第115話 開始
―パチン
テスタロッサが指を鳴らした途端、体がやたらと重くなった。まるで掛かっていたバフが解けたかのように。
まさか……。
「お、気づいたようだな。今主たちは全くの生身の状態だ。この状態でこいつらの修行を受けてもらう。ステータスやスキルがあるとそれに頼り切った戦闘になりがちだからな。感謝してくれて良いぜ?」
得意げに語るテスタロッサだが、そんなこと頼んでないと思うのは俺だけだろうか。それに望む所とは言ったけど、まさかすぐに問答無用で修行が始まるとは思っていなかったからこっちは何の心構えもできてないっての。
まぁ、始まってしまったものはしゃーないか。
なんたって古武術習えるんだろ!?
自称男の子しては興奮せざるを得ない。
○○神拳とか、○○流剣術とかさ。特別な武術にはやっぱり憧れるじゃん?
それが体得できるのなら過酷な修行くらいどうってことはないさ!!
「くぅ。身体が重いわねぇ~」
「まだ数日しか経っていないが、この感覚は懐かしいな」
「にゃーん(だるーい)」
一方他の面々は、リンネは首をひねるように、カエデは視線を手に落として握ったり閉じたり、イナホは腹見せ降伏ポーズで各々ステータスが無くなった感覚を確かめていた。
リンネやイナホはステータスがある状態に慣れているからかなりきつそうだな。カエデは元々ステータスの恩恵がほとんどなかったからすぐになれるだろう。
「俺に教えてくれるのはハバラキさんでいいのか?」
「うむ。ふぉっふぉっふぉ。久方ぶりの弟子じゃ。腕がなるのう。一端の武芸者にしてやるからの、ワシに任せておけ」
「おう、頼んだ」
俺の前に現れたハバラキが師匠ってことで間違いないようだな。
「おい、子孫よ。さっさと修行を始めるぞ」
「ご先祖様分かったわ。それと私はリンネよ、よろしくね」
「おう、リンネだな。俺の事は師匠とか先生とか適当に呼べ」
グランツは修行を始めるためにリンネを引っ張っていく。
「ふむ。お前は厳しい訓練を潜り抜けてきたようだな。しかし、それは表の姿。裏の訓練も潜り抜けてこそ真の免許皆伝となる。しかし、表とは比べ物にならないくらい厳しい修行になるらだろう。ついてこれるか?」
「うむ。もちろんだ」
サスケもカエデの意思確認をした後、グランツとは別の方向へとカエデを引き連れて離れて行った。
「ほら、あなたもいくにゃよ」
「にゃーん(仕方ないな~)」
いつも通り体の動かせないイナホは少し嫌そうにしながらミランダに首根っこを掴まれて運ばれていった。
「お主も行くぞ」
「ああ」
仲間たちの動向を眺めていた俺はハバラキに促され、他の面々とは別の方向へと向かった。
「準備は良さそうだな。それじゃあ始めるぞ。それ」
テスタロッサの声と共に闘技場を半球の結界らしきものが包み込む。そして四方向に分かれた俺たちを分断するように十字に分断されてしまった。
バレッタの姉妹だろうし、皆に危害を加えることもないか。少なくとも主人の仲間なわけだしな。信用しても大丈夫だろう。
「おいおい、これどうやって出るんだ?」
「ん?出れないぞ?」
俺が不満気に確認すると、きょとんとした顔でテスタロッサは返事をする。
いやいや、俺達は腹もすけば排せつもする。それに入浴とか睡眠も欲しい。
「はぁ?飯とかトイレとか風呂とか睡眠とかはどうするんだ?」
「それはこの休憩部屋の中に用意されている」
俺の質問にまたもや半透明のキーボードを操作すると、四カ所に扉が現れた。
「弟子は中に入って休息を取ることが出来る。もちろん一日の修行のノルマを完遂したらだがな」
そしてそのまま説明を続けた。
「でもさぁ、リンネとグランツさんが一緒ってはどうなの?一応男と女だし。俺の恋人だし」
お互いの姿が見えるとはいえ、流石に俺以外と二人きりの状態になるのは反対だぞ?リンネは可愛いから何されてもおかしくないからな。
「あいつらにそういう欲求は一切ない。そもそもアイツたちはただのデータだ。生きているように見えてもな。それに万が一そんな真似しようものなら勝手に消えるようになっているんだぜ」
「ふーん。バレッタに免じて信じてやるか」
まぁ確かにあいつ等を実体化させているのはテスタロッサだもんな。出すも消すも自由自在で当然か。
「あっ。言い忘れてたが、この中から出れないのは修行が終わるまでだ」
最後にテスタロッサが爆弾を落として俺たちの修行は始まりを迎えた。
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