500.時を超えた標
※ついに500話! 皆様、いつも応援ありがとうございます! これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします!
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リリアナいわく、戦場で俺の腕が発見され、『勇者アレックス』の遺体と認定されたらしいとのことだった。
そういや、アーサーの鎖か何かで動きを封じられて、どうしようもなかったから腕を自切した覚えがある。
……やべえな。きっとそれ、ジルバギアスとしての腕だろ? もしも魔王子の肉体の一部だとバレたら――
「腕そのものを見つけたのは、ルージャッカみたいだったけど……『アレックス』と『ジルバギアス』の匂いの区別が、彼にはついてなさそうだったわ」
そう語るリリアナは、痛ましげに。
「腕はすでに火葬されたらしいから、その点は安心していいと思う。彼は……ルージャッカは、イェセラと一緒に、戦場でジルバギアスの痕跡を探し続けていたの」
情景が目に浮かぶようだった。血みどろの戦場で、匂いを頼りに彷徨い歩く眼帯をつけた狼獣人と、甲斐甲斐しくそれを支える森エルフの女――
だが、仮に彼が『ジルバギアス』の匂いを嗅ぎつけたところで。
それは、彼にとって馴染みのある匂いであり――
「きっと、何か痕跡を見つけても、アレックスのものだと思ってしまうでしょうね。このままルージャッカもイェセラも、どれだけ頑張って探し回っても、徒労に終わるって……私、わかってたけど……」
リリアナは苦しげに顔を歪めた。
「わかってたけど……真実は、話さなかった。話せなかったわ……」
「おほぉ……」
恍惚とした顔になるアンテ。受動的に禁忌キメてんじゃねえよ。
「…………他の方々も、吸血鬼狩りで?」
『概ねそうですな』
重苦しい沈黙が降りてきそうなところで、オーダジュがヴァンパイアハンター組に話を振った。
『タッカーです。出身はジミーナ共和国。ジルバギアスに突き殺されました』
『アーチーです。レーライネのブレスで焼け死にました』
『ラルフです。正直、死に際はあんまり覚えてなくて……』
『お前、呪詛流し込まれて爆散してたもんな』
『えっ……俺そんな死に方したのかよ……』
『レニーです。ジルバギアスに首を刎ねられました。一瞬、自分の首なしの体が見えたんだよなぁ』
「ああ……これはどうも……ご丁寧に……」
流石のオーダジュも顔が引きつっていた。
「皆さんは……その、どうして、彼に協力することに?」
『大前提として、彼に協力しないという選択肢はない』
ヴァンパイアハンター組を代表して、レキサー司教が険しい顔で答えた。
『人類の敵の討滅は我らの悲願。事情が明らかになったからには、人類の守護者として、魔王討伐と魔王国滅亡に力を貸すのは当然のことだ』
ぎらぎらとその瞳に銀の炎が燃えている。
『彼は、全てが終わった暁には死んで詫びるとまで言ってくれたがね。彼が命を絶ったところで、我々が生き返るわけでもない。ならば、その力を最大限に活用し、人類の敵を滅ぼし、人類に貢献し続けることこそが、何よりの償いになる……と、私個人は信じているよ』
「よく……そこまで、信じられたわね。彼のこと」
ヘレーナが、半ば呆れたように、あるいは揶揄するように言うと、レキサー司教は苦笑と呼ぶには苦すぎる笑みを浮かべた。
『彼とは――勇者アレックスとは、面識があったからな。アウリトス湖で、吸血鬼を追って船路をともにしたんだ。彼が根っからの勇者であり、本来は、人々のため尽力する善き人格の持ち主であることを――』
嘆息するレキサー司教。
『――間近で見ていて、知っていたからだ……』
……ヘレーナが、衝撃を隠せない面持ちで俺を見る。
そうだ……そしてそんな親しい人々を、俺は手にかけた……
『まあ、個人的な恨みがないと言えば嘘になるがね』
と、肩をすくめるレキサー司教に、他のヴァンパイアハンターたちもうんうんと頷いていた。
それから、なぜ俺と戦場で鉢合わせする羽目になったか――運命のいたずらで、乗っていた船がクラーケンに襲われカェムランに引き返すことになった等々――詳しい事情が説明され、ヘレーナはあまりに救いがたい事の顛末に、言葉を失くして沈み込んでいた。
……朝っぱらから、通夜みたいな雰囲気になっちまったな……
当事者が参列しまくってるのが、通夜と呼ぶにはアレだけど……
『逆に聞きたいのだが、あなた方は彼とどのような関係で?』
「ああ……ごめんなさい、申し遅れたわね。私はヘレーナ。リリアナの幼馴染で……リリアナは、魔王国でジルバギアスにペット扱いされてたんだけど……」
レキサー司教が何食わぬ顔で尋ねる。昨夜、バルバラ経由でリリアナに関する大まかな事情は伝えてあるんだけど、何も知らない体で探りを入れてるみたいだな。
「レイラも元気そうでよかったわ」
「リリアナも。無事にお家に帰れたんですね……でもびっくりしちゃいました、まさかこんなところで会えるなんて……」
リリアナとレイラも再会を喜びあっている。
「アーサー殿」
『あっ、はい』
「先ほどは声を荒らげてしまい、失礼しました。ワシがお願いしたからこそ切れ味を見せてくださろうとしたのに、こちらの価値観を押し付ける形になってしまい、勝手が過ぎたと反省しておったところです」
『ああいえ、とんでもない。僕も森エルフの皆さんの前で、ちょっと考えなしだったなぁと反省してました』
「いやいや。お若いのに立派なことだ……うん……お若いのに……」
オーダジュの顔が、しおっ……と悲しげに歪んだ。目の前の勇者が、彼からすれば赤子と言ってもいいような若者が、既に亡くなっているという事実に遅れて気づいたかのように。
『あっ、もしよかったら、エクスカリバーもっと見ます?』
アーサーが暗い空気を払拭しようと、気さくにエクスカリバーを差し出した。
「おおっ。よろしいので」
『ええ、減るもんじゃないですし……フフ、ホントにもう減らないんだよなぁ』
そうだね……寿命も生命力も、削られないもんね……。
「うぅむ……見れば見るほどに、素晴らしい……まるでドワーフの
『
「ん? ああ。我らとドワーフ族の対立は有名ですからな。しかし、実際に相争っていたのはドワーフが『燃える石』を発見するまでで、気が遠くなるほど昔の話です。ワシの曽祖父が、さらに曽祖父から当時の話を聞いたとか……」
オーダジュの曾曾曾曾祖父さん……? どうせハイエルフの血統だからクソ長生きなわけだろ? 何年前だよ……
「大量に木を切らないのであれば、ドワーフたちに文句はありません。そして過去に関係なく、彼らが生み出す芸術作品は、正当に評価したいと思う次第ですな」
『ははぁ、なるほど……あ、それなら別の家宝もあるんですけど見ます?』
アーサーが荷物の山を指差す。
『僕のご先祖様、初代勇者王アーサーの盾なんですけど』
「なんと! 聞いたことがありますぞ、確か【アーヴァロン】という……」
『これもご存知なんだ! 敵わないなぁ』
「おお! なんと見事な……重厚な魔力、歴史を感じさせますな……!」
アーサーとオーダジュもなんだかんだ馬が合うみたいだな。意外な組み合わせだ。
……それにしても、これからどうしたもんか。
リリアナ、さらにはオディゴスまで合流して。
選択肢が一気に広がって、何から手を付ければいいのか逆にわかんねえ。
一通り、皆が交流し終わったら、そろそろ次の方針を――
「――こちら、制作者は伝わっておるのですか?」
恐るべき魔力を秘めた白銀の小盾――アーヴァロンのつるつるとした表面を撫でながら、オーダジュが問う。
『ええ。初代アーサーの盟友のドワーフ、
アーサーが頷いて答える。
『――ガインツ=ゴン=スフィリの【真打ち】だと』
――――。
ゴン=スフィリ。
その名が耳に入った瞬間、俺の消えかけの記憶が、不意に蘇った。
†††
『おい! ■■■■!』
俺は、アイツの名を呼びながら工房に駆け込んだ。
『……まだくたばってなかったか。そんだけ元気がありゃ上等だな、アレク』
ハンマーを振るっていたアイツは、顔をしかめて減らず口を叩きながら振り返る。
『■■■■、お前が打ってくれたアダマスなんだがよォ……!!』
『……おい、まさか折れたとか言わねえだろうな!? 真打ち一歩手前の、俺の最高傑作だぞ!?』
目を見開いたアイツは、バンダナをかなぐり捨てて立ち上がった。
『どうにかしちまったんなら、承知しねえぞオイ!』
『――全然ッ! 折れなかったッッ!』
『ああッ!?』
俺は満面の笑みで、鞘から聖剣を抜いてみせる。
有り金全部差し出して打ってもらった、新たな相棒・アダマス。
激戦をくぐり抜けたにもかかわらず、傷ひとつない無骨な刃――
『この剣、めっちゃイイぜ! その礼を言いに来たんだ、ありがとよ、■■■■!』
『…………んなこと、あったりめえだろうが! とにかく頑丈に! 折れず! お前の期待と信頼を裏切らない! そういう剣だ!!』
アイツはハァーーーーッとクソデカ溜息をつき、バンダナをつけ直した。
『なんでえ、驚かせやがって……おい、一応見せてみろ。お前がちゃんと扱えたか、こいつに聞いてみる』
アイツは俺の手からひったくるようにアダマスを奪い取り――所有者は俺のはずなんだけどな、制作者だからかアダマスも全然拒まねえ――念入りに、炉の光にあてながら、刃や柄を精査していく。
『フン……まあ、及第点ってトコだな。これからも精進しろよ』
鼻を鳴らしたアイツは、偉そうにアダマスを突き返してきた。
普段なら、俺もちょっとは噛みつき返すところだが、本当にいい聖剣を打ってもらえてゴキゲンだったので、鷹揚にそれを許す。
『おうよ。いやぁ~こんなに頑丈な剣になるなんてなぁ。いっつも折れるわ曲がるわで散々だったし、今回も無駄金払ったんじゃないかと心配してたんだが』
『それは! 元の対価が! 見合ってなかったからだっつってんだろ!!』
せっかくつけ直したバンダナをビタァンと床に叩きつけ、ガシガシと髪をかきむしりながらアイツが怒鳴る。
『それなりのカネじゃそれなりの剣にしかならねえよバカタレ! だがアダマスは、お前の全財産を受け取った! ただの金額の問題じゃねえ、お前の持てる全てを受け取ったという事実を込めて、俺もまた持てる力の全てを注ぎ込んだんだ! アダマスは、どこに出しても恥ずかしくねえ、俺の――』
フフン、と職人としての誇りを込めて、アイツは笑った。
『――■■■■=ゴン=スフィリの最高傑作だ!!』
†††
「――オディゴス」
気づけば、俺は案内の悪魔を呼んでいた。
「導きをご所望かな」
話が早い。
「探してる人がいるんだ」
俺が鞘からアダマスを抜くと、無惨にひび割れた刃を見て、リリアナがハッと息を呑んだ。
「ゴン=スフィリという家名の持ち主で……この剣の制作者。見つかるか?」
ははっ、とオディゴスが笑う。誰に聞いているのだと言わんばかりに。
「もちろん。君が望むならば――」
フッと力を抜いたオディゴスは、倒れる。
「こちらに向かうといい」
指し示す方角は、西。
魔王国との国境。
――すなわち、最前線だった。
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レキサー『なに!? 案内の悪魔!? 望むモノの方角を教えてくれる!?』
オディゴス「君たちも何かお探しかな?」
レキサー『吸血鬼をッ!! 探しているッッッ!!』
タッカー『吸血鬼! 吸血鬼ッッ!』
アーチー『吸血鬼どもはどこだァァ!?』
ラルフ『吸血鬼ィィッッ!!』
レニー『吸血鬼出てこいコラァ吸血鬼ィ!!』
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