第057話 条件

「おいおい、剣神様ロリとか言ったぞ?」

「女王陛下をロリとか言えるクソ度胸あるか?」

「俺にはないな」

「しかも女王陛下の前での堂々とした態度みましたか?」

「見た。俺たちでも頭下げて平伏してるからな」


 周りが騒がしくなる。


 お前たちコソコソ言ってるようだけど、全部女王陛下にも聞こえてんぞ!!


 おかげで彼女もプルプルしてるし。


「すまない。つい思ったことが口に出てしまった」

「いえいえ、いいのですよ。慣れてるので」


 え、いいんだ。とても寛大なロリちゃんだ。

 流石声に計り知れないバブみを持っているだけある。


「ケンゴに何かしたら私が相手になるわ」


 憮然とした態度でリンネが言い放つ。


「だから何もしないですよ、リンネちゃんのだ・い・じ・な人ですものね」


 女王陛下は聖母のような優し気な眼差しで茶目っ気たっぷりにウインクを送った。


「そ、そうよ。私のこ、恋人だもの。ケンゴを傷つける者は何人たりとも許さないわ」


 目を伏せて頬を赤らめながら答えるリンネ。


「まぁまぁ!!あのリンネちゃんがすっかり恋する乙女ですね!!」

「違うわよ!!ケンゴが恋人になってほしいっていうから、し・か・た・な・く一緒にいてあげてるのよ!!」


 目を輝かせる女王陛下に、ムキになって否定するリンネが凄く可愛いです。


「全くリンネちゃんたら素直じゃないんですから」

「ふん!!」


 リンネは腕を組んでプイっと顔をそむけた。


「じゃあ、こういうことをしてもいいのでしょうか?」


 そう言って玉座を降り、俺の横に近づいて腕を取ろうとする女王陛下。


―バシッ


「えっ!?」


 弾かれた女王陛下は思いがけず尻もちをついた。


「ふん、ケンゴに触れられるのは私だけなのよ!!」

「ニャッ(なに!?)」


 俺にイナホを預け、腕を組んで胸をギュムッと押し付け、女王陛下を見下ろすリンネ。イナホがウトウトしていたところを急に俺に渡されたので、不満げな表情をしている。


 それにしても俺は何もしてないのにインフィレーネが勝手にはじいたぞ?

 何が起こったんだ?


 まさか……。


 まぁいい。深く考えるのはやめよう。


 それに流石に女王陛下相手にこの態度はどうかと思うんだけど……。


「ふぅ……凄いですね。私相手にも隙を見せないとは……。流石不可視の剣神といったところですか」


 立ち上がってその小さなお尻をパンパンとはたいて女王陛下は玉座に戻る。


 その二つ名はやめろ。


「陛下、申し訳ない」


 俺は図らずも弾いてしまったことを頭を下げて詫びた。


「いいのですよ。私にこんなことしたら普通なら不敬罪になりますけど、私がいじわるしようとした結果ですし、あなたはリンネの大事な人ですもの。このくらいなんともないですわ。それからあなたもアレナと呼んでください」

「流石にそんな風に呼ぶわけには……」


 女王陛下は慈愛の含んだ笑みを浮かべてそんなことを言うが、流石に不敬というものだろう。


 最初の不敬の時点で今更感はあるが。


「リンネが英雄であると同時に、あなたも英雄なのですよ?」


 俺が渋っていると、アレリアーナがよく分からないことを言いだした。


「それはどういうことだ?」


 俺は意味が分からないの尋ねる。


「ギガントツヴァイトホーンは昔この国を通り、暴れたことがあるのです。それを追い払ったのはリンネちゃん含むSSSランク冒険者の3人でした。そしてそのギガントツヴァイトホーンを倒したのがあなたって事ですね。当時私たちにも大きな被害が出ました。その相手を倒してくれたあなたは私達の国でも英雄なのです」

「そ、そうか」


 アレリアーナの言葉に俺は困惑しながら頷いた。


 マジか。ここでも武器がカッコよくて使ってみたかったから殺したとか言えない雰囲気だ。それにちゃんと情報が伝わってたんだな。流石国の王。それくらいは知っていて当然か。


「ええ、だから皆あなたにも敬意と感謝の気持ちを持っています。そんな相手に私への不敬だのなんだの言う人はこの国にはいません。だからぜひ名前で呼んでください」

「そうか……わかった、アレナ」

「はい。それで?リンネちゃん、ここに来た目的は何でしょうか?私に会いに来てくれた、という訳じゃないんですよね?」


 そういうことなら仕方ないと、略称で呼ばせてもらうと、女王が満足げに笑って話題を本題に移す。


「ええ。アレナに会いたかったのもあるけど、この国にあるという古代遺跡に入らせてほしいのよ」

「遺跡に?なんのために?」


 キョトンとした顔で問うアレナ。


「そんなの決まってるじゃない!!冒険よ!!」

「はぁ……またなのね。あそこはとても危険ですよ?罠だらけで多くの者が死んでいます、私の……」


 さも当然のように語るリンネに、また始まったわ、とアレナは呆れ気味の表情ををした後、憂いを帯びた表情になった。


「私の?」

「いえ、なんでもありません」


 言いかけた言葉を不思議そうに尋ねるリンネに、アレナは目をつぶって首を振った。


「そう?それに危険は承知よ。それにケンゴがいるから問題ないわ」


 フフンと鼻を鳴らして自慢げに語るリンネ。


「あらあら、とても信頼しているのですね。うらやましい。私にもそんな相手が現れないでしょうか」

「ケンゴはあげないわよ!!」


 それをうらやましそうに見て、俺に流し目を送るアレナだが、その視線を遮るようにアレナの視線の前に立ち、威嚇する。


 完全にリンネをからかって遊んでいるな。


「分かっていますよ。それに私はケンゴのお眼鏡にかないそうにないですからね」

「分かってるならいいわ」


 リンネが警戒を解いた。


「それで遺跡なんですけど、リンネちゃんとケンゴの願いなら特別に許可してあげてもいいです」

「ホント!?」


 本題に戻ると、アレナの返事にリンネが目を輝かせる。


 現金だな。


「でも、ひとつ条件があります」

「な、なにかしら?」


 アレナが指を一本立てると、リンネはゴクリと生唾を飲んだ。


 何かヤバい条件とかじゃないといいけど……。


「ただでさえ恩のあるあなた達にこんなことを頼むのは悪いのですが、どうにも世界樹の調子が良くないようなのです」

「世界樹が?」


 アレナの言葉にリンネは怪訝な表情を浮かべる。


「そう。古代遺跡はその世界樹の根元にあります。遺跡にも影響があるかもしれません。だからまず先に世界樹の不調の原因を調査してもらえないでしょうか?」

「エルフに分からないことが私たちにわかるかしら?」


 リンネは頬杖を突くようなポーズで頭を傾げている。


 お願いに疑問を浮かべているようだ。


 確かに森の守り手たるエルフが分からないことが俺たちにわかるとは思えないが……。いや、インフィレーネやバレッタなら何か分かるかもしれないな。


「ダメもとです。私たちも手を尽くましたけど、原因が分かりませんでした。だから英雄であるあなた達に調査してもらいたいのです。あなた達なら何か見つかるかもしれないじゃないですか」

「うーん、わかったわ。でも何も分からなくても文句は言わないでよね」


 リンネもアレナの態度に断れきれなくなって引きうけた。


 何か手掛かりでも見つけられれば御の字だろう。


「分かってますよ。きちんと調査してもらえるなら何も分からなかったとしても遺跡への立ち入りを許可します」

「分かった。それなら引き受けるわ」


 報酬の確約をとって取引完了である。


「ありがとうございます」

「やれるだけやってみるわ。それじゃあ、早速行くわね」

「いえ、もうすぐ日も暮れますし、今日のところはうちで休んで明日からにしてはどうですか?」

「それもそうね。分かったわ」


俺たちは一つの個室をあてがわれ、夜は熱烈な歓迎を受けて城で一夜を過ごした。

 

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