第138話 ドワーフの住処

 舎弟その一の名前がアノールドという名前だと知った次の日。


 俺たちは早速王都に向かって出発することに決めた。アノールドによると、王都までは街道に人がいないことがないのでその人たちに沿って行けば歩いて1週間程度で着くということだった。


 うちの馬車だと一日か二日と言ったところだろう。街道に人がいても街道から外れて走れば轢いてしまう可能性も少ない。いざとなればインフィレーネでどうとでもなるし、ゴーレム馬もすぐに止まることができるし問題ないはずだ。


「それじゃあ、またな」

「はい、またっす」

『兄貴お元気で~!!』


 俺たちはアノールド達に見送られて街を出発した。


 ゴーレム馬車は人目を引いたが、速さのせいで何かを言ってくるような者のいない。意気揚々と街道沿いの草原を王都に向かってひた走る。


「また馬車の旅だな」

「そうね、また『魔法少女マジマジこのは』の劇場版でも見ようかしら」


 え、また見るのか。何回見れば気が住むのだろうか。

 すでに2桁は見ている気がする。


「リンネはホント好きだなこのは」

「ええ、好きよ!!」


 俺が少し呆れ気味笑うと、リンネはひまわりのような笑顔を俺に向けた。


 うぉーい!!そんなにまっすぐな笑みで俺を見ないでくれ!!

 いつもの恥じらいながらの笑みは見慣れてきたけど、こういう笑顔は直視するには眩しすぎるぞ!!


「俺は何しようかな。カエデはどうするんだ?」

「ん?私は子供たちにせがまれてな。一緒にゲームする予定だ」


 俺は手持ち無沙汰なのでカエデにも予定を聞いてみると、そんな答えが返ってきた。


 元々カエデが世話をしていた子供たちだからこうなるのも当然か。

 それになんだかカエデたちは極力リンネと俺の関係を邪魔しないようにしてる感じもするし。

 それはそれでありがたいんだが、ずっとアニメ鑑賞に付き合うのもしんどい。


「お姉ちゃん早く!!」

「ねぇね!!」

「早く来てよー!!」

「肉を忘れないでくれよな!!」


 そして答えるや否や、奥の部屋に向かう扉の隙間から子供たちの催促する声が届く。


 キースは相変わらずだな。


「おっと。主君すまない。そろそろ行かなくては」

「あ、ああ。分かった」


 申し訳なさそうにするカエデに、俺も苦笑いを浮かべて頷いた。イナホはリンネの膝の上で丸くなって寝ている。


 ふむ。ぼっちになってしまったな。


「久しぶりに古代魔法の勉強でもするか」


 俺は頭を掻いてから寝室に移動し、ベッドに横になって枕に背を預け、本を読み始めた。


「ケンゴ、昼ご飯の時間よ!!」


 しばらくすると、リンネの声で思考の世界から現実へと帰還を果たす。


「ん?もうそんな時間か?」

「外見てみなさいよ」

「うはっ」


 すでに太陽は中天に差し掛かり、まさに昼にふさわしい時間だった。


 リンネの後ろには子供たちが部屋を覗き込んでソワソワしている。


 少し待たせたみたいだな。

 そろそろ飯にするか。


 天気もいいし、外で食べるのがいいだろう。


「んじゃ、外で食べるか」

「そうね、それがいいと思うわ!!」


 何やら含みのある笑顔を浮かべてリンネが俺の手を引いてベッドから引き起こされ、部屋の外へと連れ出される。


「ん?」


 リビングに来た時、移動中随時辺りを警戒していたインフィレーネから百メートル先くらいに人の気配が複数あるのをふと感じ取った。


 辺りには家らしいものはなさそうだが……。


 いやでも何やら壁というか柵のようなものはあるな。


「ん、まさか?」

「ふふふ」


 俺がリンネの方に顔を向けると、俺が何かに気付いたのを知ったリンネが面白げに笑う。


「昼ご飯は百メートルくらい先のあの所で食べるか」

「ええ、そうしましょう」


 俺がそれが正解だとでもいうように俺の提案に同意するリンネ。


「うむ。承知した」

「ごはんだぁ!!」

「今日のお昼は何かなぁ」

「なんでもいいよ。どれも美味しいに決まってるし」

「俺は肉がいい!!」


 ご飯の予定が決まるなり子供たちが騒ぎ出す。


 全く元気な事だ。


 そして、数十秒後にその柵のあった場所に降りてブルーシート的な物を敷いてご飯の支度を始めた。


 すると、何やら気配が近づいてくる。


「なんだ?」


 俺は準備を取りやめてあたりを見回すと地面から何かがはい出してきた。


「おい!!お前ら村の外で何をやってる!!」


 怒鳴りながら俺たちに駆け寄ってきたそいつは、グオンクのような渋いドワーフだった。

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