第108話 二人目

「くっくっく。よく来たな挑戦者たちよ」


 77階で待ち受けていたのは、頬杖をついて玉座に座る少年だ。白髪のロングヘアーを垂らし、青白い肌を持ち、一際目を引くのが爛々と輝く真紅の瞳だ。


 にやける口端から長い犬歯が顔を出しており、吸血鬼、と言う言葉が脳裏を過った。


「ウルフェンとかいう奴と同類か?」

「ウルフェンを倒したくらいで調子に乗るなよ?くくくっ、奴は四天王最弱。我とあ奴ごときを同類にするでないわ。我は吸血鬼の王、トゥルーヴァンパイアのアンドレ・コスタニカ・ラドリス・バルドカスタリア・タルニクサビマル・テラポログリス・トルトーロニカ・サトルナリア・ドルドートス・ポポーロス・アルカニア「長いわ!!」」


 俺は名前のあまりの長さに近寄って拳を繰り出した。


「ほげぇ!!」


 魔力の宿った拳の威力に玉座に突き刺さるアルドレかんとれ。俺はサッと皆のところに戻った。


「な、なにするんだ!!親にもぶたれたことないのに!!」


 涙目になりながら、アンドレかんとれは頬を押さえてこちらを睨む。


「お前モンスターなのに親がいるのか?」

「あ、いなかった」

「はぁ!?全く……四天王ってはお前みたいなのしかいないのか?」


 俺はため息を吐きながら、顔に手を当ててやれやれと首を振った。


「我を馬鹿にするなよ!!」


 俺が顔を上げると、怒りの形相とともに真紅の瞳が怪しく光る。


「……」


 特に何も起こった様子はない。


 こいつは一体何がしたいんだ?


「ふふふ!!はーっはっはっは!!この魅力の魔眼からは何人たりとも逃げることなど出来はしない!!お前は我の命令に従うしかないのだ!!お前の仲間を攻撃しろ!!」

「……」


 勝ち誇ったように語り、俺に命令するアンドレかんとれだが、俺は何もしない。


 どうやら俺が魅了されてしまったと思い込んでるらしい。面白そうなのでそのまま乗ってみる。


「どうした?早くやるんだ!!」

「……」


 動かない俺に痺れを切らしたようにアンドレかんとれは行動を促す。


「おい、僕の言う事が聞けないのか!?」


 アンドレかんとれが俺に向かって近づいて詰め寄ってきた。


 こいつ不用心というか、自分の力を過信しすぎじゃないか?魔眼が必ず効いてるとも限らない相手にこうも不用意に近づくものだろうか。


 俺はリンネやカエデが動きそうになるのを後ろ手で止めて様子を見るように指示を出す。


「おい、聞いてるのか!?主の僕が聞いてるんだぞ!!答えろ!!」

「うるさい!!」

「ぴぎゃ!!」


 しつこく俺に怒鳴るアンドレかんとれが鬱陶しくなってきたので殴って黙らせた。


「魅了の魔眼なんか効くかよ」

「はぁ〜、吸血鬼の魅力って言ったら普通抗えるものじゃないんだけどねぇ。予め対策を講じてなければ」

「相変わらず主君は規格外すぎるな」

「z z z……」


 リンネとカエデは半ば諦め気味に俺を呆れたような表情を浮かべながら話す。イナホなんてもう興味がなくなったらしく、また寝ていた。


 インフィレーネで目からでているであろう何かを遮断してるからなぁ。そう言う魅了とか効かないのです。

  

「な、なぜ我の魅了が効かないのだ!?」


 アンドレかんとれが殴り飛ばされて叩きつけられた壁の下からまくら玉起き上がった後、驚愕を顔を張り付けて叫んだ。


「何でと言われても効かないからだ」

「くそ!!こうなったらお前の周りの者を魅了してやる!!」


 俺に魅了が通じないとみるや、真紅の瞳を輝かせ、リンネやカエデにまで魅了を使った。


「……」

「……」


 カエデがリンネが呻く。二人の目から光が失われた。


「ふふふ、今度は間違いなく我の魅了にかかった。さぁ、お前たち。あの男をコテンパンにするのだ」

「「嫌に決まってる(でしょ)」」

「ふげぇ!!」


 もちろん二人が魅了されるなんてことはなくて、偉そうに命令するアンドレかんとれを二人が逆に返り討ちにした。


「二人とも。後任せた」

「ええ」「任されよ」


 アンドレかんとれは、無常にも二人の死神によって倒されることとなったのであった。

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