第045話 早速浮気?

「やっぱりこうやって景色を楽しみながら旅をするのが醍醐味だよな」


 リンネが落ち着いた後、壁際の窓の近くに設置してあるテーブルについて外の景色を眺めながら馬車を走らせている。


「ふぅ……。そうね、たしかにこれほど揺れなくて、こんな風に紅茶を飲みながらゆったりできるなら馬車の旅も悪くないわ」


 俺の呟きにリンネが紅茶を置いて相槌をうった。


 冒険者の首都の近くだけあってモンスターや盗賊は見当たらない。穏やかな平原が視界を支配していた。日本では中々見られない光景に心が躍る。


「だろ?御者もいらないし、楽なもんだ」

「そうね」


 しかも自分が車を運転したり、何を用意したりする必要もなくて、誰かに気を遣うことも無い。


「それでエルフの国ってどんな国なんだ?」

「そうねぇ。一言で言うなら自然豊かで、その自然と共に暮らしてる感じかしら。農業が盛んでその収穫物を周辺の国に輸出しているわ。それにエルフは魔法や弓が得意ね」


 俺の質問に、少しうーんと考えるような仕草をしてリンネが答える。


 聞いた限りは大体イメージ通りのエルフ像だ。


「排他的だったり、肉が食えなかったりって話は聞いたことあるか?」

「うーん、確かに普通の人間に比べれば警戒心が強いけど、排他的って程じゃないわ。それにお肉が食べられないって話は聞いたことがないわね。皆バクバク食べてたわよ」

「な、なんだと!?」


 他のエルフ像についても質問すると、信じられない答えが返ってきた。


 エルフが警戒心が少し強い程度だと!?

 それに肉を食べられるだと!?

 この世界のエルフは菜食主義者じゃないのか!?


 俺は衝撃を受けた。


「他にはそうね……」


 俺たちはその後もエルフの国やこの世界のこと、そして俺のことやインフィレーネの事を話しながら旅を続けた。


 数時間ほど経ち、丁度昼になった頃、


『ケンゴ様、転送装置の使用が可能となりました』


 と突然バレッタからの通信が入った。


 なんでこのタイミングで?と疑問に思っていると、「今の女の声は誰よ!?」とリンネがすぐに俺に近づき詰め寄った。


「なるほど、そういうことか、ちょうどいい。声の主も紹介するよ」


 リンネにはすでに俺の秘密を話しているし、今は昼時でそろそろご飯の時間だ。


 つまり今船に連れて行ってもなんら問題ない状態だ。バレッタを紹介し、そして俺好みの料理が食べられるのなら言うことはない。


 だから俺はバレッタの意図を理解してリンネを船に招待することにした。


「何!?私の他にか、かかかか、彼女がいるっていうの!?信じられない!!」

「バレッタはそんなんじゃないよ。行けば分かるさ」


 リンネは盛大に勘違いしているが、バレッタ先生はそんな相手じゃないのは会った瞬間分かるだろう。


 俺にそんな甲斐性があると思っているのだろうか……。


「バレッタっていうのね、泥棒猫の名前は!!」

「まぁまぁ落ち着いて。今は黙って俺の体のどこかに触っていてくれ」


 名前が分かってなおのことヒートアップしているが、なんとか宥めて俺の体に障ってもらうとする。しかし、獣がガルルと威嚇するように反発して隅に逃げ出した。


「な、なにするのよ!?」


 リンネは俺が近づくと怯えるような表情をしながらも今度は逃げようとはしない。というよりは部屋の隅なので逃げられない。


「少し落ち着いてくれ」


 俺は仕方ないので、大人しくさせるためにリンネを優しく抱きしめる。


「誤魔化そうったってそうはいかないわ!!」

「ひとまず騙されたと思って頼む。バレッタがそんな相手だったらどうにでもしれくれていいから。な?」


 リンネは体をこわばらせながら虚勢を張るので、俺は抱きしめながら優しく諭すようにお願いすると、先ほどまでの荒々しい気配がゆっくりと落ち着いていき、消沈していく。


 数分後、落ち着いたのを見計らって体を離すと、


「そこまでいうなら仕方ないわね!!お願いを聞いてあげるわ!!」


 と言いながら、彼女は決戦に挑む戦士のような顔で俺の腕をムギュっとかき抱いだ。これから出会うであろうバレッタへの牽制にしようという腹積もりなのかもしれない。


「まずは馬車を止めよう」


 俺はそんなリンネを微笑ましく思いながら、道からどかして停車させ、二人とも外に出て馬車は倉庫にしまう。


「それじゃあ離すなよ?」

「ええ、バレッタって奴をとっちめてやるわ!!」

『帰還!!』


 リンネがしっかりつかまっているのを確認すると、インフィレーネの本体であるインフィラグメの帰投機能を使用して船へと飛んだ。

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