493.顛末と出発
【前回のあらすじ】
リリ「わぅんわぅんわぅん!(ペロペロペロペロペロペロ!!!」
ヘレ「この娘、小さな子に目がないんですよ笑」
村人「えぇ……(ドン引き)」
リリ「えっ……(心外そうな顔)」
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その後、リリアナたちは丁重に村から追い出された。
†††
翌朝。
結局、安全のため一晩泊めてもらった俺たちだったが、「先を急ぐから」とさらなる歓待を固辞し、出発しようとしていた。
「ホントに大丈夫か? 連中がまだ近くにいたら……」
見送りに来た門番のオッサンが、立ち込める朝もやを見通そうとするかのように、目を細めながら辺りを見回している。
まだ夜は明けたばかり、薄着だと肌寒いほどだ。しっとりとした空気、風に徐々に吹き流されていくもや、村の近くの森さえぼんやりとした輪郭しか見えない。
「どこに潜んでいるかわからねえぞ……あの変態エルフが……!!」
いや変態エルフて。霧に潜む怪物みたいな扱いになってる……
まあ、擁護のしようもないわけだけど。
――お目付け役の女エルフが機転を利かせてくれたおかげで、昨日の一件で、俺は必要以上に目立たずに済んだ。
ただし、代わりにリリアナの世間体が死んだ。『小さくて可愛い子に目がなく、我を失って突進し犬のように舐め回す変態』の烙印を押されてしまったのだ……!
残念ながら当然……ッッ!
村人たちは、『見ちゃいけません!』『さあ、帰るよ!』と、我が子らをそそくさと家に連れ帰り、老神官ゲドックが村の皆を代表して、『そういうのはちと――困りますなぁ、そういう方が、ウチの村に入ってこられるのは……』とやんわり、だが断固とした態度で拒絶した。
『お騒がせしました』
『大変失礼しました。さ、リリィ行くわよ!』
『くぅーん……』
しょげかえった顔のリリアナがこちらを見つめて、情けない声を上げながらお目付け役ふたりに引きずられていくのを、俺はただ見送ることしかできなかった……
アレが、『聖女』と呼ばれる同盟軍の希望、前線を支え続けた英雄的なハイエルフだと知ったら、皆はどう思うんだろうな……
ま、信じないか。
ともあれ、俺たちは聖教会にて老神官にもてなされ、いつ正体が露見するかとヒヤヒヤしながら、適当な身の上話などをしつつ(口達者のアンテが活躍した)、どうにか一夜をやり過ごして現在に至る。
「もうちょっとウチの村にいてもいいんだぞ」
「ありがとうございます。でも、お気持ちだけ……」
名残惜しげな門番のオッサンに、レイラが愛想笑いで答えていた。
レイラとアンテは聖銀呪に触れちまったら一発で正体がバレるからな。熟練の魔法使いゆえ、気軽に聖銀呪交じりの奇跡だの何だのを使う老神官がそばにいて、昨夜は気が気じゃなかっただろう……
「それに、相手は森エルフですからね。もしも向こうが……その気なら、何年でも何十年でも待てちゃいますから」
なので数日、村に滞在したところで無駄だ、と。
「まあ……それは、そうだが……」
「大丈夫だって~! あのヘンタイはともかくぅ、仲間の他ふたりは良識がありそうな感じしたし~? オジサンってば心配しすぎ! ま、気持ちはありがたいけど♪」
アンテがどことなくナマイキな口調で言った。ニヤニヤとした笑みは、きっと演技じゃない。リリアナをヘンタイ呼ばわりせざるを得ない状況を、心の底から楽しんでるに違いないぜ……
「逆に、相手がその気だったら、逃げられねえわけだからな……坊主、嫌だったら嫌ってちゃんと言うんだぞ」
「う、うん……」
「……立派な男になって、姉ちゃんたちを守ってやれよ、坊主。……朝もやのせいで見えにくいが、太陽の方向に歩けば街道に行き着くはずだ。……気をつけて、行っておいでな。親戚にちゃんと会えるといいな!」
ぐすっ、と涙ぐみながらオッサン。
昨夜は聖教会に食材を持ち寄ってきてくれて、夕餉を共にした関係上、俺たちの身の上話や苦労話(捏造)も聞いていたオッサンは、いたく感情移入してくれているようだった。
「気をつけてなぁ~~~!」
「ありがとうございます! さようなら~!」
「ばいば~いオジサン!」
「さよなら~」
手を振るオッサンの姿は、すぐに朝もやに紛れて見えなくなった。
「……悪い人じゃなかったな」
しばらく歩いてから、俺がボソリと呟くと、「ですね……」とレイラも神妙な顔でうなずきつつ、ホッと肩の力を抜いた。
この朝もや、いかにも道に迷いそうだが、俺たちにとっては都合がいい。
貧弱な人族の目から姿を隠してくれる――
「ふふ……」
アンテが笑みをこぼし、輪郭がブレたかと思うと、その額には角が生えていた。
幼い娘の姿に似合わない威圧感は、すぐにもやに紛れて消えていく。周囲の空間に魔力を発散させて、圧力を減じる気配隠しのテクニック。
「ふむ、背後に怪しい影はなし、と」
魔力で探ったか、村の方を一瞥したアンテは。
「――ただ、お迎えのようじゃな」
進行方向に視線を転じて。
朝もやの向こうから――何かが来る。
渦を巻いて、もやが吹き散らされる。
それは、旋風が実体化したような存在。どことなく人を思わせる形。
『こちらへ……』
ヒュウヒュウと木枯らしじみた掠れ声。風の精霊だ。
こんな朝もやごときで、風と水に愛された森エルフが、俺たちの存在を見落とすはずがない――
風の精霊が、手招きするような仕草を見せ、俺たちを先導している――ような気がした。今の俺の目にははっきりと映らない。魔力弱者の人族だから。
ただ、朝もやが渦巻いて奇妙なトンネルができるので、追跡は容易だった。
森エルフ同士でなければ使いづらい風の精霊による意思伝達だが、こんなのでも、戦場では命を助けられたことが幾度となくあった。惜しむらくは、精霊術の中で最も高度とされる術で、一部の上位の森エルフしか使えないこと。
……似たようなことができる上、ホイホイ魔法まで乗せられるイザニス族とかいう連中が魔王国にはいるけどさ。
「さあて、お待ちかねじゃな」
アンテが、俺にニヤリと笑いかけてきた。
そうだな。……一晩経ったせいで、逆に俺も緊張してきた。風の精霊のあとについていきながら、胸が高鳴るのを自覚する。
――それにしても、皮肉なもんだ。ある意味、門番のオッサンの懸念は正しかったわけだ。
朝もやをかき分けて進んだ先、森のほとりで。
よく日に焼けた3人の森エルフが。
確かに、俺を待ち構えていた。
「アレク……!」
ああ。やっぱり夢じゃなかったんだ。
感極まって、涙ぐみながら、それでも花開くように微笑むリリアナ。
俺もまた、目頭が熱くなるのを感じながら笑い返した。
「――久しぶりだな、リリアナ」
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※次回、感動の再会シーズン2……!!
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輝竜先生ー! ニトラ先生ー! ありがとうございます~~~!! BIG LOVE...
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さらにそのknkマシマシ展開を、輝竜先生の素晴らしいイラストが鮮やかに描き出してくださって……!! おほ不可避。おほ不可避です。
あと今回も、3巻登場人物キャラデザ紹介の発売カウントダウンをやると思いますので、どうぞお楽しみに! 輝竜先生が、また素晴らしいキャラデザをですね……私はこのキャラデザについて真におほるべき感想を生み出したが、ここに記すには余白が狭すぎる。
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