第109話 三人目

 次の階層に向かうと、中央で一匹のモンスターが座禅を組んで瞑想していた。俺たちが近づくとそいつは瞑っていた目をスッと開く。


 見た目はリザードマンというのが分かりやすいだろう。爬虫類の鱗に覆われた体皮を持ち、トカゲのような顔をしていた。そして、頭には一対の雄々しき角が生えている。恐らく竜人と呼ばれる類のモンスターだと推測できた。


 「ほほう、アンドレを倒したか。しかし、ウルフェンやアンドレなど所詮四天王の数合わせに過ぎない。俺と四天王筆頭こそが本当の四天王だということを教えてやろう」


 蜥蜴の顔だけに今一分かりづらいが、おそらく笑っているのだろうことが分かる。また、笑うと同時に威圧感が竜人から発せられた。


 なかなかの強者のようだ。今までの二人とは確かに違うな。


「リンネどうする?」

「ひとまず私とカエデで戦ってみるわ。危なくなったらフォローして」

「うむ。主君は高みの見物をするが良かろう」

「了解」


 相談し終えると、リンネとカエデが前に出る。俺は相変わらず寝ているイナホを腕に抱いたまま少し距離を空け、ご飯の時に出したブルーシート的なものを敷いて腰を下ろした。


「なんと我相手に手加減すると言うのか。おもいあがりもいい加減にするがいい」

「大丈夫大丈夫。お前にはうちの愛する彼女と自慢の部下はやられないからな」

「あ、愛するだなんて……わ、わたしはなんとも思っていないんだからね……」

「じ、自慢など……恐悦至極……」


 俺たちの行動に苛立たしげな声を上げる竜人。俺も聞こえるように声を張って叫ぶと、リンネはイヤイヤと体を揺らしながら身悶え、カエデは神に祈るように胸に手を当て、顔を天井に向け、涙を流した。


 君たち、流石にチョロすぎでは?


「ふむ。後悔しても知らぬぞ?それでは勝負といこうではないか。我はエンシェントドラゴロードのブラーク。古代竜が進化したものぞ。その力とくと味わうがいい」

「クラヴァール流皆伝、SSSランク冒険者リンネ尋常に勝負よ!!」

「黒猫忍術皆伝カエデ。推して参る!!」


 呆れ気味の竜人が立ち上がって構えをとって口上を述べ、カエデとリンネも相手に合わせ名乗った。


「それでは……はじめ!!」


 なんだかそんね雰囲気だったので、俺は傍観決め込むつもりだったが、試合開始の合図をした。


「ふん!!」

「やぁ!!」


 合図と共にリンネとブラークはお互いに駆け出して打ち合う。カエデは気配を薄くてサポートに徹するつもりのようだ。そこにいるのにそこにいない、そんな印象を受けるくらいに存在感が希薄になっていた。


 黒猫忍術の皆伝の隠形半端じゃないな。俺でも見逃しそうになる。


 しかし、リンネも様子見とは言え、あの剣を防ぐとはブラークの体はかなり頑丈のようだ。

 闘気、いやあれは竜気か!?それ程強くはないが、うっすらと全身を青白い光が覆っている。


『あのモンスターは竜から進化した者なので、竜気を使えてもおかしくはないでしょう。竜気は元々ドラゴンが使っていたものなので。とはいえ、無意識かつ自然に使っているものなのでケンゴ様のように劇的な力があるわけではありませんが。とはいえ素の力が違い過ぎるので、それなりに大きな力にはなります』


 いつものように一人になり、考え事をしていると、バレッタが話し相手に現れる。


「なるほどな」

 

 俺はリンネ達の戦いを眺めながら頷いた。


「黒猫忍術、影沼!!」


 カエデ静かに叫んで忍術を放つ。


 途端にブラークの足元の影が泥沼のようになり、体が沈み込みそうになった。


「むっ!!なんのこれしき!!」


 ブラークは異変を感じるとすぐに下に衝撃波を放ち、空中へと離脱する。


「一人の時ならそれでもいいでしょうけど、複数相手にその選択は悪手よ!!グラヴァール流奥義『飛龍』!!」


 リンネが空中で身動きが取れないブラークに向かって斬撃を飛ばした。


「我をなんだと思っている?我は竜ぞ!!」


 ブラークの背にはなかった筈の翼が広がり、斬撃を縦横無尽に躱して着地した。


「黒猫忍術『影狩』」


 着地した瞬間を狙い、ブラークの影が立ち昇り、鎌を形どってブラークの首に襲いかかる。


「ふんっ!!」


 ブラークは恐る事もせず、気合を発してその攻撃をまともに受けた。


ーキンッ


 甲高い音が響き渡り、影の鎌消えると、そこには無傷のブラークが立っていた。


「なんと、あの攻撃で無傷とは……」


 確かに正面から受けて全くダメージがないといえのは驚きだろう。しかし、カエデのレベルは高くない。いくら装備で底上げされているとはいえ、素早さ以外はそれほどでもないのだ。


 やはりトドメはリンネでカエデがサポートするのがベストだろう。しかし、このままだとなかなか決着がつかないよなぁ。


 しかし、そんな未来はこなかった。


「あっ」

「にゃーん!!(くらえー!!)」


 目の前の光景に、驚きと同時に自分の腕の中にいつの間にかイナホがいなくなっていることに気がついた。


 一体いつのまにあんな所に行ったんだ?


「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃー!!」

「ぐおっ!?」


 イナホがブラークの顔に飛びかかってめっためたに引っ掻きだす。ブラークも突然のことに驚き、一瞬ふらついてしまう。


 一瞬、されど一瞬。


 こと戦いにおいて一瞬の隙が命取りになる。


「黒猫忍術『影縛』!!」

「グラヴァール流、秘奥義『煌塵剣』」


 カエデの竜をも縛る技で押さつけ、その間にイナホはブラークの顔を蹴ってその場から離れた。


 その隙をついてリンネが迫り、魔力をひたすらに貯めることで光り輝く剣を、目にまとまらぬ速さで何度も振り抜き、ブラークの後ろへと駆け抜ける。


「ぐはぁ!!」


 そして、リンネが立ち止まり、剣についた血を振り払うようにして一振りした後、鞘に納刀すると、ブラークの体に無数の切れ目が現れ、そこから勢いよく血が吹き出した。


「まさか……こんな伏兵がいたとは……見事!!」


 そう言ってブラークは光となって消えたのであった。

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