第046話 黒幕との邂逅
「お待ちしておりました。ケンゴ様、リンネ様」
視界が切り替わると、目の前にバレッタがその美しすぎる容姿とポーズを晒していた。
「あ、あんたねバレッタっていうのは!!」
リンネが俺の腕をギュッと抱きしめながら威嚇するように叫ぶ。
「はい、リンネ様。私はケンゴ様の彼女の一人。バレッタと申します」
「やっぱり彼女だったじゃない!!」
バレッタの言葉に、ムキーっと俺をにらんで詰め寄るリンネ。
おいおい、バレッタ勘弁してくれよ!!
「ちょっと待てリンネ、話をすればわかる!!」
「うるさいわね!!問答無用!!」
俺かサッと素早く離れて剣を抜くリンネに、俺は慌てて弁明する。
バレッタなんとかしてくれ!!
「待ってください、リンネ様。ふふ、彼女というのは冗談ですよ」
「ふん、どうだか……」
バレッタが間に入ることで俺への攻撃を取りやめるが、リンネはフンと不機嫌そうに顔を反らす。
「今のはリンネ様がケンゴ様をどの程度好きかどうか試したまで。とてもお好きなようでケンゴ様のパーフェクトメイドとして非常に安心いたしました」
「な!?ちがっ!!」
にこやかに笑って宣うバレッタに、リンネは言葉を失った。
そうやってリンネをからかうんじゃないぞ!!
「改めまして、私はこの船のメンテナンスから操縦、射撃、通信など、あらゆる作業をこなし、乗組員のお世話までを行う、パーフェクトなアンドロイドメイド、PM-4526型、個体名バレッタと申します。ひと月ほど前に、ケンゴ様に私が仕える新たなるご主人様になっていただきました。以後お見知りおきを」
バレッタはリンネの威嚇などなんのそのといった雰囲気で俺の時と同様の自己紹介をして、一寸の狂いも無いカーテシーを決めた。
「そういえば、な、なんで私の名前を知っているのよ!!」
「それはご主人様が見たモノ聞いたものを全て理解しているのがメイドですから。ケンゴ様がどれほどリンネ様をお好きかも、またリンネ様がどれほどケンゴ様をお好きかも、もちろん全て存じております。ただ、一度きちんと自分の目で確認させていただきたいと思い、差し出がましい真似をしてしまいました。申し訳ございません。以後はお二人がより仲睦まじい関係になるようにサポートいたしますのでご安心ください」
自分の名前が知られていることに焦るリンネに、バレッタは作り物じみた笑みをにこりと浮かべて答えた。
「ケンゴ、なんかこいつ怖いわよ?大丈夫なの?」
リンネが耳元でささやく。
確かにあの笑顔で見られるとゾクゾクするが、バレッタに見られている以外は全く問題がない。まぁその一点が大問題ではあるのだが、もうご主人様になってしまったので仕方ないのだ。どうしようもない。
そしてリンネも仕える対象となってしまったようだ。何をしても仕えられてしまうのだから今更何を言ったところで遅い。
「大丈夫だ。バレッタは素晴らしいメイドだぞ?」
俺は遠い目をしながら、できるだけ自然な表情で肯定するように頷いた。
俺たちの情事含め全部見られているとかは言わない方がいいだろう。言ったらリンネが暴れだすかもしれない。
「それに物凄く有能なんだぞ?なんでもできるんだ」
「お褒めいただき恐縮です。ただし、なんでもはできません。できる事だけです」
俺の称賛に、どこぞの委員長みたいな言葉を吐くバレッタ。
できないことなんてあるのか?
甚だ疑問である。
「それで疑いは晴れたか?」
「うーん」
リンネはまだバレッタに疑いをもっているようだ。
そんな時、
「リンネ様。いえ奥様。私とケンゴ様は所謂恋愛関係などという関係ではございません。私はあくまでメイド。ご主人様の忠実なる
などとバレッタが言い出した。
「お、奥様!?」
突然の言葉にリンネが驚愕する。
「はい、ご主人様の恋人とは即ち伴侶候補に他なりません。ならば、唯一の伴侶候補であるリンネ様は、そう呼ぶのがふさわしいでしょう」
「そ、そそそ、それは気が早いんじゃないかしら?私とケンゴはまだこ、こここ、恋人になったばかりなのよ?」
言い切るバレッタに、慌てふためくリンネ。
これは……。
「問題ございません。大事なのは今です。今ケンゴ様の唯一の恋人であるリンネ様こそ、奥様と呼ばれるにふさわしい人物です」
「ふ、ふーん。そうかしら?」
リンネはそっぽを向いて髪の毛の先をいじりながら、まんざらでもない表情になってきた。
おいおい。
「どうしても嫌ということであれば、元のままリンネ様と呼ばせていただきますが……」
バレッタがさぞ困ったような顔をして言葉を濁すと、
「し、仕方ないわね!!ケンゴなんて全然好きじゃないし、結婚とかしないと思うけど!!と・く・べ・つ・に!!そう呼ぶことを許すわ!!」
とリンネは上機嫌になって答えた。
「ありがとうございます」
バレッタはさっきまでの表情はなんだったのか、というくらいの笑みでお辞儀を披露する。
「ケンゴ!!どうやらバレッタは悪い人じゃなさそうね!!」
「そ、そうだな」
バレッタとのやり取りですっかり機嫌を直してにこやかに笑うリンネに、俺は苦笑した。
落ちた……。
相変わらずちょろすぎるぞリンネ!!
もうチョロネさんだよ!!
俺はむしろ心配になってきたぞ!!
「それはそうと、ご飯を食べないか?」
「そうね、お腹が空いたわ」
疑いが晴れたようなので、俺は話題を切り替えた。
リンネも悲しそうにお腹に手をあてている。
「それではケンゴ様、奥様、ちょうど昼食のお時間ですので、食堂へと向かいましょう」
「ああ」
「ふふん、いいわ」
敢えて「奥様」の部分を強調するバレッタに、リンネは気をよくしてついていくので、俺もその後を追った。
結果的に疑惑が晴れたのだから良しとするか。
「ドアが勝手に開くなんて不思議ね!!」
「なんかゴーレムみたいなのがいるわ!!」
「変な造りね!!」
食堂までの道中、リンネは気を張っていて気づかなかった船のつくりについて興味深々に観察しては、俺たちに話しかけてウキウキとした気分が丸わかりの状態のまま食堂についた。
そして扉があいた途端、
「な、なんなのよこれぇええええええええええええええええええ!?」
と中を覗くなり絶叫するリンネ。
どうしたのかと俺が中を覗くと、そこには
『ケンゴ様童貞卒業&リンネ様処女喪失祝賀パーティ』
と書かれていた横断幕が天井からぶら下がっていた。
あちゃー。
俺が額に手をあてて、参ったという仕草をすると、
「なんでバレッタが知ってるのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
と、再びリンネの絶叫が食堂内に響き渡った。
この後、めちゃくちゃ説明した。
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