海と船旅

第120話 港町アールスデン

 馬車に揺られること3日。


 獣王国の南端、港町アールスデンへとたどり着いた。


 道中はいくつかの街や村に寄り、ケモノホイホイの悪影響が解除されていない獣人達の処理をしつつ、途中で外で野宿してアウトドアを楽しみながらの旅だった。


 王都に向かう時よりも暴走する人たちが減っていることもあり、だだっ広いサバンナのような土地でキャンプをするのは、解放感があって素晴らしかった。


 夜も周りに明かりがないので夜空に煌く星々がはっきりと見えて、地面にごろりと寝転がってみる空には感動したものだ。


 特に子供たちは王都から出たことも無かったようで大層喜んでいた。もちろん一番喜んでいたのは、キャンプ飯を食べている時だったが。


「おお、これが英雄殿の馬車ですか!!話は通っております。お通り下さい。武術大会に参加していない者は明日から順次訓練場に集めますので、対処が終わるまでは大変申し訳ありませんが、詰め所で過ごしていただけますでしょうか」

「ああ、分かっている。こちらも迷惑をかけたくないからな」

「ありがとうございます。詰所の関係者はすぐに集めるのでそこでビシッとやってもらえますか」

「了解。ありがとう」

「では、ついてきてください」


 御者台へと座って町の入り口で門番をしている兵士と話をした。


 どうやら国側からなにやら話が通ってるらしい。獣人国にいる間は歩く災害みたいなもんだからな。トラブルを避けるために村や町に俺のことが伝わっているんだろう。武術大会に出た奴もかなりいるしな。


 会話した兵士の代わりの兵士がやってきて、俺たちはそのまま詰め所へと案内された。詰所の人間がそろうまでの間、与えられた個室でのんびりと過ごす。


 個室は、俺とリンネとイナホ、カエデと子供たちで分かれていた。


 準備が整ったと兵士が呼びに来た後、俺は訓練場にいる兵士たちを瞬殺して、気絶した兵士たちをすぐに気付け薬で起こしてやる。


 兵士がいないと警備に支障が出てしまうからな。


 今日やることが終わってしまった俺たちは、ご飯などはアイテムバッグに入っているから明日まで放っておいていいと伝えて、俺たちの部屋にやってきたカエデたちを連れて部屋から馬車の中へと入った。


 しかし、一日部屋で過ごすのは流石に暇すぎる。


 俺達は、馬車でゲームしたり、DVDをみたり、船でトレーニングしたり、子供たちに勉強をさせてみたりしながらのんびりと過ごした。


 数日程、そんな風に暇をつぶしつつ詰め所で足止めを喰らうのであった。


「娑婆の空気が美味い!!」

「何犯罪者が牢屋から出たみたいな事言ってんのよ」

「いやぁ、実際そんなようなもんだろ」

「主君がいるだけで獣人たちが寄ってくるからな」


 ようやく詰所から解放された俺とリンネとカエデは、三人で並んで歩いて街を散策している。子供たちとイナホは、一緒になって俺たちの少し先を物珍しそうにあたりをキョロキョロとしながら進んでいた。


 街を歩いている獣人のほとんどは俺と顔見知りとなっているので、やぁとか、よっとか、英雄どの、などと気軽に声を掛けていく。


 そんな彼らに適当に返事をしながら歩く。

 港町だけあって魚介を扱う店が多い。


「改めて、海の匂いで港町にいることを実感するな」

「そうね。私も久しぶりに来たわ」

「我も港町など来る余裕などなかったからな。こうして楽しむ余裕があることが不思議だ」


 俺も日本にいた時も彼女がいたわけでもないから行く機会もなかったから、海自体久しぶりだし、異世界の海なんて初めてだ。非常に楽しみである。


 人魚とか魚人とかこの辺にいないだろうか?

 いるならぜひともあってみたいものだ。


 それはともかく今は何より船の事だろうな。


「ひとまず船がどうなっているか確認に行くか」

「そうね」

「それじゃあ、お前ら、美味そうなのあったら買ってやるから、港に向かうぞ~」

『わーい』


 リンネと確認し合った後で子供たちに予定を伝えると、子供たちは喜々として屋台や市場の店を覗きだす。


「お店に迷惑かけるんじゃないぞ」

『はーい』

 

 カエデの釘刺しに対する子供たちの良い返事を受けて、俺たちは屋台を冷やかしたり、実際に買って食べたり、はたまた特産の魚介系食材を大人買いしたりしながら、ドワーフの国へ向かう船を確認するために港へと向かった。

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