第136話 新しい大陸へ
今甲板は再び宴の様相を呈している。それも船ごと盛大に。
「いや~、流石兄貴っすね!!」
船べりに寄り掛かって一人で皆が飲んでいる姿を見ながら飲んでいると、舎弟その一が酒を片手になれなれしく肩を組んでそんなことを言う。
舎弟その一も含めさっきまで阿鼻叫喚の騒ぎだったというのにもう立ち直ってるとか図太いとしか言いようがない。他の奴らも似たようなものだ。このくらい図太くないと船での商売などやっていけないのかもしれないな。
あの後、リヴァイアサンがクラーケンを食べ始めると、自分が動いても津波が起きないように海流を操作しているのか、津波が船に襲い掛かってくることはなくなった。
そして、船員たちにはリヴァイアサンがクラーケンを食べている様子を見せて、話を既につけていることを伝えたところ、このような騒ぎとなったわけだ。
「何がだよ」
「あのリヴァイアサンを従えるとは恐れ入るっす」
鬱陶しげに尋ねると、舎弟その一は宴を見つめて楽しげにしているリヴァイアサンの方を見て、一度酒を呷ってから答えた。
「従えてないからな。ただ話をしただけだ」
「いや、それだけでもとんでもない話っすよ。リヴァイアサンに高い知性があること自体知られてなかったし、そもそもあんな自然の暴力の化身のような奴に話しかけるなんて無理っすからね」
え!?リヴァイアサンに高い知性があることさえ知られてなかったって言うのか?
うーん、確かに動いただけであれだけの津波を引き起こすような存在は普通の人間にとって只の脅威でしかないか。
リヴァイアサンも間抜けなのか自分の行動が及ぼす影響を知らなかったし。
「確かに動く災害って感じだったな」
「そうっすよね。何度も津波が襲ってくる様は本当に世界の終わりだと思ったっす」
舎弟その一は光景を思い出したのか、ブルっと震えた。
めちゃくちゃ怖かったんだな。
「まぁここから次の大陸まではあいつが守ってくれるらしいから、平和な船旅になるだろ」
「そうっすね。海最強の護衛に守られた船旅とかどんだけ贅沢なんだか」
俺が慰めるように言うと、苦笑いを浮かべる舎弟その一だったが、
「その上、俺らは何もしてなくても報酬が貰えるんだからリヴァイアサン様様っすけどね」
とニカっと笑っておどけて見せた。
こいつの言う通りリヴァイアサンが守る船旅程安全な物はないだろうな。
ーピカーンッ
この時、俺の脳みそに天啓が降りた。
ふむ。リヴァイアサンが守る船となるとめちゃくちゃ人気になりそうじゃないか?
旅行に貿易、漁というか海での狩りなど、なんでも出来そうだ。命の軽いこの世界で安全程重要なものは多くないだろう。
まぁ国の上層部に目をつけられなければ、だけど。その辺りは結構ツテがあるし、もしかしたらなんとかなるかもしれないな。
一考の余地ありって感じだな。
「どうかしたんすか?」
俺が何も喋らずに黙っていたので、舎弟その一が俺に問いかける。
おっといかんいかん。
「いや、なんでもない。それじゃあ俺も皆と混ざるか」
「いいっすね!!いきましょう!!」
俺は首を振ってから、船のヘリに預けていた体重を取り戻し、皆がワイワイと飲んでいる只中へと戻っていった。
その後、リヴァイアサンの頭の上ではしゃいだり、一緒に酌み交わしたりして時は流れ、気づけば夜の帳が下り、その場で停泊したまま一夜を過ごす事となった。
リヴァイアサンが見張りを買って出て、一緒に飲み交わした皆は、何も言わずに信頼して任せてグッスリと眠ったのであった。
酔いすぎて疑うことを考える思考力がなかったとも言える。
そしてそれから数日。
「それじゃあここまででいいぞ」
『うむ。そうか。名残惜しい物だな』
「はっ!!名残惜しいのは俺たちの料理だろ!!」
『それも大いにあるがな!!ガッハッハ!!』
お互い笑い合って別れを惜しむ。
リヴァイアサン、災害モンスターみたいな奴だが、なかなか気のいい奴だったな。
「まぁいいけどな。それじゃあ元気でな」
『お主たちもな』
「ああ。これからも自分の影響で人に怖がられないようにな」
『十分に気をつけよう。おっとそうだ。これを持ってゆくが良い』
思い出したのように、角笛のような物が突然現れ、ゆっくりと俺の手の中へと落ちてきた。
「これはなんだ?」
角笛が浮力を失い、俺の手にズシリとした重みを感じた後、ひっくり返すように角笛を調べながら尋ねる。
『我を呼ぶための道具?のような物だ。世話になった礼に、ある程度深さのある海であればどこでも駆けつけよう』
「そうか。それじゃあありがたく貰っておくよ。何かあれば呼ばせてもらうわ」
『うむ。ではな』
『了解』
説明を終えると、お互いに最後の挨拶を交わした。そうしてリヴァイアサンは俺たちの元から去っていった。
それから程なくして俺たちは新大陸の大地を踏んだ。
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能無し陰陽師は魔術で無双する〜霊力ゼロの落ちこぼれ、実は元異世界最強の大賢者〜
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