514.続々・奇才の種族


 あまりのスピード解決に、案の定、いったい何をどうやったのかは尋ねられたが。


「申し訳ないんですが、秘術を駆使しましたので詳しくは……」


 これで「はいそうですか」と納得できりゃ世話ないだろう。俺はそこで一旦言葉を切り、モフスキンをじっと見つめた。


「モフスキン殿は火属性の魔力をお持ちですよね」

「え? はい、そうですね」


 何の関係が? とばかりに獣人の顔で目をしばたかせるモフスキン。


「万が一、吸血鬼に眷属化されそうになったり、死後、死霊術師に呼び出されて使役されそうになった際、火属性の魔力で速やかに自滅することを誓って頂けるならば、ある程度は情報を開示できます」

「あっ……なるほど。そこまでする必要があるわけですか」


 ダイニングテーブルをトントンと指で叩き、しばし考えるモフスキン。


「なら、教えていただかなくても結構です」


 理知的な瞳で答えた。


「人様の秘伝を守るためならば、自滅も厭わない覚悟ではありますが……覚悟できているのと、実際にやれるのとは、また話が別ですからね」


 そう言って、モフスキンはひょいと肩をすくめる。


 この割り切りはドワーフらしいと感じた。自らの技術へのプライドも高いゆえに、他人の秘術にも踏み込んでこない。


『どこぞの神官とは大違いじゃの~』


 あいつは人族だし……秘術らしい秘術とかも持ってないし……たぶん。


 まあ、あの推理力はもはや秘術みたいなもんだけどさ。


「すいません。すぐには信じられないかも知れませんが、この辺に潜伏していた吸血鬼は確かに殲滅しました。一応、数日は警戒を続けられてください」

「そうですね。今回こういうことがあった以上、当面の間はゴーレムを展開しておくつもりです。別の場所から新たにやって来る可能性もありますし……」


 モフスキンがあまり追求してこないのは、ゴーレムで被害を抑えられていたこともあるのだろう。


 彼視点では、俺たちが王国中の吸血鬼を文字通り根こそぎ全滅させる構えで、かつそれが本当に可能だとは思いもよらないだろうから、警戒を続けるのは当たり前だ。


『仮に一匹残らず殲滅したとて、一定の時間はかかる。その間にお主らを恐れて逃げ出した吸血鬼が、またぞろこの村に紛れ込まぬ保証はないからの』


 それもそうだな。ひとりでも――たったひとりでも犠牲者を減らせるよう、最善を尽くさねば。


「フフッ……ドワーフでなければ、複数のゴーレムを展開なんて芸当はできなかったでしょうね……」


 密かに決意を固める俺をよそに、モフスキンはまたもや皮肉げに口の端を吊り上げていた。


「ダーリン……みんな、あなたのお陰で助かってるのよっ。それにダーリンはダーリンなんだからっ、気にしないでっ」

「……ありがとう、ワインフ。そうだね、もしぼくが普通の獣人として生まれていたら、きみのように素敵な人には出会えなかったかもしれない。そう考えると、これも神々のお導きなのかな」

「やだっもうダーリンったらっ!」

「ワインフ~!」

「ダーリンっ!」


 …………めっちゃお互いの顔ペロペロしてるけどさぁ、これ要はキスですよね?


『ベロチューじゃな』


 表現としては正しいけどさぁ……


『よいことではないか。むしろお主も見習うべきじゃろ』


 何を!?


『こやつらは、残り少ない時間で存分に愛し合おうとしておるわけじゃからな』


 アンテの言わんとしていることを察して、冷水を浴びせられた気分になった。


 いや、言われるまでもなく、わかってはいたのだ。獣人の寿命はだいたい60年。それに対してドワーフは500年くらいは生きられる。


 モフスキンとワインフが何歳かは知らないが、ふたりは……


『人が犬を飼うようなもんじゃからのぅ』


 寿命の尺度的にはそんなもんだけど言い方ァ!


『お主も人のことは言えん。もっとも逆の立場じゃが。レイラ考えてみても、ドラゴンは500年ほど生きるのに対して、お主は』


 ……魔族はどう頑張っても300年、か。まあ俺が天寿を全うできたらの話だが。そして、俺が穏やかに寿命を迎えられる可能性は、悪いけどそんなに高くない。


『ならばなおさらじゃな。しかも先日、やたら長生きするわんころまで加わりおったからのぅ。どうなるか楽しみで楽しみでならんわ……』


 くっふっふ……と含み笑いする魔神。俺は思わず森エルフ組を見てしまった。


 3人とも、世にも珍しいドワーフ獣人カップルの方を向いている。


 オーダジュは、いつも通り穏やかな顔をしていた。温かく見守るような目だった。


 ヘレーナは、どことなく無常観を滲ませる顔をしていた。物悲しげですらある。


 リリアナは――


「…………」


 神妙な顔をしながらも、その目には切実な――それでいて、狂おしいまでの――


 吸い込まれるような青い瞳が、不意に俺の方を向いた。


 視線がぶつかり合って、お互い、少しぎこちなく微笑んでから、目を逸らした。


「あ、すいません、お客人の前で」


 我に返ったモフスキンたちが、言葉の割にあまり悪びれる風もなく離れる。


「いえっ! お構いなく!!」


 ふんすふんすと鼻息も荒く答えたのはレイラだ。


「おふたりの、種族の壁を超えた愛――たいへん素晴らしいと思います!」


 おめめをキラキラさせながら……!


「応援してます!!」


 敢えて、レイラはこちらを見ていないようだったが……すごい! ビリビリと焼け付くような意識を向けられているのが、伝わってくるッッ!


 吹き荒れる暴風のような――いや逆か、竜巻のような引力を感じる……ッッ!


「「あ、ありがとうございます……?」」


 とてつもないレイラの気迫に、モフスキンたちですら圧されているようだった。


「おふたりとも、どうか末永くお幸せに。俺たちは、このへんで……」

「アレクサ殿。大したおもてなしはできませんが、せめてお食事だけでもいかがですか? 村の皆も……」


 俺が暇乞いとまごいすると、モフスキンが引き止めかけて、口をつぐむ。決定的な討伐の証拠を出せない以上、村を挙げての歓待も難しいものがあると感じたのだろう。


「いえいえ、お構いなく」

「それでは、せめて串焼きだけでも。ワインフが鹿を狩ってきてくれたんですよ」

「わっふん!」


 狼獣人たちは生まれながらにして優れたハンターだ。正直に言おう! 毒でのたうち回ってた間は何も食べられなかったし、そのあとお腹に優しいものとか、森エルフ組が採ってきてくれたフルーツばっかり食べていたので、俺は肉に飢えていた!


「ありがとうございます。では遠慮なく頂戴いたします」

「いえいえ、こちらこそ本当にありがとうございました!」

「アレクサさんたちもっ、どうかご武運をっ!」


 そうしてふたりに見送られながら、俺たちはケモパラ村をあとにするのだった。



          †††



『っしゃぁ! 行くぞ行くぞ行くぞォ!』

『無辜の人々が我らを待っている!』

『狩るぞォ!』

『キエァッ!』


 が、串焼きをゆっくり食べている暇なんてなかった。吸血鬼はまだごまんといる。せっかくの焼き立てが冷めちゃうのはもったいないが、とりあえずオディゴスの導きのままに走る。


 1時間ほどして、今度は村ではなく、谷間に隠された小さな洞穴にたどり着いた。アーサーが【絶対防衛圏】を展開、レキサー司教たちが次々に地中へ潜っていく。


『よし、片付けた』


 早い……!


 すぐさま次の現場へ。段々と国境が近づいてきたからか、吸血鬼の人口密度も高まってきたように思える。


「ヴァンパイアハンター様が来てくだすった! ありがてえ!」

「危険を承知で、街への集団避難を検討していたところでした。本当にありがとうございます!」

「娘がさらわれたんです! どうか……どうかお助けくださいぃ!」


 行く先々で、俺たちは感謝され、頼られ、そして――縋られた。


 殲滅は、できる。だが……連れ去られた人々を無事に連れ戻すことは、リリアナにさえ不可能だった。ほとんどの場合、犠牲者はすでに吸い殺されていたし、眷属化されていたら、もはや手の施しようもない。


 歴戦のヴァンパイアハンターが幾度となく舐めてきた苦渋を、俺たちもまた、嫌というほど味わうことになった――


『おのれ、吸血鬼ども!』

『根絶やしにしてくれる!』


 怒りに駆られ、使命感に燃えるヴァンパイアハンターたち。彼らの意志に衝き動かされるようにして、俺たちもドワーフ王国の地を駆ける。


 ……追放直後、俺がやった夜エルフ狩りも相当なハイペースだったけど、こりゃあちょっと比較にならないな。


 オディゴスの案内もさることながら、肉体的疲労は帳消しにできるリリアナの奇跡も相まって、とんでもない効率を叩き出している。


『ハハハッ俺が生きてる間に狩った数、もう越えちまったよォ!』


 若手のハンターがヤケクソ気味に笑っていたくらいだ。




 そうこうしているうちにとっぷりと日が暮れ、暗い森を突っ切るように道なき道を進んでいると、村――と呼んでいいのかすらよくわからない、小さな集落に行き当たった。


 岩山の麓に、家屋が数軒建ち並んでいるだけ。ほとんどの家はひっそりと静まり返り、灯りも点っていないが、一軒だけ、立派な石造りの家の窓から光が漏れているのが見えた。


「どうやら一箇所に集まって守りを固める方針のようですな」


 周囲を警戒しながら、ささやくようにオーダジュ。


「オディゴス、あの集落に隠れている吸血鬼は?」


 リリアナがパッと杖から手を放したが、直立したまま動かない。


「あそこにはいないようだね」


 クルッとお茶目に回転し、オディゴスは告げた。


 いや~……つくづく、つよい。これもう反則だろ。床下に隠れようが、【隠蔽】の魔法で潜伏しようが、お構いなしだもん。


 警戒するとしても周囲だけでよくなった。リリアナがいくつもの光の玉を浮かべ、煌々と辺りを照らし出しているので、吸血鬼は俺たちに近づけない。ただ逆にクッソ目立ってもいるから、それなりに上位で怪力を誇る吸血鬼なら、遠くから岩とかぶん投げてきてもおかしくない。


『いざとなったら【絶対防衛圏】を展開するよ』


 俺の左腕、小盾を依代としたアーサーが心得ているとばかりに言った。鉄壁の守りだな、助かるぜ。


「さて……如何いたしましょうか。吸血鬼を目指して駆け回って参りましたが、そろそろ一休みするべきか……」


 のんびりした口調で言いつつ、オーダジュが俺たちの顔を見回す。


『……いくら奇跡の力で疲れが取れるって言っても、あたしら霊体組と違って、生身は睡眠も必要だろうからねえ』


 俺のベルトの鞘に収まっている刺突剣から、バルバラの声が響く。


『うぅむ……そうだな、休息は必要だろう。しかしこの時間帯こそ吸血鬼が最も活発になるだけに……くっ……!』


 レキサー司教はいかにも口惜しげだ。


 確かに、夜の暗闇こそが吸血鬼の狩り場だ。この集落が無事だからと言って、近場の村が襲われていない保証なんてない。


 ある日突然、このような夜に故郷の村を失ったレキサー司教としては、今動かずにいつ動く!? というのが本音だろう。


「レイラと……ヘレーナさんは、あの集落で休憩させてもらったらどうかな」


 俺は控えめに提案した。俺としてはリリアナのサポートもあるし、夜通し魔王軍と戦うことに比べりゃ、これくらい屁でもないんだけど。


「…………」


 レイラの目が死んでいる。人の姿でここまで動き回ったのは彼女の竜生でも初めてだろうし、即座に反応できていない時点で、その疲労困憊ぶりも推して知るべし。


「…………」


 ヘレーナもちょっとキツそうだ。俺にはツンケンした態度を取りがちだが、どうやら彼女は情が深い性格らしく、行く先々で吸血鬼被害に悲しむ人々を目にして、胸を痛めているようだった。


「レキサーさんたちって、アレクから離れても活動できるのかしら?」

『一応、可能ではあるな』

『あ~。湖の底でクラーケンと戦って、離れ離れになっちゃったことあるよね。もう遠い昔のことみたいだなぁ』


 リリアナの問いに、レキサー司教が生真面目に答え、アーサーがどこか呑気な声を発した。


「それなら、私がレキサーさんたちと一緒に行ってくるわ。アレクたちは一足先に、あの集落で休ませてもらったらどう?」


 リリアナは活力の権化みたいな存在なので、この程度の強行軍ではビクともしないようだ。…………いや、昔はここまでタフだったかな? そういや俺を探して三日三晩ほぼ休憩なしで走ってきたって話だっけ? 体力ヤバくない?


『オディゴスの権能で多少変質してそうじゃの、このわんころ……』


 頼もしい限りではあるが……


「俺はまだ大丈夫だ。レキサー司教たちが別行動できるのは事実だけど、万が一敵の攻撃を受けてしまって極端に消耗したり、魔力を使いすぎたりしたら、俺が闇の魔力を補給する必要がある」

「っアレクが行くなら、わたしも行きます!」

「この程度、どうってことないわよ」


 あ、なんかレイラとヘレーナが強がっちゃった……


「ほっほっほ。アレク殿、『大丈夫』は『危ない』、という格言もございますぞ」


 ポン、と俺の肩を叩いてオーダジュが笑う。


「いくら姫様の癒やしがあったと言っても、そもそも貴方は病み上がりですからの。あまり無理はなされない方がよろしい」

 

 チラッとレイラたちの方を密かに見ながら、オーダジュは言い含めるように。


「それに、いざというとき闇の魔力が必要なら――たまたま宝珠の持ち合わせもあります」


 オーダジュが胸元から大粒の宝石を取り出した。どうやら風の魔力がたっぷりと詰まっていたらしく、「ほっ、ほっ」とオーダジュが宝石を振り回すと、爽やかなそよ風が吹き、俺たちの頬を撫でた。


 ……人族の魔法使いが見たら、「なんてもったいないことを!」と血涙を流しそうな光景だ。


「これでからになりました。アレク殿の魔力を詰めてくだされ」

「ああ……これならいざというときも安心ですね」


 俺は観念して、闇の魔力を補充する。この調子だとオーダジュもリリアナについていくのだろう、まあお目付け役だし当然か。そうなるとヘレーナも……という話にはなるが。


「ヘレーナ。お主には、アレク殿の監視を命ずる……」


 などと、オーダジュが真面目くさって言うものだから、思わずヘレーナも笑ってしまったらしい。


 というわけで、俺・レイラ・ヘレーナはあの集落で一足先に休憩、聖霊組を引き連れたリリアナとオーダジュが近場の吸血鬼を狩りに行くことになった。


『ぶっちゃけオディゴスとリリ公が主体じゃからの』


 そうなんだよな。俺とか、ヴァンパイアハンター詐称してるだけだし。


 ちなみにオーダジュは「なに、年寄なもので2~3時間も眠れば十分でしての」とのことで、リリアナについていった。




「こんばんは、聖教会のヴァンパイアハンターなんですが……」


 件の集落、明かりが灯る家に歩いていく。怪しまれないようにわざと大きく足音を立て(どうしたって怪しいのだが、せめて忍び寄る意思がないことを示すために)、家屋に向かって声をかけた。


 近づくと、その家が異様な雰囲気を漂わせていることがわかる。ただの民家じゃねえな、どちらかというと……工房か? 煙突からはモクモクと煙が立ち昇っている。夏の夜、決して涼しくはないが、吸血鬼の侵入経路潰しのために敢えて暖炉に火をつけているのかもしれない。


 雨戸は全て閉め切られているが、よくよく見ると全ての窓にクリスタルガラスが嵌められているようだ。けっこうな金持ち……あるいは職人。いずれにせよ家主は一般人ではない。


「…………」


 俺が声をかけても返事はなかった。


 ただ、人の気配はある。吸血鬼が跋扈する夜、警戒されて当たり前だが、どうしたものかと扉の前に立つと――



 ガシャンッと音が響いて、いきなり目の前が真っ白に染まった。



「うおっまぶしっ」


 強烈な光だ。夜の暗さにすっかり慣れていただけに、目が……!


 ヘレーナも思わず「きゃっ」と身をすくめ、レイラは「……え?」と困惑したような声を上げていた。


「……む。どうやら闇の輩じゃなさそうだな」


 扉越しに、くぐもった男の低い声。


 魔導具か魔法かわからないが、光を投射する備えがあったらしい。そりゃこの家にこもるはずだ。


 ガチャッ、と重々しい音が響き、いきなり目の前の玄関扉の一部がスライド。


 よくよく見ると、扉にもクリスタルガラスが嵌められていたようだ。覗き窓……とでも呼ぶべきだろうか? 初めて見る構造だ。


 ぎょろりとした緑色の瞳が、窓越しに俺を睨みつけた。


「こんな夜に何の用だ。ヴァンパイアハンターと言ったか?」

「そうです。アレクサと申します」


 俺はポッと聖銀呪を指先に灯して見せた。


「こちらは光魔法使いのレーライネ」


 レイラが口元に手をやって、何かゴニョゴニョと唱えるふりをして光を吐き出す。顔の前で、祈るように組んだ手が光り輝いたように見えたことだろう。


「で、こちらが森エルフのヘレーナ」


 間髪入れずにヘレーナを紹介。正統派魔法使いとして、光の玉をぽわぽわと発射してみせる。


「……ハッハッハ! 流石にそこまでされちゃ、怪しくねえな。吸血鬼を追っかけて辺鄙なところまで来たら、すっかり日が暮れちまった、ってとこか?」

「仰る通りです。もしよければ、一晩休ませて頂きたく……」

「今は知り合いも詰めてるからな、ちと狭いぜ。それでも構わねえなら入んな」

「ありがとうございます」


 俺はホッと胸を撫で下ろした。レイラたちは屋根があるところで休ませてあげたいもんなぁ。


「周りを確認してくれ。開けた途端に襲われちゃ敵わねえ」

「光で照らすわ。~~~♪」


 ヘレーナが小さな声で歌い、特大の光の玉を宙に浮かべた。煌々と玄関が照らされている間に、ズゴゴ、ガシャッとわずかに扉が開かれ、俺たちは隙間から滑り込むようにして中に入った。


「助かりました。本当にあり……」


 礼を言いかけて、思わず俺は口をつぐむ。



 俺たちを招き入れた家主が――異様な風体だったからだ。



 あの覗き窓。ちょっと低い位置にあるなとは思っていたが、なるほど、家主はドワーフだったらしい。


 ムキムキの短躯、もじゃもじゃの立派な金色のヒゲ、しかめっ面にはぎょろぎょろと大きな緑色の瞳。



 それは……まあ、典型的なドワーフなのだが。



 一点、いや二点、このドワーフは『普通』ではなかった。



「あなた……その腕は……?」



 ヘレーナが思わずギョッとしている。



「あん? これか?」



 ニヤリと不敵に笑い、両腕を掲げてみせるドワーフ。



 一瞬、肘から先がない――と思ったが、違う。ランプの灯りを受けて、きらきらと輝いている――!



「俺様ァ細工師でな。こいつも自慢の逸品よ……!」



 カチャカチャと音を立てる、ドワーフらしからぬ繊細な細指。



 彼の両腕は、キラキラと透き通るクリスタル製だった。


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