第124話 ビーチボール

 スイカを食べ終わり、適当なジュースを飲みながら休憩をはさみ、今度は全員で遊ぶことにした。


 俺はまた倉庫からあるものを取り出す。


 なにかというとビーチボールだ。


 海に来たらビーチボールでバレー的な遊びもやらないとな!!


「これは柔らかいボールだ。ほら持ってみろ」

「はーい」


 俺は狸獣人ルーンにビーチボールを持たせてやる。


「あ、柔らかい」


 ルーンは両手で押しつぶすようにしながらボールの感触を確かめた。


「んで、このボールはこうやって遊ぶ」


 ルーンにボールを返してもらい、俺は上に放り投げたボールをレシーブの要領で上に弾きあげ、何度か繰り返す。


「今は俺一人でやっているが、こうやって弾いて誰かの所に飛ばし、ボールが近い所に来た人は俺がやったように腕で受けて、また誰かの所に飛ばすんだ。それで落とした人が負けって感じのゲームだな。とにかくまずはやってみよう。5メートルくらい離れて丸を作ってくれ」


 リフティングのようにボールを何度も上に跳ねながら説明を終えると、俺はボールをキャッチして移動を開始した。最初から理解していたアンドロイド組の、見た目年齢が近いテスタロッサが子供たちを誘導して上手い事全員で円を作ることができた。


 子供たちにはカエデとアンドロイド組がサポートに着くようだ。


 初めてだからなそれもいいだろう。


「それじゃあ行くぞぉ」


 俺がボールを放り投げてレシーブで子供たちの方へと飛ばした。


「リリちゃんきましたよ」

「う、うん」

「ボールに合わせてこうやってこうです」


 ボールはリリの方へと飛んでいく。それに合わせてリリに見せるように構えをとってやって見せるアンリ。


「えいっ」


 アンリを真似するように構えを取って、ボールが手元に来たのに合わせてレシーブをする。獣人だけあって身体能力が高いのか、初めてにしては上手く弧を描いてリンネの方に飛んでいった。


 ちなみに子供たちに飛んでいくボールは俺が古代魔法で風を起こし、ゆっくり正面にくるように調節している。もう少し体が大きければ思った通りに返せるだろうが、今は中々難しいだろうからな。


 子供たちも徐々に慣れてバレッタ達のサポートも必要なくなると、全員がばらけてビーチボールでの遊びを楽しんだ。子供たちは遊び疲れてしまい、パラソルの下で横になってお昼寝することになった。


「それじゃあ、ビーチボールの本当の楽しみを始めようか」


 子供たちがスヤスヤと眠る姿を見つつ、リンネの方を向いて、片手でビーチボールを持ち、俺はニヤリと口を歪めた。


「え、ああやって楽しむものじゃないの?」


 俺の言葉が思いがけないものだったのか、リンネは目を丸くして尋ねた。


「あれも一つの楽しみ方だが、こっちはもっと楽しい。リンネやカエデのように体を動かすのが得意なタイプはこっちの方が好きだと思うぞ」


 もちろんああやってキャッキャウフフするのも一つの楽しみであることは間違いない。しかし、もう一つの遊びの方が白熱するに違いない。


「へぇ~、どんな遊びなのかしら?」

「私も気になるぞ主君」


 俺の様子を見て、リンネとカエデもワクワクしてきたようだ。


「バレッタ、アンリ、テスタロッサ。頼む」

『わかりました(わかった)』


 俺は倉庫からポールとネットを取り出して砂浜に突き刺す。バレッタ達は性格にコートの枠を砂を掘るように描いた。


 何をやるかっていうと、つまりビーチボールでやるバレーだな。


 俺とアンドロイド組が2対2に分かれ、実際にやりながらどういう風に競技を行うかを説明すると、リンネとカエデのやる気がさらに上がった。


 俺たちは俺とリンネ、カエデとバレッタに分かれて試合を始める。アンリとテスタロッサは体を動かすのは特に好きじゃないと辞退したからだ。


「それじゃあ行くわよ!!アルティメットバーニングサーブ!!」

「はぁ!?」


 リンネの意味不明な掛け声に俺は味方なのに素っ頓狂な声を出してしまった。直後に燃えるようなビーチボールが凄い勢いで相手のコートへと飛んでいく、本来風をもろに受けてふらふらと飛ぶビーチボールではあるが、普通のバレーボールとさして変わらないように飛んでいき、回転で相手コート内にきちんと落ちるような弾道だった。


「奥方様なかなかやるな。しかしその程度なら私でも受けられる!!すべてを吸収する闇影レシーブ!!」


 素早く弾道の下に潜り込み、レシーブの構えを取ると、その手元にまるでブラックホールのような暗闇が集まり、すさまじい勢いで放たれたサーブをまるで物凄く柔らかいクッションで受けとめたかのようにその勢いを全て吸収して殺した。


 暗闇が消え、レシーブでボールを跳ね上げる。バレッタがトスを高く高くあげ、再びカエデの出番がやってきた。


「今度はこっちからいくぞ、主君、奥方様。喰らえ、流星アタック!!」


 まるで隕石のように落ちてくるボールを前に居た俺が受け止める。


 いや、なんなのこれ、もうバレーボールとは違う何かだとしか思えないぞ!!


 プラズマイレブンとか、テニスの王女様の超能力スポーツバトルがリアルで怒ってる。くそっ、身体能力以外は全部禁止だって伝えなかった俺のミスか。


 こうなったら俺も本気だ。


「龍功拳 龍水の型!!」


 習得した古武術の型を使い、ボールの力を自分の体の中に流して一度勢いを全て奪い、ボールを跳ね上げた。


「リンネ頼んだ!!」

「まかせて!!」


 リンネは絶妙な位置にトスを行う。


「さっきはやってくれたじゃないか!!倍返しアタック!!」


 俺は先ほど奪ったエネルギーを体内で加速させ、倍加してアタックを放った。


「ケンゴ様、させませんよ?パーフェクトメイドブロック!!」


 しかし、バレッタのレシーブによってなんなくはじき返された。


「くそっ。リンネ!!」

「了解!!」


 下に落とされたボールを何とかリンネが拾い上げる。俺は落ちてきたボールをリンネが問題なく、アタックをうてる高さまでトスを上げた。


「今度こそ沈みなさい!!分裂アタック!!」


 リンネがアタックを打ち込むと、ボールがいくつにも分裂し、カエデに襲い掛かった。


 リンネの時はバレッタが出てこないんだな……。流石に俺のアタックだとカエデがキツいからな。


『そうです』


 インフィラグメから肯定の言葉が聞こえた。


 流石メイドサポートに回るその姿勢頭が下がる。


「私も負けないぞ!!影分身レシーブ!!」


 カエデも分裂したボールの数だけの影を操り、同時にレシーブを受けた。


 しかし……。


「ぐわぁ!!」


 リンネのアタックの勢いを殺しきれずに吹っ飛ぶことになってしまった。地面にボールが突き刺さると大穴があいた。


 その後も激しい戦いが続き、バレッタ以外は全員が全身ボロボロになるのであった。


 うるさくなるかもしれないとインフィレーネで障壁を張っておいてよかった。

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