第055話 相棒の凄さ

 しばらく立ち尽くしていると、なぜか後ろから先ぶれに行ったはずのエルフがやってきた。他のエルフが頑張りすぎたのかもしれない。


「あ、あれ?リンネ様?剣神様?私は馬車が通れない細道で近道してきたんですが……」


 俺たちの顔を見て驚くエルフ。見た目は20代前半、アイドルでもしてそうな容姿で、若草色の髪のロングヘアーをしている。


 こいつは……。


「確か……アイルだったか?」

「はっ!!リンネ様の恋人たる剣神様にお名前を憶えていただけるとは光栄です」


 俺の返事に恐縮して敬礼して答えるアイル。


「いや俺はそんな大層なもんじゃないからな」

「いえ、そんなことはありません!!」


 有無を言わせず尊敬のまなざしを送るアイルに、これ以上は何を言っても無駄だろうと諦める。


「まぁいい。それよりもこいつらへばっちまったんだが、どうしたらいいんだ?」

「うわ、張り切りすぎですね。えっと、そうですね、もうこのまま一緒に行ってもらっても大丈夫だと思います」

「そうなのか?」


 アイルが少し考えた後、そんなこという。


 それで大丈夫なのだろうか。


「はい。アレリアーナ様がリンネ様と会うのを断るとは思えませんので」

「そっか。それじゃあ、案内してくれ。ちなみにスピードはゆっくりでいいからな?」


 とりあえずさっきの奴らの二の舞にならないように釘をさす。


 アレリアーナとリンネはそれほど中が良いってことだろう。どこのご令嬢か知らないが、ボッチのリンネと仲がいいとはなかなかやるじゃないか。


「ん?なんか言ったかしら?」

「いや、なんでも」

「そう」


 相変わらず鋭いリンネが俺に尋ねるが、俺は首を振った。


「最速でご案内しますね!!」


 俺の頼みに返事をするなりアイルが行ってしまう。


 せっかく釘挿した意味が全くないじゃねぇか!!


「ゆっくりでいいって言ってんだろ!!それにこいつらはどうすんだ!?」

「ほっといて大丈夫でぇーーーーーーーーーーーす!!」

「いいわけないだろ……」

「そうね……」


 俺の叫びにドップラー効果のように声が急速に離れていき、アイルはそのまま走っていってしまった。俺たちは流石にそのままにする訳にいかず、倒れているエルフたちを道の横に移動させ、再び馬車に乗り込んでアイルの背を追った。


「それにしてもどこに向かってるんだ?」


 アイルの背を追いながら馬車を走らせるが、向かっている先は世界樹の方角。


 そっちの方にエルフの偉い人とかが住む区画があるのかなぁ。


「あら、言ってなかったかしら。エルフの城よ」

「城!?」


 おいおい、これから会うのってどこぞのご令嬢じゃないの?

 城に住んでるってまさかお姫様!?


「そうよ。別に問題ないでしょ?」

「問題大有りだぞ。俺作法とか知らないぞ?」


 俺が焦りながら囁くと、


「そんなの必要ないわ。わ、私のこ、恋人だもの。普通で大丈夫よ」


 と、昨日よりどもり少な目に返事をした。


 少し慣れたのか?


「そうか。リンネがそう言うなら大丈夫だな」

「任せなさい!!」


 俺が安心したのを見て、リンネはポンっと胸を叩いてどや顔で答える。


「ということはリンネは姫様と友達なのか?」


 姫と友達とか凄いな、俺の彼女は。


「ん?何言ってるの?」


 リンネは意味が分からなそうに首を傾げる。


「ん?違うのか?」

「私が友達なのはこの国の女王よ?」


 あれ?俺の耳がおかしくなったのか?


「ん?なんだって?」


 俺は耳に手を当てて聞き返した。


「だから友達はこの国の女王、アレリアーナだって」


 うんうん、なるほど。


「はぁああ!?」


 俺はウンウンと一度かみ砕くために頷いた後、絶叫した。


「一国の王と友達なのか?」

「アン婆もそうでしょうに」

「あの人たちって俺たちと同じ冒険者って感じだからなぁ」


 確かにギガントツヴァイトホーンを見せた人たちも一国の最上部組織のメンバーたちだし、アンバー婆さんもそのトップだ。言われてみればそうなんだが、冒険者上がりもあってか、あの人たちはイマイチ偉い人って感じがしないんだよな。

 

 しかし、これから会うのはマジもんのエルフ国の王様。俺は改めてリンネの凄さを目の当たりにした。


「あいつくらいしか友達になってくれる人がいなかったのよ……」


 衝撃を受けていた俺には、リンネの呟きが届くことはなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る