462.衝撃の事実

※皆様、つぎラノの投票に沢山のご協力を頂きありがとうございました! 大変励みになります! これからも頑張ります~~~!


 ちなみに話は変わりますが、前話のジルくんがボコられてるところのイメージは、クレ○ん映画のヘンダ○ランドでぶりぶ○ざえもんが裏切るシーンです。

――――――――――――


 吸血鬼を根絶やしにしろ、か。


「――もちろんです」


 一瞬、言い淀みそうになった自分に驚いた。


 おいおい……しっかりしろよ俺。何を考えてるんだ。


 ……どのみち、闇の輩はまとめて滅ぼすつもりだったろ?


 吸血鬼に魔族の血の味を覚えさせて、魔王国滅亡の暁には、魔族の残党と文字通り食い合わせるつもりだった。


 ヤヴカたちは、少なくとも俺が旅立つ直前までは、なんかいい感じに自治区に馴染んでいるように見えたけど。


 あれも、優しさや思いやりの結果なんかじゃなくて、魔族おれの血の方がウマいから、人族への興味が薄れていただけだ。


 奴らが血に飢えたケダモノであることに違いはない。


 ……いや、統治に興味のないダイアギアスが代官をしている現状、上辺だけの共存なんて既に崩壊していてもおかしくないくらいだ……


 きっと、そうだ。


 だから。


「全力を尽くします」


 俺の答えに、満足気にうなずくレキサー司教。


 ……と思った次の瞬間、その姿がスゥッと薄れて消えていく――!?


『――いかん! 奴らを一掃できると考えたら、それだけで満足してしまいそうになった! 【神鳴フールメン! 神鳴フールメン!】』


 勢いよく頭を振ったレキサー司教は、まるで眠気覚ましのように、自らの両頬に雷のビンタを叩き込み始める。


 いやいくら雷属性がアンデッド特効じゃないからって、それはヤバい――!


「霊体が! 摩耗する!! ヤバイですよレキサー司教!」

『うオオッッ! まだだ! まだこんなところで、消えるわけにはいかないッ! 死んでからまだ一匹も狩ってないのに、こんなところで……消えてなるものかァ――ッウオオオオ――――ッッ!!』

「だからそれやべえって!!」


 俺は慌ててレキサー司教に闇の魔力を注入した。魂の殻の補強しつつ、理性を強化する。


『ふぅ。というわけで、私は喜んで協力しよう』


 落ち着きを取り戻すレキサー司教。ちょっと存在の核、削れてない? 大丈夫?


『吸血鬼を根絶やしに、か……願ったり叶ったりだな』

『我らの悲願が成し遂げられるのならば、まあ、辛うじて納得できる』

『本当に、辛うじて、だけどな』


 他のヴァンパイアハンターたちも、不承不承ながら前向きな姿勢を見せていた。


『……勘違いするなよ!? 別に、お前たちを許したワケじゃねえからな! 吸血鬼を滅ぼすために、仕方なく協力するだけだ』


 ビシィッ! と俺を指さし、ジロッとレイラを睨みながら言うのは、若手ヴァンパイアハンターのアーチーだ。俺の隣でレイラが縮こまるのがわかった。


『お前にブッ飛ばされた手と足、死んでも疼くぜ……』


 よく見れば、彼の霊体は右足と左腕がボヤけていた。


 彼は――俺の記憶が正しければ、転置呪撃で足を吹っ飛ばされ、左腕の欠損まで押し付けられたはずだ。挙げ句、俺にトドメを刺そうとして、レイラのブレスで焼き殺された……


『俺ぁ姉貴を吸血鬼にさらわれて殺された。聖属性に目覚めて、ヴァンパイアハンターになることを決めたのは他ならぬ俺自身だけどよォ、俺の両親は娘と息子を失っちまったわけだ。1ヶ月くらいしたら俺の訃報が届くだろうよ』


 …………。


『人類のために死ねたなら、俺もまだ、誇りに思えただろう! だけど蓋を開けてみりゃこのザマだ、納得なんて死んでもしたくねえ!』


 …………。


『だから……せめて姉貴と俺の無念を、100倍返しくらいにさせてもらう。魔王国は滅ぼすし、吸血鬼どもも根絶やしにする。それを見届けたら、俺も安心して、満足して逝けるさ。……できなきゃ承知しねえぞ、俺ァ祟るぜ』


 こつんジュワ、と聖属性の拳で小突かれた。


「わかった。その無念、絶対に晴らして見せる」


 俺が血を吐くような思いで宣言すると、アーチーは鼻を鳴らし、手をひらひらとさせてそっぽを向いた。



 そうして、ヴァンパイアハンターの皆は説得できたわけだが……



「……アーサー」


 若き英雄は、ずっと黙っていた。


 その若さには不釣り合いなほどの、憂いを帯びた目で――じっと砂浜に打ち寄せる湖の静かな波を眺めていた。


『……あ、ごめん。考え事してた』


 名を呼ばれて、アーサーがふっと顔を上げる。


『そういえば、アレックス……いや、アレクサンドル? って呼ぶべきかな』

「ああ……どちらでも。仲間内では、アレクって呼ばれてる」

『アレク――アレク、か。アレク』


 俺の名を咀嚼して、ははっ、と困ったように笑うアーサー。


『……アーヴァロン、巻き付いたままだね。痛くない?』

「……正直、かなり痛いです」

『気づかなくてごめん。外して――あげられるといいんだけど。今の僕の言うことでも、聞いてくれるのかな』


 音もなく歩み寄ってきたアーサーが、おっかなびっくりと言った様子で、ちょんと半透明の指先で白銀の鎖をつついた。



 ふわっ、と解けるようにして、鎖が盾に戻り、トサッと砂浜に落ちる。



 ああ……一気に、楽になった。これまで樽いっぱいの石を背負わされていたのを、取り去ってもらえたかのようだ。


 この鎖、行動の自由を奪い、痛みを与えるだけじゃなく、俺の魔力もわずかに抑制してたんだな……並の魔族だったら、身動きすら取れなくなって、そのまま討ち取られてただろうな。


『あ、戻った。っていうか、僕の腕ついたままなんだね』

「あ……ごめん。他に取りようがなくて……ありがとう、楽になった……」

『うん……よかった』


 ……それ以上は話が続かず、ふたりして隣り合って立ち、アウリトス湖の暗い湖面を眺めた。


 水面に映り込んだ銀色の月が、湖を吹き抜ける風に、ゆらゆらと揺れている。


『……魔王城強襲作戦のことを初めて聞いたとき、僕はまだ成人の儀を終えたばかりだった』


 ぽつん、とアーサーが独り言のように。


『もうちょっと早く生まれていれば、僕も参加できたかもしれないのに――って。悔しく思ったのを、昨日のことのように思い出せるよ』


 強襲作戦が8年前。成人の儀がそんときってことは……


「まだ……二十歳はたちくらい、のか……」

『うん。去年、20になった』


 若すぎる……というレキサー司教のつぶやきが背後から聞こえて、俺は瞑目した。


 20で――あの強さだったのか。


 見た目が20代半ばだったのはエクスカリバーのせいで。


 アーサーは……本当に、前世の俺なんか足元にも及ばない、神話級の英雄……


 だった、んだな……


『ねえ、アレク。当時の強襲作戦に、今くらいの僕が参加できていたら、魔王は倒せたかな?』

「…………」


 それでも――魔王は。


「……正面からの殴り合いだと、本気の俺が10人がかりでも厳しい」

『『…………』』


 そよ風とさざなみの音が、やけに大きく響いた。


 ……なあ、アンテ。今の俺って、どれくらい強いんだ? また例によって、新たに得た魔力は預かってくれてるんだろ?


『ふむ。同盟圏に来てからというもの、そこそこ成長はしておったが……ここ数時間の成長ぶりは、目を瞠るものがあったのぅ。ほほほ』


 なにわろとんねん。はっ倒すぞコラ。


『おお、怖い怖い。そして実は先ほどの戦場で、お主が危ういときに了解なく魔力を渡しておったでな。新たに稼いだうち、半分以上はすでにお主のものになっておる。今のお主は、アイオギアスやルビーフィアに並ぶか、すでに抜き去っておろう。あやつらが最後に会ったときから、劇的に成長しておらぬ限りは』


 そう、か……


『お主は、魔王を除けば、魔王国でも最強魔族の一角と言ってもよいじゃろ』


 アンテは太鼓判を押した。


あの女プラティも、息子が見違えて喜ぶじゃろうて……』


 ――ほくそ笑みながら。


『そんなに、強いんだ……魔王は……』


 一方で、アーサーが力なく笑う。


『じゃあ、僕なんて、いてもいなくても変わらなかった、かな……』

「いや、あのときにアーサーがいたら、もっと大人数が魔王のもとまでたどり着けたはずだ。俺みたいな木っ端勇者はともかく、『聖女』リリアナも乗り込んでたから、皆が合流できてりゃ話は別だったと思う」


 さっきの俺が10人がかりで~ってのも、リリアナの援護があったら話が変わってくるからな。エメルギアスと殺し合ったときも、リリアナの助太刀のおかげで押し切れたようなもんだったし……


 リリアナがいて、アーサーがいて、剣聖やその他勇者神官ドワーフ戦士エルフ導師なんかもいて、力を合わせて魔王に挑めば……


 う~~~~~ん…………まぁ、手傷のひとつやふたつは負わせられたかもな。


 そして魔王は、俺と違って転置呪を使えない。


「魔王は魔法抵抗が強すぎて、俺たちレイジュ族の転置呪による治療を受け付けないんだ。治癒の奇跡と違って、あくまで呪いだから、本人が受け入れようとしても弾かれちまうんだよな」

『へえ……無敵の魔法抵抗にも、そんな弱点が。アレクでもダメなの?』

「ああ、俺でもムリ――」


 ――いや待て、限界までガードを下げた魔王に、転置呪撃を撃ち込んだら……ひょっとしたら転置呪も通るんじゃねえか……?


『なんと! そうなれば、お主が魔王国で唯一、魔王を治療可能な魔族ということになるではないか! ふはははは』


 アンテが爆笑し始めた。笑いごとじゃねえよ!!


 ――いや、考えてみたけど、難しいわ多分。転置呪撃は呪詛撃の発展形で、基本的に敵を害するための手段だからな。全力で殺意を刃に乗せないとできないし、転置呪撃は「自分の傷を押し付けてやる」という攻撃的な衝動を基にしている。


 転置呪撃で治療しようと思ったら、「ブチ殺してやるぜ!」って気合と、「俺が傷を引き受ける!」って慈悲の心を両立しなきゃいけないわけだ。


 少なくとも俺には無理。相手が魔王ならなおさら無理。


 あ~よかった、俺が魔王国で唯一、魔王を治療可能な魔族じゃなくて……


『……ちょっと待って欲しい。ひとつ、重大なことに気づいたのだが』


 と、そこでレキサー司教が口を開いた。


『アレックス君は、8年前の強襲作戦に参加していたのだね?』

「そうです」

『それで……気づいたら魔王子に生まれ変わっていたと』

「そうなりますね」

『では――それでは――』


 レキサー司教は、彼にしては珍しいことに、どこか戦々恐々とした様子で問う。



『君は――魔王子ジルバギアスは、いったい何歳なのだ……?』



 あ。



 ……あ~~。



 お気づきに、なられましたか……。



「6さいです……」



 俺は目を逸らしながら、小声で答えた。



『『『『6さい?????』』』』



 …………気まずい沈黙。



『ふざけんな』

『冗談も大概にしろ』

『馬鹿がよ』

『若すぎるだろう!』

『若いってか幼いじゃねえか!』

『嘘だと言ってくれ』

『デカすぎんだろ体ァ!』

『どうなってんだよ!!!』



『『『『おかしいだろ!!!!』』』』



 そんなこと俺に言われても~~~~!

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