498.多種多様
え~、それでは自己紹介をどうぞ。
『人族、兵士。名前は忘れた。あだ名をつけるのも何か違う気がして、名無しのままにしている。前線で捕まって、魔王国まで連れて行かれて、光栄なことに
俺をギロッと睨んでみせながら、肩をすくめる年かさの兵士。
『こいつが魔王をブッ殺すのが見たくて仲間になった。闇の輩に死を! 以上!』
年かさ兵士の素晴らしい演説に、『よっ、被害者の会・初代会長!』『聖霊術の立役者~!』と声援が飛び、鷹揚に手を挙げて応える。
「「…………」」
ヘレーナは絶句しているし、オーダジュも、彼の長い長い人生経験をもってしてもどんな顔をすればいいのかわからないようだった。
『それにしても、嬢ちゃんが2本足で立ってんの見ると感慨深いなぁ。元気そうで何よりだぜ!』
「ああ、あの、……ありがとう」
一応面識がある(?)リリアナでさえこのザマだよ!
「彼のおかげで、人類の敵と戦う明確な意志を持つ人族の霊体は、聖属性に触れても大丈夫だということが判明したんですよね」
『ふわぁ……すまん、眠い! 出てきて早々悪ぃが、俺は寝るよ』
「ごめんな、起こしちゃって」
『なぁに。また愉快な仲間が増えたら呼んでくれ……』
ニヤリと笑ってから、年かさ兵士はスゥーッと遺骨に吸い込まれていった。
「ゴーストなのに……『眠い』……?」
リリアナが困惑気味に呟く。幽霊は眠気など感じないはず――俺の死霊術学習帳を持ち帰ったから、基礎的な知識は身につけてるんだろう。
「聖霊化は……魂を燃料に、聖属性という炎を燃やし、力を得ているようなもんだ。よほどの魔力強者で、魂の芯が強靭でない限り、緩やかに緩やかに……魂そのものが摩耗していく」
俺の言葉に、森エルフ組がハッと息を呑んだ。
「そして眠りとは……精神にとって、仮初の死に他ならない。聖霊化という『仮初の生』に対応する『死』が――徐々に迫りつつある終わりのときが――眠気という形で現れている、と俺は解釈している」
「「…………」」
「それじゃあ……次の人」
『はいはーい』
バルバラが手を挙げる。
『バルバラ=ダ=ローザ。プロエ=レフシ連合王国出身の剣聖だよ。アレクとは前世から顔見知りだったけど、デフテロス王国の王都エヴァロティ防衛戦で、魔王子ジルバギアスの軍勢を迎え撃つことになってね』
さばさばした口調で語られる来歴に、オーダジュとヘレーナが「あっ……」と何かを察した顔になる。
『奮闘虚しくジルバギアスに敗れ、仲間も全滅。そして冥府で父と兄と再会したかと思えば、『お前にはまだやることがある』って言われてね……気がついたら、こいつに呼び出されてたってわけ。だね?』
はい。
『さっきアレクが言ってたけど、あたしは魔力弱者だし、聖霊化したらすぐに燃え尽きちゃうんだ。だからここぞというときまでは、聖属性に触れないようにしている。ちゃんとしたボディがあれば、剣聖の技も振るえるんだけど……今はただの霊体なんで、剣はおろかスプーンすら持てないんだよね……』
「偵察とか連絡とか、すごい活躍してくれてるけどな……」
実は昨夜、聖教会で世話になったとき、勇敢にもバルバラが様子を見に来てくれたんだ。食事がお開きになって、各々の部屋に解散したとき、接触してきた。おかげで荷物番と化したアーサーたちにも、こっそりと大まかな事情を伝えることができたってわけだ。
アーサーたちは、銀色にピカピカ光り輝いてるから、夜闇の中だとクソ目立つんだよな……その点、バルバラはまだ聖霊化しておらず、闇の魔力で構成されているので暗闇に身を潜めやすい。
『とは言っても、アタシも早く切った張ったで役に立ちたいもんさ。以上でーす』
「ありがとうございました。それでは、次の人……」
『はーい』
明るく前に進み出てきたのは――
『アーサー=ヒルバーン。勇者です』
銀色に輝く半透明の爽やかな好青年。
「「…………」」
森エルフ組、開いた口が塞がらない。
「あ……『アーサー』……?」
震える声で、絞り出すヘレーナ。
「アウリトス湖の……人族の、英雄……カェムランで、魔王子ジルバギアスと死闘を繰り広げたという……、あのアーサー?」
『あ、はい、そうです。そのアーサー……』
あはは、と照れたように後頭部に手をやりながらアーサー。
「…………」
ヘレーナ、二の句が継げない。
「失礼ながら、本当にご本人で?」
オーダジュが思い切って尋ねてきた。
『そうですね。と言っても、うーん、証明するには……』
アーサーは人当たりのいい笑みを引っ込めて、真面目な顔で思案する。
『あなた方は、アレックスの秘密を許可なく口にしたら心臓が止まるんでしたっけ』
「……そうですな。アレックス?」
『ああ、僕は彼のことをそう呼ぶんです――なるほど。では、彼の秘密の戦力である僕の秘密は、その守秘義務の誓約の範疇に含まれますか?』
「ふむ……あなた方が、我々でいう精霊のような存在と解釈するならば、アレク殿の秘術の一端という扱いになるため、我々にも守秘義務が課されますな」
『ならばその解釈でお願いします――ヒルバーン家の【アーサー】には、代々とある秘術が受け継がれてきました』
アーサーの口ぶりに、オーダジュが小さく「まさか」と呟いた。
『【来たれ破魔の刃】』
音もなく。
その手に、魔力の刃が現れる。
「なん……と……この目で見ることになろうとは。魔法剣……」
エクスカリバー。
『おや、ご存知でしたか。守秘義務を課すまでもなかったかな』
ちょっとバツが悪そうにするアーサー。
「いや、存在は存じ上げておりましたが、まさか今お持ちだとは思わなんだ」
『実は、あなたが思っているものとは、少し違うはずです。本来のエクスカリバーは次代の【アーサー】に受け継がれました。僕が今、手にしているのは――初代様から譲り受けた魔法剣です』
「ほほぉ……!」
オーダジュが子どものように目をきらきら輝かせている。案外、こういうのが好きなのかもしれない。
気持ちはわかるぜ、オーダジュさんよ……! アーヴァロンとか見たらもっとテンション上がるんじゃないか?
「なんとも……不思議なものですな! 900年ほど生きて参りましたが、このようなものは初めて拝見しました」
900!! 魔王国の勃興はおろか、吸血鬼どもの夜王国の隆盛から滅亡、さらにそれより昔の悪しき種族の絶滅まで見届けてきたわけか……!
「魔力で構成されていながら、なんと安定しているのか……!」
手をわきわきさせながらアーサーににじり寄ったオーダジュは、なんか諸々の使命とか全部忘れたように、「ほー!」とか「はー!」とか言いながら、様々な角度からエクスカリバーを観察している。
「こちら、まさかとは思いますが、物理的干渉力は……?」
『ありますよ! えい』
アーサーがスッと近くの大木に振るってみせた。
スパァンッ! と幹が切断される。
「「ああッ!? 木が!!」」
森エルフ組が悲鳴を上げた。
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