第049話 空気を読まないテンプレ

 すっかり夜になってしまったので馬車を停車させる。


「夜は船に行かないのかしら?」

「ああ。こういう時は外で食べるのがいいんだよ」


 馬車から降りたリンネが俺に尋ねると、俺は夜空を見上げながらそう答えた。


「デザート……」


 小さく呟いたつもりだろうが、バッチリ聞こえてるからな?


「デザートはちゃんと作ってもらうから安心しろ」

「やった!!」


 素直なリンネも可愛いな。


「そ、それで夜は何を食べるのかしら?」


 取り繕うように俺に尋ねるリンネに、「バーベキューだ!!」と答える。


「バーベキュー?」


 聞いたことのない言葉にリンネは首を傾げる。


「バーベキューっていうのは、自分たちで網の上で肉や野菜、魚介類を焼いて食べたり、お酒を飲んだりすることさ」

「野営みたいね。でもなんか美味しそうじゃない。早く準備してよね」

「分かってるって」


 俺は倉庫からバーベキューセットと食材を置く机を取り出して設置した。


「こんなところに新鮮な肉や魚介類があるなんて信じられないわ」

「船の倉庫内のアイテムは時間が止まってるからな」

「そんなことまでできるのね……」


 新鮮な食材を見て絶句するリンネ。


「ほらほら、固まってないで食べようぜ。まずは俺がやって見せるから」

「わ、分かったわ」


 そんなリンネの背中を押して串に刺された肉や野菜、そして下ごしらえされた魚介類を網の上で焼いていく。ジュ~ッと食材を焦がす音が心地いい。


 バーベキューの食材をバッチリ準備してくれているバレッタは流石だな。


『恐縮です』


 バレッタの呟きが小さく聞こえた。


「あ~、めちゃくちゃいい匂いだな」

「ホントね」


 焼いて見せてる横でリンネが口からよだれを垂らしている。食いしん坊かよ。


 食材を焼いた時の匂いが辺りに広がっていく。


「そろそろいいか。肉はそのままでもいいし、あそこのタレをつけて食べてもいい。魚介は俺が味をつけてやるから、焼けたらそのまま食べたらいいぞ」

「わ、分かったわ」


 頃合いになったのでリンネに説明し、俺は缶ビールを取り出した。


「ほら」

「ん?なにこれ?」


 俺が手渡したビールをあちこちから眺めながらリンネが尋ねる。


「ビールだ」

「ビール?」


 ビールもこっちじゃ伝わらないか……。


「ん~、こっちだとエールに近いか」

「ふーん」


 リンネは興味深そうに缶を眺める。


 このビール缶無駄にスペックが高く、冷却機能が付いていて常に最高の温度を保ってくれる。


「こうやってあけて飲むんだ」


 俺が缶を開けてみせると、「分かったわ」と頷くリンネ。


―プシュッ


 リンネが小気味良い音を響かせると準備完了。


「それじゃあ食べるか。いただきます」

「いただきます!!」

「「カンパーイ!!」」


 日本式の挨拶の後、俺たちはビール缶をカンッと耳心地の良い音を響かせて各々料理を食べ始めた。


―ゴクゴクゴクッ


 そして、料理を流し込むように喉を流しながらビールを飲む。


「「くぅ~!!ぷはー」」


 奇しくもお互いのタイミングで同じような感嘆の声を漏らすと、お互いに顔を見合わせて二人で小さく笑った。


「やっぱり外で食べるバーベキューは格別だなぁ」

「ケンゴの言いたいことが少しわかったわ。バーベキュー、これはいいものね!!それにビール?が冷えてるのがたまらないわ!!」

「だろ?」


 リンネが俺に同意してくれたので、ニヤリと口元を吊り上げて彼女を見やる。彼女はリスのように口いっぱいに料理を詰め込んでモキュモキュと食べ始めていた。

 

「おいおい、こんなところでいい匂いさせてるじゃねぇか。俺たちにも分けてくれよ」


 そんなところにこの場に不釣り合いな声が響く。


「誰だ?」


 ヤバッ。インフィレーネで探査とかしてなかったわ。


 俺が声の主の方に視線を向けると、そこにいたのは鎧姿をしたいかにも悪そうな人相の男たち。


「おいおい、こんなところにいるのは何か相場は決まってるだろ?」

「迷子か」

「違うわ!!」


 食事を邪魔されたので冗談ぶっていってみると、リーダー格の男が突っ込みを入れた。


「どう見ても盗賊だろ!!盗賊!!なんで迷子なんだよ!!」

「いや~、どこかの国から流れてきた流民か何かかと」


 そこそこ良さそうな装備してるなぁ。盗賊としては中々やり手なんだろうか?

 いや、俺たちの力量を測れないことを考えると、そこまででもないか。


「うっせぇよ!!流民がこんな装備してるわけじゃねぇだろ!!それより、それだけ美味そうな物を食べてるなら金目の物もってんだろ?早く出せよ」

「出すと思ってんのか?」


 凄む盗賊に、俺は特別態度を変えることもなく答える。


「はん!!二人だけでこれだけの人数に勝てる思ってんのか?」

「質問に質問で返すんじゃねぇよ。うわっ、やばっ!!」


 盗賊の返事の文句を言った後、俺は殺気を感じたので後ろを振り返ると、リンネの顔の上半分に影が落ち、赤い目が爛々と輝いていた。そして髪が重力に逆らうように逆立ち、全身からどす黒いオーラを放っている。


「あんたたち!!私たちの食事の邪魔をしてただ済むと思ってないでしょうね!!」


 ゴゴゴゴゴゴゴという地鳴りのような音が聞こえるかのようなリンネの剣幕。


「「ひ、ひぃ!!」」


 殺気に当てられた俺と盗賊は一緒になって悲鳴を上げた。


「覚悟なさい!!」


 そう言った後、リンネは盗賊たちを一瞬でボコボコにしてしまった。

 

 テンプレイベントも良いけど、時と場合を選んでくれよ。


 俺はそう思わずにはいられなかった。

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