第048話 魔法少女

 俺たちは昼食兼パーティを終えると馬車へと戻ってきていた。


「疑って悪かったわね、バレッタは違ったみたい」

「分かってくれたならそれでいい」


 船に行く前に疑っていたことを詫びるリンネ。俺は絶対に問題ないと思っていたので気にしていない雰囲気で答えた。


「それにしても凄い船だったわね」

「だろ。あそこを知ってしまうと、他では物足りなくなるんだよな」


 リンネが思い出しながら言うので、俺も相槌をうつ。


「それじゃあ、出発するか」

「ええ」


 俺はインフィレーネでゴーレム馬に指示を出した。


 俺たちはそれから船の話をしながら馬車に揺られていたが、流石に話題がなくなってきたので、テレビをつけてリンネにアニメ作品を見せてみる。


 俺は船の中でオーディオルームを見つけた時に目をつけていたんだ。この船には日本にはなかったアニメが沢山並んでいた。ある程度落ち着いたら見てみようと思っていたが、その機会が来たようだ。


 その名も『魔法少女マジマジこのは』だ!!


 リンネは魔法に憧れがあるからネーミングでこの作品を選んでみた。


 俺はテレビをつけて、作品を選択して再生を始めた。


「な、なによこれ、板の中に人がいるわ!!」


 とリンネが叫び始めた。


 一旦再生を止める。


 マジでテレビの無い世界の人はこういう反応をするんだなぁ。

 アニメでもそういう反応なのが不思議だ。


「これはテレビって言って、物凄く簡単にいえば演劇を記録して家で見れるようにした道具だ」

「そ、そうなの?人が実際に中にいるわけじゃないのね?」

「そうだ」


 焦っていたリンネだが、俺の説明を聞いて落ち着いてきた。


「そ、そうなのね。それでこれはなんていう演劇なのかしら?」

「『魔法少女マジマジこのは』という作品だ」

「魔法少女!?それは是非とも見てみたいわ!!」

「お、おう。リンネが想像しているのとは違うとは思うが見てみるか」

「早くしなさいよ!!」


 魔法少女と聞いて目の色を変えるリンネ。俺は宥めながらリモコンで再生を始めた。


「何言ってるか分からないわね……」


 物語が始まるが言葉が分からない。そういえばそうか。1億年前の作品だ。言葉が違って当然だった。俺は言語理解で普通に分かったから気づかなかった。


 こういうときはどうしたらいいか……。


『私が通訳しましょう』


 困った時のバレッタさんが現れた。


「バレッタ!!お願いね!!」

『かしこまりました』


 リンネがバレッタの通信に返事をすると、バレッタのアテレコが始まった。


『私空を飛んでる!!』


 その演技力の高さと、声色の多さがヤバい。

 これ一人でやってるとは思えないぞ。

 バレッタさん有能すぎる。


「なによこれ!!女の子が空を飛んでるわ!!魔法使いが空を飛べるなんて話は聞いたことがないわ!!凄いわ!!」


 冒頭、魔法少女の女の子が空を飛んでるシーンから始まったのだが、リンネは立ち上がって大興奮。


「いや、魔法使いと魔法少女は違うから」


 俺は引き気味に答える。


「それなら魔法使いは空を飛べないのかしら……」

「それはわからないけど……」


 悲しそうにするリンネに百パーセント無理だとは言えないので言葉を濁すと、


「可能性があるのなら練習してみる価値はあるわ!!」


 こぶしを握って練習をする覚悟を決めていた。


 魔法少女物を見せるのは逸まったかもしれない。


 ちなみにリンネはまだ魔法を使えるようになっていない。魔法の先生や魔法の資料などを探してみるつもりだが、俺はすでに少し後悔していた。


『僕を装着して魔法少女になってよ』

「私もこの変な生き物を装着すれば魔法少女になれるんじゃないかしら?」


 生物なのかなんなのかよく分からない相手を装着することで魔法少女に変身できるようになるシーンで、リンネはそんなことをいいだした。


 『魔法少女マジマジこのは』は所謂魔法と関係のある何らかを装着なりなんなりして魔法少女となり、ヒラヒラした可愛い服装で敵とドンパチする系の作品らしい。


 描写される街並みや文化レベルが俺がいた世界と似通っているのが面白い。あの宇宙船を作れるくらいの文化レベルなら、もっとスマートかつ効率的な街並みになっていそうだしな。


 古い時代には戻れないからこそ、製作者はその時代に一種の憧れと似た感情を持っていたのかもしれない。


「流石にあんな生物はいないと思うぞ?」

「そうかしら?」

「この作品は空想の物語だからな?」

「でも分からないじゃない!!」


 そうだ、ああいう話は実際にはありえない。だからこそ面白い。



 いや本当にそうだろうか……。



 実際に異世界はあった。もしかしたらああいう生物がいる可能性もある。探してみる価値はあるかもしれない。


「分かった分かった。旅の間に色々探してみよう」


 そう思った俺はリンネに根負けして彼女を魔法少女にしてくれる生物を探すという目標も旅の目的の一つとして加えた。


「やった!!」


 俺の返事に花開いたような笑顔で喜ぶリンネ。


「ただし、見つからなかったり、選ばれなかったら諦めるんだぞ。魔法を教えてくれる人探してやるから」

「わ、分かったわ」


 一応ちゃんと釘をさすと、渋々ながら了承するように頷いた。


 その後、俺とリンネは泣いたり、笑ったりしながらアニメを見続け、いつしか夜になっていた。

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