第056話 世界樹と王城

 城は世界樹の麓にあったが、世界樹が規格外にデカすぎてひっそりと隠れて建てられているようにさえ見える。しかし、世界樹の麓には大きな湖があり、その中心の孤島に城が高々と聳え立っていた。世界樹からの木漏れ日が水面や城壁に反射して、それはそれは幻想的な光景だ。


 世界樹はもはや木なのかが疑わしいくらいにデカい。山を見上げているような気分になる。しかし、きちんと緑の葉が付いていて、


 あれが有名な世界樹の葉か……


 とついつい心の中で名作RPGを思い出してしまった。


 それにしてもあの葉っぱ一枚どのくらいの大きさがあるんだ?


 単純に考えて、普通の広葉樹が10メートルくらいだとすると、世界樹はおそらく数千メートル。ここでは3000メートルだと計算すると、300倍の大きさ。


 葉っぱ一枚が10センチメートルだとすると、300倍だから3000センチメートル。つまり30メートルの葉っぱだ。デカすぎだろ。


「間近で見るとホントでデカいな。ギガントツヴァイトホーンと比べても比じゃないくらいだ」

「まぁね。これほど大きな物は山を除けはそうないと思うわ」

「他にもあるのか?」


 リンネは他にもこんな大きな物体を知っているようにつぶやくので聞いてみる。


「いいえ。でもこの世界にはまだ未踏の地がたくさん残っている。そこに何かがあるかもしれないでしょ?」


 リンネは見た目通り年齢のように舌を出して片目をウインクした。


 何それ可愛い。おっさんの心にキュンときました。


「リンネはそういうの好きそうだな」

「ええ。誰も見たことも無いものを見た時の感動は忘れられないわ」


 俺の返事に、いつかの記憶を思い起こしているのか遠い目をキラキラとさせていた。


 この娘は冒険の話をしている時は本当にいい顔をする。


「そっか。これから沢山見ることになるだろうな」

「どうして?」


 俺が当然のように言うと、リンネはきょとんとした顔で掲げる。


 何せこれからも世界中の古代遺跡をめぐるわけだし、それ以前に超古代文明の遺物である宇宙船をもってる。飛べるようになれば世界中どこにでも行けるし、それ以上に星の外にさえ出ることが可能だ。そんな世界を見たことがある人間がこの星にどれほどいるだろうか。


 俺はリンネにその世界を見せてやれる幸運を手に入れた。それがたまらなく嬉しかった。


「そりゃあ、俺と冒険するんだからな」

「そうね……その通りね!!」


 自信ありげにニヤリと笑う俺に、なんともなしに呟き、俺と出会ってからのことを思い返して思い当たったかのようにニッコリと笑って言い直した。


 やっぱりこの子の自然な笑顔は眩しいな。


「なんだ?今日は素直だな」

「べ、別に。私はいつも素直よ!!」

「そっか」 

「そうよ」


 そんな会話をしていると、「開門!!」と大きな声が聞こえて孤島に繋がる一本道が門の向こうに顔を出した。城へと続く道は水面の光が反射して輝き、まるで栄光へ続く道かのようだ。


「綺麗だな」

「そうね」


 ヘロヘロになりながら、前を蛇行しながら走るアインを尻目に俺たちの時間はゆるやかに流れていた。


 城の前まで来ると、イナホを起こしてリンネが抱え、俺たちは馬車を降りて倉庫に仕舞い込む。


 俺たちが姿を現すと、


「おい、アレが剣神様か?」

「そうらしい。それにしてもあの馬車ヤバくないか?」

「ほんそれ。見たことも無いけど速さが段違いだ。アイル小隊長があの様子だぜ?」

「ああ、それにリンネ様同様にやっぱりアイテムバックみたいなのをもってるんだな。何もせずに消えたぜ」

「それもそうですが、あのリンネ様の幸せそうな顔を見てくださいよ」

「ああ、あの顔を見れただけで俺は生きててよかった」

「大げさだけど、わかるなその気持ち」

「幸せならOKです!!」


 などと辺りにいたエルフたちが囁いていた。


 ここでもすでに情報が知れ渡っているらしい。


「いくわよ」

「ああ」

「にゃーん(ご飯まだかなぁ)」


 俺はリンネの後について、城の入り口に続く階段を上る。


 イナホはリンネの腕の中で大きなあくびをしながら次のご飯のことを考えているようだ。食いしん坊だな。すっかり旅の途中で食べた俺たちのご飯に夢中になっている。


 上り終えると、高さ数メートルはありそうな大きな扉がすでに開いていた。その扉は分厚く、そして非常に頑丈そうだ。城を守るために強固な造りになっているのだろう。


 そして、その道程にはレッドカーペットのような絨毯が敷かれていた。


 そのまま進むと、先ほどの扉と同じ大きさの豪華で煌びやかな装飾が施された扉が見える。


「リンネ様、剣神様、ご来場!!」


 兵士の一人の言葉によって扉がゴゴゴゴッと地鳴りのような大きな音とともにゆっくりと開いていった。中にはエルフの兵士らしき人物たちが皆整列しており、その奥の壇に玉座があり、そこに一人のエルフが座っている。


 リンネはズンズンと進んでいき、俺はその後をおっかなびっくりな態度を出さないようにしながらついていった。


「アレナ、久しぶりね!!」


 リンネは平伏することもなく、いつもの調子で壇上にいるエルフに声を掛ける。リンネがやってないのに俺だけ平伏するのは違うと思い、そのまま同じように立っていた。


「あらあら、リンネちゃん久しぶりですね。元気そうで何よりです」


 声を掛けてきたのはとても深い母性を感じる優しい声。これはさぞバブミのある大人の女性が女王に違いないと、焦点を女王の顔に合わせると、玉座に座っていたのは間違いなく幼女だった。


「幼女なのにのじゃロリじゃない!!」

「え?」


 俺は自然と突っ込んでいた。


 女王はバブミのある小学生くらいの見た目の幼女だったのだ。幼女王は困惑した顔を浮かべた。


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