?』
『ああ、問題ない』
二人は突然の念話にビクリと肩を震わせたが、我に返ってワイスに詰め寄るのを止めた。
『だから言ったであろう、何も問題ないと』
『そ、そうね。急にケンゴの姿が消えたから気が動転していたわ。ごめんなさい』
『う、うむ。私も主君の香しい匂いがしなくなってとても不安になったのだ。すまない』
シレっと念話に混ざってくるワイスに、言い訳をする二人。リンネはいいとして、カエデの言い訳はちょっとヤバいような気がしないでもない。
『ぐわぁあああああああああああ!?』
『ケンゴ!?』
『主君!?』
しかし、次の瞬間に体に激痛が走る。
一体なんだ?何が起こっている。
『搭乗者に当機の知識のインストール完了。初期設定を終了しました。以後、ご指示があれば何なりとお申し付けください』
その答えはイクスヴェルト内の声ですぐに分かった。
俺の頭の中にイクスヴェルトに関する操作方法などの知識がインプットされたのだ。急激に詰め込むため、痛みが走ったのだろう。
『だ、大丈夫だ。問題ない』
『ほんとなんでしょうね?』
『ああ、ホントだ』
うぉおおおおおお!!
遂に!!遂に俺は!!
二足歩行の機動兵器を手に入れた!!
早く動かしてみたいぞ!!
『ワイス、これを動かせる場所はあるか?』
『隣が訓練場になっているぞ、我が至高なる主よ』
『そこに案内してくれ』
『承った』
俺は遂にイクスヴェルトの一歩を踏み出そうとしていた。
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