奉納祭と夢の兵器

第137話 賑わいの理由

「んじゃ、船長、ゴードまたな!!」

「おう、今回は世話になったな。何か困ったことがあったら俺達に言ってくれ。できることはするぞ」

「ゴードの言う通りだ。船長として出来ることと言えばギルドの報酬に色をつけてやることくらいだが、個人としては何かあれば力になるから言うんだぞ」

「ああ、そんときゃ頼むわ!!」


 俺たちが船長たちと挨拶をして船から降りると、改めて大地を踏みしめる。


「ここがドワーフたちが住む大陸か」


 俺は独り言ちて辺りを見回し、大きく息を吸い込んだ。リンネ以外のメンバーも物珍しそうに周りをキョロキョロと観察していた。一方でリンネはそんな俺たちをたなびく髪が目にかからないように手で押さえながら柔らかく微笑んで眺めている。


 今のところ町は獣人のアールスデンとそう大差がないように見える。


「ここは港町だからね。多人種が行き交うから共通に使用できるような造りになっているわ」


 そんな俺の気持ちを読んだかのように、小悪魔にような笑みを浮かべたリンネがニシシと俺の顔を覗き込んだ。


 そんな心をくすぐるような笑顔で俺に近づくとイチャイチャしたくなるので今は勘弁してもらいたい。只でさえ、カエデや子供たちと一緒にいることが増えてただでさえ接触が減ってるからな。


 俺の中で理性と本能がせめぎ合う。


「そうなのか。それは楽しみだ」


 俺はそんな気持ちを微塵も感じさせずに、ニヤリと口端を吊り上げて答えた。


「兄貴はこれからどうするんすか?」


 皆で新しい大陸に浸っていると、舎弟その一が俺に尋ねる。


 ひとまず今日はもうすぐ日も暮れるし、今日はここに泊まって明日ドワーフの国の首都へ向けて出発するという流れで行こうかね。


「ん?ひとまず宿をとって冒険者ギルドへ行こうと思っているが?」

「それじゃあ、俺たちが案内しますよ、なぁ?」

『おう!!』


 俺の答えに、舎弟その一が後ろを振り返ってその他の冒険者たちに確認すると、舎弟護衛達が一斉に返事をした。


 それじゃあ、お言葉に甘えて宿と冒険者ギルドに案内してもらおうかね。


「んじゃ、よろしく頼むわ」

「了解っす」


 俺たちは港を出て町中へと進んだが、町中へと入ると俺たちは驚いた。何に驚いたかと言えばその人の多さと出店の数だ。


「なんでこんなに賑わってるんだ?」

「そういえば、ドワーフの国では何年かに一度大きなお祭りがあったはずだわ。それかもしれないわね」


 俺の呟きに隣を歩くリンネが思い当たる節を答えてくれる。


「リンネの姐さんの言う通りっす。今年は4年に一度のドワーフたちのドワーフたちによるドワーフたちのための祭典『奉納祭』が開催されるんすよ。一応後一月くらいで開催される予定っすね。だから国外から観光客が増えてるんす。宿も俺たちかおやっさん……船長達が一緒じゃなかったら取れなかったかもしれないっすね。あ、別に恩に着せようと思ってるわけじゃないっすよ。兄貴たちは命の恩人っすからね。まだ何も返せてないっすから」


 先導している舎弟その一が補足するように説明してくれた。


 なるほど。そんな大々的な催しがあるのならこれだけの人がいるのもうなずけるか。


「それでどんな祭りなんだ?」

「そうですね。三つの競技が開催されます。一つが鍛冶大会。世界中の鍛冶師たちが集まり、大会期間中に打った武器の価値を競う品評会。もう一つは世界中の酒造が酒の良さを競う酒の品評会。最後に世界中の酒豪が集まる飲み比べ大会っすね」


 うわぁ。完全にドワーフのための祭りって感じだなぁ。


 俺は舎弟その一の説明に少し引いた。


 まぁドワーフらしいっちゃらしいんだが。


「そりゃあこの国ではさぞ盛り上がりそうな祭りだな」

「そうっすね。祭りの期間中は国民総出で祝うので文字通りのお祭り騒ぎ状態っすよ」


 こりゃあ首都に行ったらとんでもない状態になってそうだ。


 お祭りはおもしそうだが、人が多すぎて歩くのにも困るような状況を想像して俺は少しげんなりしてしまった。


 それから俺たちは舎弟その一に案内され、宿に辿り着くとなんとか部屋を確保することができた。その後、冒険者ギルドに行き、護衛依頼の完了手続きや、リヴァイアサンやクラーケンの話などをギルドマスターたちに説明するの時間を要して、空は闇に包まれてしまった。


「そういやぁ」


 俺は舎弟たちとの別れ際に舎弟その一の背に声を掛ける。


「ん?なんすか?」


 不思議そうに首を掲げて振り返る舎弟その一。


 いやぁ物凄く聞きづらいんだけどさ……。


「お前の名前ってなんだっけ?」

「え?今っすか!?」


 俺の今更の質問に 舎弟その一は素っ頓狂な声を上げて驚いていた。

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