第114話 問答無用

「じゃあよ、早速主たちにお誂え向きの達人たちを実体化してやるぜ」

「おい、ちょっと待ってくれ……」


 俺の静止も聞かず、テスタロッサが空中に浮かび上がった半透明のキーボードを操作し始めた。


「よし、おっけー」


 数十秒後、操作が終わったらしく、キーボードが消えると同時に転移してきたかのように4人の影が現れる。


 俺の前に現れたのは、道着を着た好々爺然とした東洋系の老人。リンネの前に現れたのは、白銀の鎧を身につけた初老に入った程度の鋭い眼光を持つ人物。カエデの前に現れたのは、カエデ同様に忍び装束を身につけた30代くらいの黒猫族の男。そしてイナホの前には二足歩行しそうな猫、いわゆるケットシーと呼ばれる種族らしき者が立っていた。


 四人は辺りを見回し、状況を確認しようとしている。

 まさに召喚魔法で突然呼び出された、みたいな印象だ。


「ふぉっふぉっふぉ。ワシが呼ばれたということは修行ということかのう。久方ぶりではないか」

「ふむ。確かに。翁よ、久しぶりだな」


 知り合いだったのか、俺とリンネの前にいる老人とグランツと呼ばれた男が仲良さげに会話を始める。


「うむ。グランツよ、元気そうじゃな。というのもおかしいか」

「まぁ実際死んでるからな。ここにいる俺は仮初だ」

「そうじゃのう」


 どうやら自分たちの置かれている立場も理解しているようだ。


「ふむ。こやつは俺の系譜か?中々鍛えがいがありそうだな……」


 また、黒猫族の男は顎の下に手をやって、無表情のままカエデを見定めるように見やっていた。カエデは少し気まずそうにしている。


 流石にあんなふうにじっくりと凝視されると辛いよな。


「おお~、同族かにゃ~?いや違うにゃ~。でも中々賢そうだにゃ~」


 ケットシーは四倍になってイナホに顔を寄せている。イナホは特に何をするでもなく、大あくびをしていつも通りだった。


 相変わらず動じない奴だ。


「おい、お前ら。久しぶりだからって呑気にやってんじゃねぇぞ?さっさと自己紹介しやがれ」


 マイペースな四人に、青筋を浮かべて促すテスタロッサ。


 というかデータと言っていたが、まるっきり生きているのと変わらないような気がするんだが……。


 普通に会話しているし、自我も知性もありそうだし。人物そのものがデータ化されて存在している、というのが正しいのかもしれない。


 なんという技術力なのだろうか。


「おお、怖い怖い。まったくテッサは短気じゃのう。ワシはシンラ流古武術『龍功拳』の使い手、ハバラキ・シンラという。よろしくの」


 ハバラキは怯えるような仕草をした後、ニコニコとしているが、心の読めない笑みを浮かべて軽く手を挙げて挨拶する。


 こ・ぶ・じゅ・つ!!


 ヤバい!!早く教えてほしい。


 俺はワクワクしながらそわそわし始めた。


「次は俺か?俺はグランツ・グラヴァ―ル。グラヴァ―ル流剣術の創始者だ。よろしくな!ん?お前俺の子孫か?これは楽しみになってきたな」

「まぁ!?ご先祖様なの!?私も楽しみになってきた!!」


 サムズアップして自己紹介するグランツ。名前からしてそうだと思ったが、グラヴァ―ル流を作った人らしい。リンネの顔をじっと見つめると、なにやら通じ合ったらしく、拳をぶつけ合っていた。


「俺は黒猫流忍者頭サスケ・ネコトビ。よろしく」


 いかにも寡黙でダンディーな感じの黒猫族のサスケは、やはり挨拶の言葉も最低限。無表情なのがなんだか底知れない感じがする。


「ま、まさか伝説の忍者の一人のサスケ様か……?ふっ、恐れ多いが、これも主君のお導き。より高みへと昇って見せよう」

「使える主の為、自分を高みにする心意気や良し。徹底的に鍛えてやる」


 挨拶を受けて、カエデは熱に浮かされたように呟いた後、正気に戻ったのか、きりりとした表情でニヤリと笑った。


 その様子に忍びとして感じいる者があったのか、サスケはカエデを完璧に仕上げることにしたようだ。


 この修行を経て、自分に自信が持てるようになるといいなと思う。


「私はケットシーのミランダにゃ。私はあなたの担当にゃ。よろしくな」

「にゃーん(よろしく~)」

 

 ミランダはビシッと敬礼しながら答えると、イナホは前足を挙げて答えた。


 二足歩行猫と座ってる猫との邂逅。


 うん……可愛い!!


「んじゃ、終わったな。さっさと始めるぞ」

「おいおい説明とか休憩とか何もなしかよ」

「お前ら頼んだぞ?」


 自己紹介が終わった途端、テスタロッサが修行を始めようとしたので俺が抗議するが、問答無用で話を進めやがった。


 俺って一応主なんだよな?な?


「うむ。任されよ」

「世界で2番目に強くしてやるよ。1位は誰かって?俺に決まってるだろ」

「承知」

「やるにゃー」


 テスタロッサの念押しに4人は各々返事をする。


 まぁ普通に修行するだけなら問題ないか。と、安心していたが、次の一言でそれが間違いだったと気づいた。


「よーし、今からステータスは機能しなくなるからな?せいぜい自力で頑張れ」


 俺はテスタロッサのその言葉の意味をしばらく理解できずに固まってしまったのであった。


 いやいやいや、意味わかんないし!!

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