EX.8 獣王二度目の挑戦(獣王Side)

「そういやぁ……あいつら試練の祠踏破したんだよなぁ」


 俺は執務室で書類を片付けながら、旅立ったケンゴやリンネ達のことを思い出す。俺が試練の洞窟に挑んだのは獣王に即位した時。もう何十年も前の話だ。


 だから別に悔やしくもなんとも……ということはないな!!俺が踏破できなかったものを他の奴らが実現させているってのは獣王としての矜持が許さねぇ。


 俺は再び試練の祠に挑戦することを決意した。


 まずはここから抜け出さないとな。


「ふぅ……うーむ。少し散歩でもしてくるか」

「ダメです。そんな時間はありません」


 少し伸びをして呟くと、何の躊躇もなく却下された。


 くっ。シンの奴。最近ますます厳しくなりやがって。

 いや、まぁ、俺が仕事を終わらせないのも悪いんだけどな。

 でも分かっちゃいるけど、辞められない止まらない。

 仕方ねぇじゃねぇか、息が詰まるもんはよ。


「あ、いや、厠だったな。うん」

「さっき行ったばかりです」


 くそっ。俺のバカ。なんでさっき行った時に思いつかなかったんだ。

 あの時は一人で厠に行けたのに!!

 どうにかこの場をしのぐことができないか!!


―コンコンッ


 おっと天の助け。


 執務室のドアが叩かれた。


「入れ」

「失礼します」


 シンが許可を出すと一人の兵士が入室してきた。

 確かシンの部下だったはずだ。


「陛下、御前失礼します」

「うむ」

「シン隊長、宰相閣下がお呼びです」

「そうか、わかった」


 お、この部下はシンを呼びに来たらしい。

 やったぜ!!これで俺は勝つる!!


「陛下、くれぐれも仕事を抜け出さないで下さいね!!」


 俺がニヤニヤしているのが分かったのか釘を刺してから部屋を出ていった。


 ふっふっふ。そんな顔で言ったって全然怖くもなんともないんだぜ?


「ふぅ~、行くか……」


 俺は極限まで気配を殺し、部屋を後にする。


 しかし、正面から出るようなヘマはしない。俺は四角の多い所に出る部屋の窓を静かに開け放ち、外に躍り出た。


 よし、後は試練の祠まで一直線だ!!


 壁を蹴るようにして屋根の上に飛び上がり、城の屋根の上を見張りに見つからないようにコソコソと移動する。


 なんで俺って王なのにいつもこんなに隠れて出かけてるんだろうな?

 まぁいいか。考えてはいけない気がする。


「こらぁ!!だから逃げ出さないでくださいって言ったでしょう!!」


 うわっ!!シンの奴が気づきやがった!!最近なかなか腕を上げているようだな。ケンゴの奴がいい刺激になったのかもしれない。


 俺の後を鬼のような形相で追いかけてきやがる。こりゃあ本腰入れて逃げるぞ!!


「ひゃっはー!!」


 俺はもう見つかったのでなりふり構わず、スピード重視でトップスピードで駆け抜ける。あっという間に城を通り抜け、獣王しか入れない領域へと入ってしまえばこっちのもの。


 俺は階段を駆け下りて、試練の祠の前へとたどりついた。もしかしたらシンが入ってくる可能性もありえるので、俺は扉に手を触れてダンジョン内部へと侵入を果たした。


「ここも懐かしいな」


 俺は感慨深いあたりを見回しながら一階の中央へと歩みを進める。


「よく来た挑戦者プギャー!!」

「「「「んぎゃー!!」」」」


 俺は敵が現れ、口上を述べる前に全員瞬殺した。


 可哀そうというなかれ、待ってるの面倒なんだよ。


 俺はそれからも敵を瞬殺しながら最速で階層を降りていく。そして物の数時間で当時の最終到達階層へとたどり着いた。


「んもー!!よく来たな!!これまでは楽に来れたようだが、ブラックミノタウロスエンペラーのジョウミノは一筋縄ではいかぬぞもぉ!!」

「へっ。さっさとかかって来いっての!!」

「ぶもぉ!!」


 俺が挑発すると、襲い掛かってくるジョウミノ。


 30年前はかなり苦戦したが、今はあいつの攻撃も見えるし、威圧感もさほど感じない。俺も成長してんだなぁ、としみじみ感じながらジョウミノが振り回す戦斧をひらりひらりと躱し、一撃必殺の一撃をお見舞いする。


「羅刹門開門!!獣王羅刹拳!!」

「ぶもぉ!!」


 赤い闘気が拳に炎のように集まり、その拳でジョウミノのどてっぱらを撃ち抜いた。


「ブモォー!!また出番が一瞬だったもぉ!!なんなんだってばよもぉ!?」


 ジョウミノの奥の景色が見え、文字通り体を撃ち抜かれた奴は断末魔を残して消えていった。


 それから試練の祠四天王の内3人は激戦の末、なんとか下した。しかし、4人目が問題だった。


「物理も魔法も効かないとかありか?」

「ありに決まってるじゃない」


 エレーナが妖艶に笑う。


 くっそ、こんなのどうやって倒せって言うんだよ。

 あいつら一体こいつにどんな方法で勝ったんだ?


 俺はそれからも寝そべるエレーナを一歩も動かすこともできないまま時間だけが過ぎていく。


「はぁ……はぁ……」


 どれだけ時間が経ったか分からない。俺の渾身の一撃も、実は秘密にしていた切り札も使ったが全くダメージを与えることが出来なかった。


「ふわぁ~。疲れたからそろそろ私の負けでいいわ。じゃあねぇ~」


 しかし、どれだけたっても自身にダメージが来ることはなく、あまりに暇だったのか、エレーナは自ら消えていった。


 う、うん、あいつらもこうやって倒したんだな。

 そうに違いない!!

 

 俺は自分を納得させると、最終回へと階段を下りていった。


「朕は試練の祠の王、アブソリュートデュラハンキングのフォメロスである。ここが試練の祠の最奥だ。それでは始めるとしよう」


 玉座の前までやってくると、フォメロスが話し出した。


 とんでもない威圧感だ。暴走した時のケンゴにも匹敵しそうな怖さを感じる。


 ゴクリッ。


 思わず喉が鳴った。


「ここでは今までのようにはいかぬぞ?死すればそのままだ。それを承知でかかってくるのであろうな?今ならまだ引き返してもよいぞ?」

「ああ、問題ねぇ」


 威圧感がさらに増すが、俺は自身の内の恐怖を噛み殺し、何食わぬ顔で答えた。


 ここで俺が死んでもシンの野郎がどうにかするだろう。

 上等じゃねぇか。絶対に勝ってやる!!


 俺は気持ちを新たにして構えた。


「うむ、その意気や良し。それでは始めるぞ!!」


 フォメロスは腰だめに構えて、凄まじい殺気が放たれた。


 来る!!


「じゃじゃじゃーん!!第1問!!スターライト銀河帝国の12代の「撃滅帝」と呼ばれた皇帝の名前はなーんだ?」

「はっ?」


 なんだそれ?

 いやいやいや戦闘じゃないのかよ!?

 ここにきてクイズ?

 スターライト帝国とか聞いたこともねぇし。どこの国だよ!!

 分かるか!!


「挑戦者よ、疾く答えよ!!」


 フォメロスが中々答えない俺を急かす。


 うーんとどうする。何か答えねぇと。


「クラドゥ」

「それがファイナルなアンサーか?」


 やっべぇ。適当に答えたけど、どうすりゃいいんだ?

 でも何も思いつかねぇし、一か八かこのままいくしかねぇ。


「そうだ」

「……」


 俺が頷くとフォメロスは黙って、辺りに空気が張り詰めるような静けさが降り立つ。


「ぶっぶー、不正解!!最初からやり直すがよい!!」


 どれだけ待ったか分からないが、勿論不正解だった。


 そして次の瞬間、俺は一階にいた。


「よく来た挑戦者よ!!私がこの部屋の主。先に進みたくば私を倒していくがよい!!」


 なぜならコッコーがまた口上を述べだしたからだ。


「あんなクイズわかるかぁああああああああああああああ!!」

「プギャー!!」


 俺の魂の叫びとコッコーの断末魔が一階を包み込んだ。


 俺は意気消沈してあっさりと負けを認めて試練の祠を後にした。帰った後、シンにこっぴどく怒られ、監視も増やされ、仕事が全部終わるまで執務室に缶詰めにされたことは言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る