第110話 四人目

 79階にやってきた俺たち。


 そこで見たのは、横になってお尻をぼりぼりと掻いて本を読みながらお菓子を食べる、寝間着のような服装の残念な褐色美女だった。


 長い耳を持ち、所謂ダークエルフという奴だろうか。


「ふぁ~。あら、きたのね。面倒だわぁ」


 明らかにやる気を感じさせないその声に俺たちは困惑する。


「人がせっかくワクワクしながら『妥協探偵ブナン』を読んでいたと言うのに……。後ちょっとで犯人が分かるって所なのに……。あいつ等も役に立たないわねぇ全く」


 頭をガシガシと掻きながらいかにも面倒そうに呟いた。


「一応ルールだから名乗っておくわ。エルダーダークエルフマジシャンのエレーナよ。それじゃあ、あなた達はかかってくるといいわ。どうせ私を倒せはしないんだから……。はぁ……めんどくさい」


 名乗りながらも全く起き上がる様子も見せないエレーナ。


 それほど自信があるのだろう。


「大した自信ね。それじゃあ遠慮なくいくわ」

「私もだ。ここまでコケにされたらやらないわけにはいかないだろう」


 二人がエレーナの様子に憤慨してやる気を迸らせる。


 ここはまた二人のお手並み拝見といきますか。


「んじゃ、また見てるな」

「ええ」「ああ」


 俺は二人に声を掛けてイナホを連れてまた観戦することにした。


「さてさて、どうなるか……」

「行くわよ!!」

「黒猫忍術『影苦無』」


 リンネが駆け出して、イナホが技を繰り出す。 


 イナホから放たれた漆黒の苦無状の物体が飛翔し、そのままエレーナに直撃するとと思われた。


 しかし……。


―シュンッ


 まるで何かに吸い込まれたかのようにエレーナに当たる直前でその攻撃は跡形もなく消え去ってしまった。


「なっ!?」

「はぁ!!」


 カエデが驚くが、リンネは構わず突っ込んで剣を振り下ろした。


―シュンッ


 しかし無情にもその攻撃もなぜか攻撃が当たらずに、逸らされてしまう。


「なんなのよこれ!!」


 リンネはその不可思議さに叫んだ。


 それにしてもあれはどうなってるんだ?

 インフィレーネのように何かを弾いてるわけじゃない。しかし攻撃が届かない。

 何かからくりがあるはずだか、探知には一向に引っかからない。


「奥方様、どうする?」

「とにかく攻撃よ!!色々試すしかないわ!!」

「了解!!」


 それから幾度となく、物理的にも、魔法的にも攻撃を仕掛けるが、どれもなぜか相手に届く前に逸らさせるか、消えてしまうのであった。


「うーん、あれはどういうことだ?」

「物理も魔法も無効ってことかしら」

「確かに物理軽減などのスキルはある。無効という上位スキルがあってもおかしくなないか」


 埒が明かない二人は一旦俺たちの所に戻ってきた。二人とも技を打ちまくってそれなりに疲労している。


「いくら相談したって無駄よ~」


 エレーナは俺たちの様子をあざ笑うかのように告げて、再び本を読み始めた。


 くそぅ。なんて奴だ。でも魔法も攻撃も効かない敵の倒し方は非常に有名なものがある。


 でもそんな有名な弱点を残しておくとは思えない。


 だから俺はカモフラージュするために別の方法をとることにした。


「じゃあいっちょ試してみますか!!」


 俺はインフィレーネでエレーナの周りを囲んで結界を作成して、結界内の温度を徐々に上げていく。


「熱いわね~。私の周囲の温度を上げているのかしら?でも無駄よ~?」


 胸元をパタパタさせて被服内の温度を下げようとするエレーナ。


 俺は本能でついついその隙間を凝視してしまう。


―ギロッ


 邪な匂いを感じ取ったのかリンネがこちらを睨むが、俺はとっさに魅惑の胸元から視線を外した。


「あら、あなたは私の胸に興味があるようね?」

「な、なんのことだ!?俺は知らないぞ!!」

「いやねぇ。女は男の視線に敏感なのよ?私の胸を見ていたのは分かっているのよ?」

「やっぱり!!ケンゴの浮気者!!」

 

 リンネが俺を非難するように詰め寄る。


 うわぁ。女の子は自分の胸を見られているのはすぐにわかると聞いていたけどマジだったのか。


 ふふん、童貞のチラ見スキルなら絶対バレないと思っていたのに!!

 これは開き直っていっそのことガン見したほうが潔いのでは?


「聞いてるの!?」


 俺は考え事をしていて曖昧な返事をしていると鬼の形相でリンネが俺を睨む。


「聞いてるって。悪かった!!もう見ないから許してくれ!!」

「ふん、あんな女じゃなくて私のを見なさいよね!!」

「え?見せてくれるの?」

「あ、後でよ!!」


 俺の質問にそっぽを向いて赤くなるリンネ。


「く、苦しい……ま、まさか……」


 そんな中、突然エレーナが苦しみだした。 


 そう……有名な方法とは空気をなくしてしまうことだ。しかしそれだと悟れれば対策されてしまうかもしれない。だから、サウナ状態にして息苦しさと空気の減少を悟らせないようにしたのだ。


「まさか……私の胸を……見ていたのも……演技だった……というの!?」

「そ、そう!!その通り見事罠にはまってくれたな!!」


 意識が朦朧としているエレーナが何か勘違いしてくれたので、俺はそれに乗っかることにした。


 エレーナグッジョブ!!君のことは忘れない!!


「本当にそうかしら?」

「そうなんだよ。全て作戦だったんだ!!」


 リンネにジト目で見られながらも、冷や汗を流しながら俺は言い訳した。


「ふーん。まぁいいわ。今回は許してあげる。次はないわよ!!」

「は、はひぃ!!」


 リンネはもう興味はないといった表情で答えるも、最後だけは物凄い威圧感のある表情で念を押しされる。


 怖い!!


 俺は二度と本能に従わないと決意した。


 絶対に守れるとは言わないがね!!


「こんな……茶番に……や……ら……れ……る……なんて……無念……ガクッ」


 そして、リンネとやり取りをしている内にエレーナは事切れて光と共に消えてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る