第080話 来るならぶっ飛ばせばいいじゃない
「うーん、これはどうしたものか」
俺たちはひとまず街を離れ、落ち着ける場所までやってきたところでインフィレーネで隠れて馬車に乗り込み、ソファーで考える。
俺が原因となるとこれから獣人国の王都とかに行かない方がいいんじゃないだろうか。獣人と会うたびに付きまとわれて、夜襲われるんじゃ、こっちも気が休まらないし、それ以上に狂わせてしまうことが申し訳ない。
というかよくアルクィネスで絡まれなかったな。
大体修行していたし、高級宿に泊まっていたから中々顔を合わす機会が少なかったおかげかな。
それはともかく。
「王都に行かないという選択肢もありか……」
「えぇ~!?遺跡に行かないの?」
俺の呟きを耳聡く拾って、悲し気に驚いて見せるリンネ。
そうだよなぁ。古代遺跡には行きたい。でもケモノホイホイが邪魔をする。
「もうちょっと情報を集めてみましょうよ」
「それもそうか」
確かにまだまだ分からないことだらけだ。
今までは気絶させてそのまま放置していたが、起きたら話が出来るか確認してみるのがいいかもしれない。
「それじゃあ、今度は俺たちが倒した相手に話を聞いてみることにしよう」
「そうね。その前にご飯食べましょ」
「腹が減っては戦はできぬってか」
「何それ」
「俺たちの国のことわざだよ」
「へぇ~。面白いわね」
「にゃおーん(きょうのごはんはなっにかなぁ~?)」
俺たちはひとまずご飯を食べることにした。
本当にいつもながらイナホはいい気なものである。
今日の夕食はとんかつ定食だった。
カツだけに勝つってことだろうか。
なんてベタな……。
悪くないけどね。
ご飯を食べた俺たちは、夜でも活動している少人数の獣人がいるグループを探し、接触図った。
「おうおう、肉が俺たちの前に飛び出してくるとはどういう了見だ?」
「そんなの俺たちに食われるために決まってんじゃねぇか」
「それもそうだな」
「やっちまえ!!」
「おう!!」
俺が出るなり、目を血走らせて襲い掛かる獣人達。
確認のため、リンネ達はインフィレーネで隠れたまま馬車で待機させていたが、案の定俺が原因で間違いなさそうだ。
俺は一瞬で制圧して軽く気絶させると、再び馬車に戻り、リンネとアニメを見ながら彼らが起きるのを待った。
『小人(あいつ)ら……駆逐してやる! この世から……一匹残らず!』
今見ているのは『進撃の小人』。地底にひっそり暮らしていた小人が反旗を翻して人間社会に攻め込んでくる話だ。
一匹いたら何十匹もいると言われるG君のように彼らは現れ、隠れ住んでいたとは思えない程高度な技術で作られた武器を背景に、小人というハンデをものともせずに、人々を虐殺していく。
いつもながら惚れ惚れするアテレコですなぁ。
『恐れ入ります』
アテレコしながらもきちんと答えるバレッタ。流石である。
「ねぇ、背中とかにはいってない?」
「入ってないぞ」
「そ、そう。それならよかったわ」
それから数時間程見続けたころ、リンネはしきりに自分の服の内部を確認していた。それもそのはず、そうやって人々を殺すシーンがあったからだ。
俺も確認するようにお願いされたので背中を見てやったが、何もいるわけがなかった。あったのは素晴らしく美しいお背中だけであった。
眼福である。
「リンネにも怖いものがあるなんてなぁ」
「怖くなんてないわ!!ただちょっと気味が悪いだけよ!!」
ビクビクするリンネをからかうように笑う俺に、リンネは顔を赤くして言い訳をする。
「そうか、そうだな。そういうことにしておこう」
「何よ!!文句でもあるの!?」
「いや何もない。おっ、起きたみたいだぞ?」
俺の生温かい態度が気に障ったのか、リンネが詰め寄ってくるが、ちょうどその時、外で動きがあった。
気絶した奴らの一人が体を起こしてあちこちを確認している。
「んじゃ行ってくる!!」
「あ、待ちなさい!!話はまだ終わっていないわよ!!」
俺はリンネの静止を振り切って馬車を降り、獣人の元へと近づいた。
「おい」
「あ、は、はい!!」
お!!急に声を掛けられて驚いているが、おれの声に普通に返事をしてきたぞ。
「お前なんでここで倒れてたか覚えてるか?」
「はぁ……確か誰かを見た途端、そいつが極上の肉に見えて気づけば襲い掛かったら……気づけば気絶していた」
話しかけると、記憶を探るように遠くを見るようにしながら答える獣人の男。
ある程度記憶もあるようだな。
「それはこんな奴じゃなかったか?」
俺は確認のために獣人の顔に自分の顔を近づけるようにして尋ねる。
「お、そうだ!!お前だよ!!でも今はそんなことがない。なんでだ?」
「俺が聞きたいんだがな」
ピコンと頭の上にビックリマークでも出たような表情になる獣人は、俺を指さしながら叫ぶ。
ふむふむ、なるほどなぁ。
俺を視認すると効果が発動して、気絶したら効果が解除されるってことか。
他の面々も目を覚ますと同様の状態だったので間違いないだろう。
その後、検証としてリンネが倒した場合はどうなるかも確認したが、その場合は、目を覚ますと俺に襲い掛かってきた。
つまり、おかしくなった奴らは俺が倒さないとだめだってことだ。
「倒してそれで治るのなら話は簡単よ!!」
「なんだ?」
「来るならぶっ飛ばせばいいじゃない!!」
分かったことをリンネと話し合っていると、リンネはそんなことを言う。
なんて男らしい!!
でも……。
「流石にそれは駄目じゃないか?」
「いえ、この国は元から強いものに決闘を申し込むようなことが日常茶飯事で行われているわ。だから戦って正気に戻るなら、それでいいのよ。大体獣王だってそんな感じだし」
「マジか」
それでいいのか獣人国。
俺は天を仰いだ。
「それはそうと……つ・か・ま・え・た!!」
真面目な話をしていたかと思うと俺はリンネに脇からホールドされていた。
一体なんだ!?
「さっきはよくもからかってくれたわね!!お返しよ!!」
「ぐわぁああああああああああ!!」
その後、悪魔のように笑うリンネにめちゃくちゃ良いようにされた。
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