第128話 クラーゲン討伐作戦(名もなき冒険者Side)

「これからクラーゲン討伐作戦を開始する!!」


 港町アールスデンの冒険者ギルドのギルドマスターが声を張り上げる。


 クラーゲンっていうのはここ数日の間にやってきた巨大な海のモンスターだ。そのモンスターのせいでここ数日の船の運航が滞って物流に支障が出たり、別の大陸からやってくる船が沈められたりして被害が出ていた。


 あまり長いことこの状況が続くとこの街も貿易してる先の国にも被害が大きくなる。だから、出来るだけ早くクラーゲンを倒す必要があった。


 とはいえ、クラーゲンは単体でSランクに相当するモンスター。陸地ならまだしも海上では低ランクの冒険者がいくらいたところで役には立たない。それどころか、船に乗れる数に制限があるため、少数精鋭で討伐に向かう必要がある。


 ここに集められたのはBランク以上の冒険者たち。Bランクが三十人とAランクが十人だ。これだけいれば通常のSランクモンスターなら問題ない戦力なのだが、いかんせん船の上での戦闘のため、こっちが明らかに分が悪い。


 しかし、今この街にいる高ランク冒険者で参加できるのはこれで全員だ。戦力をある程度残す必要があるため、全員が町を離れるわけにもいかない。それにこの街を拠点にしている冒険者でも依頼などで街を離れていることもある。


 どうしても今以上の人数を集めるのは難しかった。


「作戦はこうだ。俺たちはまず囮の船を出し、その船にクラーゲンをくらいつかせる。今のところ100%の確率で一番先の船が襲われている。まず間違いなくくらいつくだろう。その後、魔術師による魔法の一斉射撃で先制攻撃を行い、怯んでいる間に前衛職たちが別の船でクラーゲンに近づいて全力攻撃を行う。前衛は攻撃が終わり次第、止めを刺せそうなら刺し、難しい時は撤退してこい。分かったか?」


 ギルドマスターから作戦の説明が行われた。


 海の上となると作戦の選択肢は少ない。

 おおよそ予想通りの戦闘内容だ。


『了解!!』


 全員内容を理解するように頷いた後、返事をした。


「では出発だ!!」


 ギルドマスターが号令によって俺たちは直ちに港に向かい、準備されていた船へと乗り込んだ。先行するお取りの船が出発し、少し距離が空くまで俺たちはしばらくの間待機だ。


「はぁ……まさかクラーゲンと戦う羽目になるとはなぁ」

「ホントだよな。でも緊急依頼だからしゃーない」

「まぁなぁ」


 顔なじみの冒険者と俺は甲板に座り、船べりに背を預けて愚痴を吐く。出発まで少し時間がある。


 こういうスキマの時間はどうしても気持ちが切れがちだ。


 しかし、俺たちもプロだ。ここでしっかり力を抜いておいて、作戦の時にしっかり力を発揮するように切り替えるのにはもう慣れている。


「お、どうやら出発らしいぜ」

「そうらしいな。装備のチェックでもしておくか」

「そうだな」


 クラーゲンの居る海域まで数キロ。その間に装備や自分の状態の最終チェックを行っておくことにした。


 体調・体力・魔力問題なし。

 武器と防具問題なし。

 回復手段問題なし。

 切り札の逃走手段、問題なし。


「おい、どうやら着いたようだぜ」

「そうみたいだな」


 諸々の確認が終えると、あわただしく他の冒険者が動き始める。


「聞いてくれ。今回の作戦で指揮を執るAランク冒険者のフリームという。今回は俺の指揮に従ってもらう。Aランクパーティ『蒼の炎』は中央に……」


 Aランク冒険者のフリームは、20歳と若いながらもAランクに至った魔術師で、天才と呼ばれる部類の冒険者だ。もうすぐSランクに上がるのではないかともっぱらの噂だ。


 彼はテキパキと俺たちに支持を出していく。彼の指示に従い、俺たちは持ち場へと散っていった。


「諸君!!それでは合図が来たら、俺の号令の元、一斉攻撃を開始する。準備をしておいてくれ!!」

『了解!!』


 囮の船が数百メートル程先を進んでいる。


 そしてその時が来た。


「よし、くらいついた!!」


 フリームが思わず叫んだ。


 クラーゲンが前の船に絡みついているのが見える。海底から浮上し、体を日の下にさらしている。


 後は船を動かしている最低限の乗組員が脱出し、合図がくれば攻撃開始だ。小舟に降りた乗組員たちが必死に泳いでこちらの方にやってくる。


 クラーゲンは船を海に引きずり込むことに夢中になっていて、小舟に気付く様子はない。


 こちらもクラーゲンが襲った船まであと八十メートルほどのところまでたどり着いている。ここから自身の最大魔法でクラーゲンを狙うのだ。各々が詠唱を行い、いつでも魔法を発動できるよう状態にしておく。


 そしてクラーゲンから四十メートル程小舟が離れた時、小舟から合図が発せられた。


「よし、合図が来た。いくぞ、一斉攻撃かい……」


―ザザザザザザザーンッ!!


 フリームの号令に従い、俺たちが攻撃を開始しようとしたその時、轟音と共に、クラーゲンと船は青白い斬撃のような光に飲み込まれて消えた。


 何を言ってるのか分からないと思うが、俺も何を言ってるのか分からない。


『はぁ!?』


 俺たちは意味が分からず驚愕の声をあげるしかなかった。

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