第079話 トウダイモトクラシー

 ぼぅっとしていたらいつの間にかソファーで眠っていたらしい。


 窓の外を見るともうすっかり朝だった。馬車は変わらず動いている。


 ここの所あまり気が休まらなかったから疲れていたんだろう。

 インフィレーネと馬車で安全なため、気が抜けてしまった。


 流石に毎日襲い掛かられては気も滅入る。


「あら、起きたのね。おはよう」


 リンネはどうやらシャワーを浴びていたらしく、浴室から出てきた。


 絶妙に湿った髪の毛と上気した肌が艶めかしい。


 いやいや、こんな時にそんなことを考えてる場合じゃない。


「ああ、寝てしまっていたようだな。おはよう」

「ええ、ぐっすりだったわよ。私もさっきまで寝てたわ」


 リンネも気を遣って戦っていたから疲れただろう。


 彼女はストンと俺の隣に腰を下ろす。


 なんていうか絶妙な丈のワンピース状の服から覗く生足が眩しくて邪な気持ちがわいてしまうのを止められない。


 我慢だ!!我慢するんだ!!


「それにしても獣人があんな風になるのはなんでだろうな?」


 俺は無理やり思考を切り替える。


「そうねぇ。今のところわかるのは、昼は少なくとも表面上はおかしくならないことと、私たちが行くと夜に必ず豹変していること、それには私たちを視認している必要があること、くらいかしら」

「そうだな。これが俺たちのせいなのか。それとも獣人以外なら誰でもそうなのかわからないが、残ってるのはそこくらいか」


 リンネは顎に人差し指をあて、少し上の方を向いて思案しながら答えた。


 だからなんでいちいち仕草があざといんだよ!!

 せっかく思考を切り替えてるのに!!


 落ち着け!!俺の息子よ!!


「そうなるわね。今日はそこを調べてみましょうか」

「ふぅ……そうするか」


 俺は気持ちを静めるように息を吐いて、返事をした。


「あら?元気がないわね?」


 リンネは俺の元気に覇気がないのを感じ取って隣から俺の頬に手を添え、前かがみになって顔を覗き込む。


 ワンピースが重力に従い少したわんで胸元が露になる。


 うぉーい!!これは天然か?天然なのか?

 見えそうで見えないのが一番エロんだぞ!!


 それに目の前に心配そうに悩まし気な表情のリンネの顔がある。


 風呂上がりのそれは俺の理性を削り取る。


 止めて!!もう俺の理性はゼロよ!!


「にゃーん(ごはんまだー?)」


 俺がまさに獣に成り下がりリンネに襲い掛かろうとしたところ、もう一つのソファーに丸まっていたイナホが顔を上げて催促する。


 ふぅ。あぶない。

 イナホのおかげで助かったぜ。


 もう少しでお猿さんになるところだった。

 ありがとうイナホ。


 そういえば、確かに腹が減ったな。


「そうだな。まずは腹ごしらえだ!!」

「急に元気になったわね。まぁいいわ。ご飯食べましょ」

「にゃーん!!(やったー!!)」


 ご飯を食べてひとまず落ち着こう。


 明鏡止水の境地だ!!


 俺は朝ご飯を倉庫から取り出してテーブルに並べ、ご飯を食べた。


 着替えて食後のティータイムを楽しんでいると、次の街が見えてくる。


 今までの街より大きく、発展しているようだ。ここなら獣人以外の種族もそれなりに暮らしているだろう。


 俺たちはさっそく町の中に潜入して辺りを探すと案の定、普通の人間やエルフ、その他の人種の人も一緒に暮らしている。しかも何の変調もきたしていない。


 これはやはり俺たちが原因ということか?


「ちょっと分かれて散策してみるか?」

「そうね。私とケンゴなら死ぬこともないだろうし、それで行きましょうか」


 俺たちはインフィレーネの隠ぺいを解いて、別々の方向へ歩き出した。


「お、おじさん、どうしたの?何か困ってるの?」


 俺が一人で歩き始めて大通りに出ると、突然非常に親切に話しかけられる。


 相手はお色気むんむんのお姉さん。頭には牛っぽい角と小さな耳が付いている。牛獣人かな。


 これは俺が原因の可能性が濃厚だな……。


 いやいや、まだわからないぞ!!


「いや、大丈夫だ。これから用があるんでな」

「遠慮しないで。私が案内してあげるから。ね?」


 俺が断って去ろうとすると、俺の腕に自分の腕を絡ませて意味ありげに呟く。


 その大きなものが俺の腕でたわんで、幸せな感触が包む。


 ふん!!リンネ以外に興味なんてないんだからね!!


「いや、本当に大丈夫だから。んじゃ俺は行くな」


 俺は腕を振りほどいてそそくさとその場を離れた。


 しかし……。


「おっさん!!」

「おじさん!!」

「おじちゃん!!」

「おじさま!!」


 老若男女問わずに獣人が話しかけてくる。その様子をみて他の人種の人たちが驚くほどだ。


 うーん、やっぱこれ俺だわ。


 俺は獣人に好かれるというか、あんな猟奇的な好意をぶつけられる覚えは……な……あ!!あったわ。


 獣人と言えばケモノ。つまりこれはケモノホイホイのせいか!!


 しかも、純粋な獣には好かれるが、獣人だとスキルの機能が上手く働かず、なぜか美味そうに見えるという話なのか!?


 なにそれめんどくさい!!


 くっそ。灯台下暗し。まさか俺のスキルが原因だったとは……。

 

 「完全にケンゴのせいじゃない!!」


 獣人をゾロゾロと連れ歩く俺を見てリンネがそう叫んだのは言うまでもない。

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