第123話 スイカ割り?

 俺が出したのはスイカだ。


 そうスイカ割りをやるつもりだ。


 やっぱり海に来たらスイカ割りをやらないとな!!

 俺はやったことないけどな!!

 ぐすん、ぼっちだったのがバレちゃう!!


 いや大事なのはいまだ。


 今スイカ割りをやれば、俺は生涯スイカ割りをやれなかった男という称号を破棄することができる。


「うまおじ、それなに?」

「なになに?」

「へんなもよう~」

「くんくん、これは甘い匂い。食べ物に違いない」


 子供たちが俺の出したスイカに興味深々に集まってきた。食べ物ばかりに興味を示す狼獣人のキースはここぞとばかりに反応する。


 全くしょうがない子たちだ。


「これはスイカという果物だ。しゃきっとした歯ごたえと、水分と共にあふれる甘味が美味いんだ」

『食べたーい!!』


 俺がスイカを片手で持ち上げ、ニヤリと笑ってスイカのうまさを説明すると、子供たちは目をキラキラさせてせがんでくる。


 くっ、そんな曇りなき眼で俺を見ないでくれ!!

 負けそうになる。

 だがしかし俺は負けない!!


「ダメだ。これはスイカ割りをしてから食べるやつだからな。まずはスイカ割りをやってからだ」

『えぇ~!?』

「えぇ~じゃない。やったら食べられるんだから我慢しろ」

『ふぁーい』


 子供たちが喚くが、なんとか宥めた。


「それで、スイカ割りって何なのかしら?」

「おっ。よくぞ聞いてくれました。」


 そんな時、リンネが尋ねてきたので、俺は意気揚々とスイカ割りについて説明した。


「へぇ。三半規管を乱し、視界を閉じた状態でスイカのある所までいって棒でたたくのね。中々面白そうじゃない」

「ふむ。平衡感覚が狂い、視界の無い状態での戦闘訓練か?楽しみだ」


 リンネとカエデはやる気満々だ。


「私たちは見学してますわ。目隠し等は意味をなさないので」

「そうですね、お姉さま」

「そうだな、姉貴」


 一方でバレッタ達アンドロイド組は視界を閉じようが何しようが、完全にスイカの位置を把握できてしまうので辞退するようだ。


 まぁそうだよな。

 クラクラして見えない状態でやるから楽しいのであって、丸見えでクラクラもしないなら何の意味もないしな。


「お前たちはやらないのか?」

『やるぅ~!!』


 返事が大人たちばかりだったので、子供たちに問いかけると、待ってましたと言わんばかりに元気な声で返事があった。


「それじゃあ、まずは子供たちからだ」


 俺は海の前くらいにスイカを置くと、俺は倉庫からこんな時にピッタリのアイテムと棒を取り出した。


 その名も!!


「ご都合目隠し!!これを付けて、立てた棒に頭をつけて10回回ってから、スタートするんだ。分かったか?」


 ご都合目隠しは、視界を見えなくし、さらに超人や亜人の持つ都合の悪い感覚を封じてしまうという、なんともご都合主義な目隠しなのだ。


『はーい』


 俺の説明に子供たちは理解の表情を浮かべて返事をし、順番にスイカ割りに挑戦していく。


「それじゃあ、リリからな」

「うん!!」


 しかし、子供たちは誰もスイカを割ることが出来なかった。唯一キースは匂いでスイカの匂いでたたくことはできたが、まだ幼いため力が弱く、割ることが出来なかったのだ。全員が悔しそうな顔をしていた。


 いや、ご都合目隠しで嗅覚も封じてたはずなんだけど、キースの奴なんで匂い分かるんだ?何かヤバい物を見つけてしまったような気がするが、これ以上追及するのはやめておこう。


 俺は考えを心の奥に仕舞い込んだ。


「次は私ね!!」


 満を持して、リンネの番がやってきた。


 目隠しを付けて、リンネとカエデはハンデとして五十回ほど全力で回転してからやってもらうことにした。


「はぁああああ!!」


 リンネはスイカを叩く棒に額をつけて、超高速で某の周りを回った。


 回転している間に突き出されたお尻が丸見えで最高だった。

 心の画像フォルダにしまっておこう。


「あとでリンネ様に報告しておきます」


 止めてくれ!!


 バレッタが耳元で小声でつぶやくので強く願った。


「ふぅ仕方ありませんね」


 ヤレヤレと呆れた声を出しながらも報告はやめてくれるらしい。


「カエデさんに報告します」


 それも止めてくれぇ!!


「よし、お、終わったわ!!」


 バレッタに遊ばれている間に、リンネが回転し終わったらしい。


 ふらふらしている。


 これならリンネもスイカを割るのは難しいかな。


 しかし、その予想は辛くも裏切られてしまった。


「ふふ、まっすぐ歩けないならここから切ればいいじゃない!!はぁあああああ!!グラヴァ―ル流 奥義 飛竜!!」 


 リンネが飛ぶ斬撃を放ったのだ。


 いやいやそれ駄目なやつでしょ。


 斬撃は砂浜を切り裂きながら進み、スイカに見事に命中した。スイカは綺麗に真っ二つにぱっかりと割れる。そしてゴロンとシートの上へと転がった。


 しかし、斬撃の勢いは止まらない。スイカを通り抜け、海に直撃した。


―ザザザザーンッ


 海すらも五百メートル程真っ二つに割った。


 しばし、沈黙がその場に降り立つ。


「どうだったかしら?」


 リンネが目隠しを外して俺たちの様子を窺った。


「うぉおおおおお、すげぇ!!リンネ姉ちゃん、はんぱないな!!」

「かっこいいぃいいいい!!」

「めっちゃすごかった!!」

「早く食べたいぃいいいいい!!」


 子供たちがリンネに群がってお祭り騒ぎをし始める。


―ザザザザーンッ


 そしてその時、海が割れた部分に水が入り込み、元に戻った。


 こちらに波が来たのでインフィレーネで防いでおく。


「ふふふ、当然よね!!私はSSS冒険者なんだから!!」


 子供におだてられて簡単に調子に乗っているリンネ。


 ここはひとつ男の威厳を見せるべきところでないだろうか?


「ほほう。海割りか。これは面白そうだ。修行の成果を見せてやろう」


 俺が考えている間に、カエデが前に進み出で、リンネから目隠しを受け取り、棒に頭を付け、回りだした。


「はぁああああ!!」


 リンネと同様に超スピードで五十回回転した後、カエデは構えをとった。


「とくと見よ!!裏黒猫忍術『絶影』!!」


 棒が振り切られると同時に、黒い刃が海に向かって飛んでいく。


―ザザザザーンッ


 リンネと同様に海を割りながら刃が突き進む。二百メートル程進んだところで刃が消えた。


 リンネには距離も太さもまだまだ及ばないが、完全にカエデも立派な人外であった。


「ふぅ、どうであった?」


 リンネと同じように目隠しを外して海を確認するカエデ。


「ふむ、やはり奥方様には遠く及ばぬか」

「ふふふ、カエデもなかなか筋がいいわ。まだまだこれからよ」


 残念そうにするカエデにリンネが慰めるように声を掛ける。


「姉ちゃんもはんぱないな!!」

「ねえね、かっこいいぃいいいい!!」

「めっちゃすごかった!!」

「まだ食べられないのぉ!!」


 そして二人を囲む子供たちも大興奮して二人に絡んでいた。


 いやいや、これはやはり俺も意地を見せないとな。


「次は俺がやるぞぉ」

「主君、目隠しと棒だ」

「おう」

『がんばれぇ!!』


 子供たちの声援を受け、俺はカエデから目隠しと棒を受け取って二人と同じ位置に立って、目隠しを装着してフゥーッと息を吐いた。


 いく!!


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺も二人同様に全力で五十回棒を額に着けて回る。


 これ思った以上にヤバいな。

 めっちゃクラクラする。

 あいつらよくこんな状態であの技を打てたな。

 でも俺も負けるわけには行かない。


「よ、よし、やってやるぜ!!」


 ふらふらになりながら回り終えると、俺は習得した気を解放した。


 俺の周りに青白い竜気が立ち昇る。


 辺りから人気が離れるのを感じたが、気にしてる場合じゃない。


「はぁあああああああああ!!龍功飛竜!!」


 龍功拳を教えられた竜気の扱い方とグラヴァ―ル流の飛竜を合せた技を放った。


『きゃああああああああああ!!』


 その直後に、全員の悲鳴が上がる。


「ど、どうした!?」


 俺が目隠しをとって辺りを確認すると、俺から何十メートルか離れた場所で砂まみれになっているリンネ達がいた。


 そして俺が放った竜気纏った『飛竜』は海を何十メートルもの幅でえぐりながら突き進み、数百メートルを超えても勢いは止まらない。


 斬撃は結局見えないくらいまで海を切り裂いてから消えた。


「全くもう、やりすぎよ!!」

「流石にしゃれにならんぞ、主君」

『おっさん、やりすぎ、めっ!!』

「すまん!!」


 砂だらけになったリンネ達が正気を取り戻すと、俺に向かってプリプリと怒るので、俺は全力で土下座した。


 俺たちはその後、めちゃくちゃになった浜辺を元に戻してから、皆で座って仲良くスイカを食べたのであった。


『あまぁああああああああああああああああい!!』


 ちなみに最初のスイカもカエデと俺が切る前にきちんと回収して、皆で美味しくいただきましたとさ。

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