第113話 英霊の園
我に返った俺達。
「そろそろ帰りの魔法陣があっていいと思うんだけど……」
リンネがそう言って辺りを見回し始めたので、俺達も同じように確認すると、部屋の中央に光り輝く魔法陣が出現していた。
間違いなく攻略しているようだ。
それはそうとあれは……。
「それじゃあ、帰るわよ」
「ふむ」
「にゃーん」
各々魔法陣を確認してリンネの号令でもう用はないとそのまま帰ろうとする。
「ケンゴ?」
しかし、俺が動こうとしないことを疑問に思ったのか、リンネが話しかけてきた。
なぜ俺が動こうとしなかったのか……。
それは魔法陣とは別に、やはりここでも俺は別の暗号とも呼ぶべき魔法陣のような文章を見つけていたからだ。
それは宝箱があった場所だった。宝箱の下に描かれていた模様が文字だったのだ。
うほほ、期待に胸が高鳴りますなぁ!!
『我は至高の技を望むもの。英霊達の集う庭への道を指し示せ』
「え?」
突然自分には理解できない言葉を呟いた俺に、リンネは理解できないという困惑の表情を浮かべた。
次の瞬間、床に描かれた模様が光り輝きだす。
「な、なんだこれは!?」
『エルフの時と似てるねぇ~』
「これは……」
カエデは慌てふためき、イナホは後ろ足で頭を掻き、そしてリンネは何かを納得したような顔をしていた。
イナホは一度経験しているからか呑気なものだ。
それと同時に祭壇の奥の何もないはずの壁に浮き上がるように巨大な扉が現れた。
『詠唱を確認。前所有者のオーダーにより、新しい所有者情報の入力をお願いします』
これまでの遺跡同様半透明のキーボードが浮かび上がる。俺は慣れた手つきで自分の名前を入力し、確定させた。
『確認しました。園への扉を開門します』
認証の声が聞こえた後、ゆっくりと扉が開いていく。その隙間から暴力的な光が漏れ出して俺たちは目が眩んでしまう。
「くっ」
「なんて光……」
「これでは何も見えん」
『眩しいねぇ~』
しばらくして光が収まると、そこにあったのは獣人国にあるコロシアム内の闘技場へ続く道とよく似た場所であった。
「これってやっぱり世界樹と同じ?」
「ああ。おそらくな」
リンネの質問にニヤリと笑って答えた。
「どういうことなんだ主君?」
「ああ。カエデは初めてだったな。エルフの国や冒険者の国にも此処と似た建築様式の古代遺跡があってな。そのどちらでもこういう隠し部屋……というか本当の古代遺跡と呼ぶべき場所があったんだよ。それでその隠し部屋に行くためには暗号を読める必要があるんだが、その暗号を俺には読むことが出来た。そしてその暗号が示す通りの呪文を詠唱することで本当の古代遺跡が姿を現したってわけだ」
「なるほどな」
俺が説明するとカエデは腕を組みながらウンウンと頷いた。
どうやら納得してくれたようだ。
「んじゃ行ってみますか!!」
「ええ」
「うむ」
『れっつごー』
俺の合図の元、扉の先へと進んでいく。
―コツコツコツコツッ
俺たちの靴音が壁に反射するように離れては戻ってくる。そして数十秒程歩く続けると、奥の光の先が見えた。そこは予想した通り、闘技場というのがしっくりする空間が存在していた。
そしてその真ん中には一人の人物が佇んでいる。
近づくとその容貌が明らかとなった。
それは各パーツはバレッタとそっくりだが、髪は短い茶髪で、ちょっと吊り目の少し生意気そうな女の子だ。バレッタやアンリエッタと比べると小柄で中学生くらいに見える。二人と同様に、スカートが短いが、メイド服を着用しており、明らかに二人の関係者であるに違いなかった。
その子はお互いに顔をハッキリ認識できる位置まで近づくと、
「おう、よく来たな。新たな主。俺は『英霊の園』の管理を任されているテスタロッサだ」
と仁王立ちに腕組みをして、メイドとは思えない態度で挨拶をした。
別段気にすることもないが。
「俺はケンゴだ。こっちがリンネで、そっちがカエデ。そしてその猫はイナホという。それにしても『英霊の園』とは?」
「おう。ここにはかつて武術を究めた者達のデータが集まっていてな。そいつらを実体化して修行することが出来る」
「なんと!?」
テスタロッサの言葉にカエデが目を見開いて驚く。そこには喜色もはらんでいるように見える。
強い相手と修行ができるのがうれしいのかもしれしない。
「いいわね!!良い修行になりそう。それにグラヴァール流の創始者がいるかもしれない。楽しみだわ!!」
「俺もまだまだ技術が足りないから稽古があるなら助かるな」
『僕も勉強する~』
「おいおい、先達の稽古は厳しいぜ?そんなこと安易に言っていいのか?」
俺たちがワクワクしながら答えると、試すようにテスタロッサが俺達に忠告する。
リンネが楽しみにしているなら何も問題はない。
『望むところだ!!』
俺たちは声を揃えて不敵に笑った。
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