513.続・奇才の種族
【前回のあらすじ】
ドワーフ「はじめまして、村長にして名誉狼獣人のモフスキンです」
リリアナ「えぇ……」
ヘレーナ「あなたも似たようなものよリリィ」
リリアナ「えっ」
ヘレーナ「あなたも似たようなものよ」
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どうも、狼獣人の村を訪ねてなんかすげえ村長に出くわしたアレクサです。
ずんぐりした獣人だと思っていたら――首だけドワーフでした。
『畜生じゃな、体だけ』
畜生とか言うなよ失礼だろ。この御仁はどうやら獣人じゃないけどさ。
自称・名誉狼獣人、モフスキン=ゴス=テューム氏。
獣人のようにモフモフしていながら、めっちゃ寸胴なムキムキボディ。そこに、どっからどう見てもドワーフの頭が乗っかっている。
異様な姿と言わざるを得ない……!
「それは――呪いか何かで、肉体がドワーフに変化してしまった、ということですかな……?」
やや慎重な姿勢でオーダジュが問うた。『肉体的にはドワーフだが心は狼獣人』というモフスキンの言葉を真に受けたわけではなく、念には念を入れた形か。
「えっ?」
ただ、当の本人は念押しを想定していなかったらしく、困惑した様子。
「いや、種族を変えてしまう魔法というものも、一応存在しますからの」
「う、う~ん……高位の魔法使いが絡むと、話がややこしくなりますね……」
そういうことじゃないんだよ、とでも言いたげに、忸怩たる思いを滲ませたモフスキンは、
「……誤解を招かぬよう、正確に申し上げますと、『生まれも育ちも生粋のドワーフですが、できることなら狼獣人に生まれたかった』です!!」
半ばキレ気味に言った。
獣人に生まれたかったドワーフ、か……これまたとびきり変わり者だな。気がついたら魔族に生まれ変わっていた人族としては、複雑な気持ちだ……
『前世が獣人じゃったとか?』
む、それなら今世を不満に思うのも理解できなくもないが。
まあ、今はいいや。
「細かいことはさておき、モフスキン殿」
俺が話を切り出すと、視界の端でみなが「細かい……?」という顔をしていたが、構わず続ける。
「まずは吸血鬼の件を片付けたく」
「……まったく仰る通りで。詳しい事情をご説明いたしましょう」
狼獣人マスクを被り直しながらモフスキン。いやコレめっちゃよく出来てんな……造り物っぽくないというか、違和感がないというか、目や鼻、口も本物にしか見えない。ってか普通に動く舌とかどうなってんだよ。
『なんぞ、夜エルフの人皮マスクを思い出すのぅ』
……ハントスだったか。同盟圏に入ったばかりの頃、夜エルフ工作員が人族の狩人になりすましてたことがあったな。思い出すだに胸糞悪いぜ。
『このモフスキンとやらのマスクは、何でできとるんじゃろな……?』
ま、まさかぁ、狼獣人のモノなんてことは…………クソッ、話を流したはいいが気になってきた……!
モフスキンに連れられて、村長宅を出る。
「うちの村の被害は、今のところ1名です。独り立ちしたばかりの若者が犠牲になりました……」
――たったひとりか、と反射的に思ってしまったのは、申し訳ないことだった。
悔しげに歯噛みするモフスキン、しゅんと耳を垂らしてうつむくワインフ。彼らにとってはかけがえのない村の仲間なのに……
『しかし、人族に輪をかけた魔力弱者の集団で、ひとりしか犠牲者が出ておらんのは驚異的と言えるじゃろ』
ああ。理由としてはモフスキンの存在以外に考えられない。
「危険なのでここで止まってください。【う゛ォン、う゛ォォ――ン!】」
村のそばの森に差し掛かったあたりで、モフスキンが遠吠え(?)を上げた。
途端、村を取り囲む森に『気配』を感じる。ガサガサガサと茂みが揺れたかと思うと――モフスキンそっくりの、ずんぐりむっくりな寸胴狼獣人たちが、次々に姿を現し始めた。【隠蔽】で隠れていた……!?
10、20、……おいおい、モフスキンだけがめちゃくちゃ変わり者だと思ってたのに、他にもこんなにたくさんのお仲間が……!?
と思いきや、俺たちの前に整列した寸胴狼獣人は、気をつけの姿勢のまま微動だにしない。呼吸すらしている様子がない。
「ほほう。もしや、ゴーレムですかな」
あごひげを撫でながら、感心したようにオーダジュが問う。
「はい、中身はそうです。ぼくの家系は
フフ……とどこか皮肉げにモフスキンは笑った。獣人に生まれたかったと言いながらも、ドワーフとしての力を存分に発揮している矛盾――
『ゴーレム。あまり見んが、ドワーフどもの土人形じゃったか』
そうだな、土や石の人形を操る魔法だ。一応人族にも使い手はいる。
聖教会でも戦力不足を補うために一時期研究されてたらしいが、必要魔力が多い割に熟練兵士ぐらいの強さにしかならない上、複雑な作戦行動が取れず、使い手も希少だから早々に見切りをつけられたんだとか。
馬型のゴーレムで馬車を引くって計画はなかなか良かったそうだが、馬車馬に貴重な魔力を割くぐらいなら掘やら壁やらの防衛拠点を強化した方がいいし、最前線じゃ馬車なんて使えないし、後方で使うなら普通の馬でいいし……
『使い勝手が悪い、と』
少なくとも人族にとっては。
魔力強者で、土魔法との親和性が極めて高いドワーフなら、もっとまともに扱えるはずだ。鉱山で台車を引いたり、数打ちの量産品を打つのにゴーレム駆動のハンマーを使っている、とは聞いたことがある。
ただ、それでも戦場では見た試しがない。土人形なんざに戦わせるより、全身を真打ちの鎧で固めた鍛冶戦士が、これまた真打ちの斧なりハンマーなりをブン回した方が遥かに強いからなぁ……
そういう意味じゃ、このもふもふゴーレム軍団が、俺が目にした初めての実戦用ゴーレムということになる。
魔力の気配を隠しつつ、疲れ知らずで昼夜を問わず待機していられるゴーレムは、なるほど、待ち伏せにはうってつけ――なのかもしれない。
ちなみに余談だが、魔王国でゴーレムを見かけることはない。ほぼ完全上位互換のエンマ印アンデッドが普及しているからだ。
「正直、ダメ元というか、時間稼ぎになればいいな、くらいの気持ちで配置していたんですが……少なくとも1匹は吸血鬼を倒したみたいなんですよね。以前ボロボロになったゴーレムの近くに、灰が積もってました」
『なんと! ゴーレムで吸血鬼を!?』
レキサー司教が驚愕の念話を飛ばしてくる。
「マジですか。ゴーレムはあまり機動力が高くないと聞きましたが」
「ぼくのキグルミには、身体強化の機能もありますから」
さらりと答えるモフスキン。
「それがゴーレムとうまい具合に噛み合ったようです。普通のゴーレムよりは機敏に動けますし、やっつけ仕事ですけど、爪も対吸血鬼仕様にしましたからね」
モフスキンが自らの手を広げて見せると、キグルミの指先の爪がジャッ! と赤熱した。炎の爪か、アンデッドには効果てきめんだろう。しかも、『やっつけ仕事』って言ったか? 他のキグルミゴーレムにも標準搭載されている?
……おやつ気分で獣人の血を飲みに来て、森を抜けようとしたら茂みに隠れたゴーレムが起動、そのまま炎の爪で切り裂かれて……ってとこか。完全に油断してたんだろうな、吸血鬼も。
やっぱりドワーフってとんでもねえな。
なんとなく、ボン=デージの始祖ことクセモーヌの顔も思い出す。
「本当に、すごいですね……」
「うぉふんっ。そうよっ、ダーリンはすごいのよっ!」
尻尾をブンブンと振りながら、なぜか得意げに胸を張るワインフ。
「ダーリンがいなかったら、今頃みんな干からびてたかもっ……!」
「ああ、恐ろしい! そんなことは許されないッッ!! ぼくがこの村を、理想郷を守ってみせるッッッ! 【あ゛ォン、お゛ォォーン!】」
モフスキンの野太い遠吠えで、再びぞろぞろと散っていくキグルミゴーレム軍団。配置について非活性化していったか、魔力の圧も感じられなくなる。
「よくぞ、一度にあれだけのゴーレムを使役できますなぁ」
「かなりの負担なんじゃ?」
オーダジュは感心し、ヘレーナはやや心配そうにしている。
「幸い、近くに地脈がありまして、土の魔力はそれなりに融通が利くんです」
「なるほど、道理で」
「ただ、そのまた近くに崩落した洞窟もありましてね……」
お決まりのパターンか。森を抜けて早速、その洞窟とやらに案内してもらう。
「確かに崩落してますが……掘削を試みた跡がありますね」
「はい。いっそのこと吸血鬼が隠れられないように、ゴーレムで掘り抜こうかとも考えたんですが、奴らの正確な居場所がわからないことと、洞窟がさらに崩落して地脈に影響が出る恐れもあることから、一旦やめました」
万が一地脈が枯れちまったら大事だもんな。洞窟の掘削はおろか、村の防衛もできなくなっちまう。
「事情はわかりました。俺たちも少し調査してみますので、一旦モフスキンさんたちは村に戻られてください」
俺は何食わぬ顔で要請する。
「「ありがとうございますっ!!」」
モフスキンとワインフはホッと胸を撫で下ろし、「プロの方に来て頂けて本当によかった」「みんなも安心するわっ!」と言いながら、村へ戻っていった――
さて、やるか。調査をな。
†††
「終わりました。地下に潜んでいた吸血鬼2匹を仕留めました」
「……は? …………は!? もう!? 早くないですか!?」
村に戻ると、軽食の串焼き肉をぽろりと口から落とし、モフスキンが目を剥いた。
『獣人マスク、つけたままモノ食べられるんじゃな……』
ほんとどういう仕組なんだろうな。つくづくドワーフってすげーよ……。
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※あと2~3話各村を回り、おもしろドワーフ列伝をやります。それから魔王軍(スピネズィア)視点に移る予定です。
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