第127話 砂の城

 サンオイルを塗り終わった後、リンネ達はそのまま肌を焼き始めた。


「主君、では行ってくる!!」


 カエデは訓練と称して近場を泳いでくると言って海へと潜り、犬かきというか猫かきというかでバシャバシャと時計回りに泳ぎだしていく。


 凄いスピードだ。

 まぁ沖に出ずにぐるぐる回るのなら大丈夫か。


 さて……俺は何をするか。


 ふと子供たちが砂に穴を掘っているのが目に入った。


 そうだ城を作ろう!!


「おーい。砂で城をつくらないか?」


 俺は子供たちに近づいて提案する。


「お城?」

「作れるの?」

「作るぅ!!」

「肉がいいぜ」


 一人を除いて賛成を貰ったので皆で城を作ることにした。少し大きめの底の抜けたバケツのような入れ物を人数分倉庫から取り出して砂場に置く。


「まずはこの中に海水と砂を入れて土台を作るぞ」

『はーい』


 皆でせっせと砂を掘ってバケツモドキの中一杯に入れ、海水を足してしっかりと圧をかけて固めていく。しっかり固まったのを確認して入れ物を外す。


「おお、綺麗に抜けたな」

「すごーい」

「キレイ」

「型が取れてる」

「チョコみたいだ!!」


 相変わらず一人だけ食べ物にやたらとこだわるキース君。それ以外の子は純粋にきれいな方が取れたことにはしゃいでいる。


 確かに個包装されたチョコみたいに見えなくもないけどな。


「そしたら次は少し小さな入れ物をその上に乗せてまた同じことを繰り返すぞ」

『はーい』


 それから俺たちは二回ほど同じことを繰り返し、四段くらいの塔のようなものを作り出した。


「それじゃあ次にこの解体部分を削ったり、屋根を付けたりして、一人一人の城を作ってみろ」

『はーい』


 俺も皆と一緒に自分なりの城を作り上げていく。


 ここに階段を付けて、ここに窓、屋根はこんな感じで……。


 童心に帰って砂遊びをしているとなんだか心が現れるような気分になる。


 一時間ほどだろうか。


 ようやく自分の城が完成した。城、というよりは四段の塔みたいな出で立ちになったが。


「俺はできたけど、そっちはどうだ~」

『できた~』


 俺が各々に尋ねると、元気な声で返事が返ってきた。


「お~、みんないい感じだな!!」

「えへへ」

「こんなお城に住みたいの」

「自信作だよ」

 

 俺がみんなの城を褒める。三人は年相応と言った感じの、絶妙に歪んだというか個性的な造りの塔モドキが完成した。


 しかし、明らかに毛色が違う城を作ったやつがいる。


「どうだ?俺の城もいいだろ?」

 

 ふふんっと腕を組んでどや顔しているのは狼獣人のキースだった。


「は?」


 俺は間抜けな声を上げたのも仕方ないと思う。


 だってそこにあったのは伝説の骨付き肉だったんだもの。


 バケツで造った土台はどこ行った?

 形状が違いすぎるし、骨の部分が何で浮いているのかも不明だ。

 

「これ城なのか?」

「そうだ、肉の城だ!!」

「そ、そうか。まぁそれも一つの答えだな、うんうん」

「いいだろ?」

「ああ、とっても旨そうだ!!」

「やったぜ!!」


 そうだな。せっかくの子供の個性を大人がつぶすのは駄目だよな。


 肉の城を褒められてはしゃぐキースを見たそう思った。


「それじゃあ、俺がもっと凄い城を見せてやるぞぉ!!」

『わーい!!』

 

 みんなと作った城がひと段落したので、今度は全力で城を作って見せる。魔法で砂を集め、水を含ませて固め、一辺二メートルくらいの正立方体が完成した。


『おおー!!』


 凄いだろ?

 ふふん、これからだぞ?


 出来上がった立方体を風魔法で削り形を作っていく。


 イメージは眼鏡をかけた少年が通い始める魔法学校だな。


 集中して細かい部分まで削り取って完成だ。


「どうだ?凄いだろ?」

『すっごーい!!』

「そうだろ?そうだろ?」


 自慢げに子供たちの方を振り返った俺。目を瞑ってウンウンと頷きながら皆の称賛に浸ろうとした。しかし、それは脆くも崩れ去ってしまった。


『バレッタねぇのお城!!』

「は?」


 意味不明な言葉に俺は石になった。


 我に返って目を開けると、子供たちは俺の城なんて全く見ておらず、それどころか近くにもいなくなって、俺の城よりも奥の方にある建造物の所ではしゃいでいた。


 一体いつの間に?

 移動したのか、そして建造物ができたのか。


 そこにあったのはガチで人が住めそうな大きさの巨大な城であった。シンデレラなお城っぽい感じで、上品な印象だが、やはりその大きさ故に威圧感のようなものを感じる。


 そしてその建物の隣にはすっかり小麦色になったバレッタとアンリと、テスタロッサが立っていた。三人はこちらを見てニヤリと笑った。


「ちくしょぉおおおおおおおおおおおお!!」


 俺は天に向かって咆哮を上げた。


 その後、この城はしばらくの間形を残し、港町の名物になるのだが、それを俺たちが知ることはなかった。

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