401.悪霊と復讐
うおおおおおァァァッ!!
秘技・骨製足ビレ全力バタ足ィィィァァァッ!!!
どうも、意識のない男と少年を抱えてめっちゃ必死に泳ぐ勇者アレックスです!
重い! 自力で動けない人間ってマジでクソ重いんだよなァ! それに水を吸った服や、アダマスの重量もあるからなおさら!
兵士たちの遺骨持ってこなきゃ絶対ムリだったわコレ!!
『まったく世話が焼けるやつじゃのー』
ちなみにアンテも実体化して、俺を押してバタ足してくれている。悪魔なので呼吸は必要ないし、上位の魔力を誇るので、幼い少女の姿をしていても人化した俺なんかよりよほど力も強い。
アンテ……お前の存在で助かったと思ったことは何度もあるが、少なくとも今この瞬間、今年一番助かってるぜ!!
「ぷはっ!!」
なんとか水面まで浮上。木材や物資がめっちゃ漂流している。周囲には気まずそうな顔でぷかぷか漂う湖賊の姿もちらほら。まあ、吸血鬼の支配からは解放されたとはいえ、湖賊やってたのは事実だからな! 今後のこと考えりゃなァ!
「おぉーい! 大丈夫か!」
近くにはニードアルン号、よかったこっちは無事で……! 森エルフ弓兵や神官、そしてレイラが険しい顔で水面を見下ろし、万が一の再襲撃に備えていた。
「アレク!!」
死にそうな表情をしていたレイラが、ほっとして崩れ落ちそうになりながら、どうにか笑顔を浮かべて手を振ってくる。心配かけてごめんね! 俺も手を振り返す。
甲板からはロープや縄梯子が垂らされ、船員たちがボートを下ろそうとしているのも見えた。
「手を貸してくれ! 捕らえられてた人質だ!」
「わかりやした!!」
縄梯子を降りてきた船員に少年を任せ、さらにロープに意識のない男をくくりつけて引き上げてもらう。
「レキサー司教やアーサーはどうした!?」
「湖賊船のボートで脱出されたみたいです! 今は反対側で警戒されてます!」
「よかった!」
アーサーたちはうまくやったみたいだな! 眷属の掃討と、ひょっとしたらいるかもしれない一般人の救出のために湖賊船を上から虱潰しにして、俺は聖霊という切り札があったから先行し、吸血鬼野郎をブチ殺しにいく算段だったわけだ。俺よりは船の上層にいたから、脱出も容易だったみたいだな。
「勇者様もどうぞ!」
「俺はまだやることがある! 助けられてない人がいるかも!」
船員がこちらに手を伸ばしたが、俺は胸いっぱいに空気を吸い込んでから、再び潜水した。ロメオの恋人を見つけられなかった……正直もう駄目かもしれないって気がしてるが、諦めるわけにもいかねえ!
アンテ! 補助頼む!
『よかろう、お主の気が済むまでは付き合うでな。ただし、眷属と吸血鬼には警戒せよ、ひょっとすれば仕留めきれておらんやも』
そいつは問題だよなァ……! 結局、聖霊たちはひとりも戻ってこないけど、仕留めきれたんだろうか……?
不安や焦燥感に苛まれながら、それでも決死の覚悟で俺は潜っていく。
いや~~~これ……マジで息が辛いな! こっそり遺骨を変形させて、ちょっとだけ空気は持ってきたけど焼け石に水だ!
『仕方ないのぉ~。ほれ』
実体化したアンテが、ちょんちょんと自分の唇をつついている。何?
『こうじゃ』
俺の顔をつかんだアンテが、唇を重ね、新鮮な空気を吹き込んできた。うおっ!
『水面で可能な限り吸い込んでおいた、あと1回は補給可能じゃ』
そうか、身体の構造は生物を模してるけど、息は必要ないから、新鮮な空気であり続けるんだな! 助かる~!
アンテ、もうちょっと頑張って胸の中身を5倍くらいにできねえか? 悪魔って体の形とかもある程度融通が利くんだろ?
『胸の外側ならともかく、内側の構造変化はちと難しいの……あ、でも胃ならもっと空気を溜め込めるかもしれん。喜ぶがよい、次はもっと空気を吹き込んでやれるはずじゃ! 我のゲップじゃが』
最ッッッ悪!!
何が最悪って、実用性があっても実害はないから、頼らざるを得ないところがマジで最悪! でもありがとな!!
などと話しながら、さらに潜っていくと……
『やっほ』
いきなりアンテ以外の存在に話しかけられた。
「もがぁ!」
びっくりして空気吐き出しちゃう! 急速に浮上してくる半透明の女性。
――悪霊化したベアトリスだった。
ただ、今は憑き物が取れたかのように穏やかな顔をしている。……復讐は、無事に果たせたのか?
『何人か呪い殺してやったわ。他の
そうか……でもベアトリスはまだ消えてないんだな。悪いけど、もしよかったら、ロメオの恋人やその他の救助者の捜索、手伝ってくれないか? あと吸血鬼が仕留めきれたかどうかってわかる?
『ああ、それを話したかったのよ。下手に水面に近づいたら陽の光がヤバそうだったから、潜ってきてくれて助かったわ』
そいつは助かる! それで話は?
『手短に。まず吸血鬼は死んだみたい、確認しに行ったら灰になってたわ。聖霊さんたちも消えちゃったみたいだけど』
そうか! そうか……。
『次にロメオの恋人さんは助かったわ。あと、他に助けなきゃいけない人はいないみたい、実は船を見て回ってたの』
マジかよ。用事ぜんぶ済んじゃったわ……有能すぎる……。
とりあえず、水面に近づけないベアトリスを遺骨に収納して、俺は詳しい話を聞くために船に戻ることにした。
『ところでその娘だれ?』
アンテを示して、ベアトリス。こいつは……俺の、守り神さ。
『ふふん』
ニヤッと笑ったアンテが、俺の中にスッと戻ってきた。空気はもう必要ないし。
『ふぅん。あなたにも色々あるのね……』
感心したような、それでいて、あまり興味もなさそうなベアトリス。
もはや現世の情報に、ほとんど執着がなさそうな様子。
――感情が擦り切れ始めている。
ベアトリスもまた、存在が薄れて、消えかかっている。
俺の死霊術師としての経験と直感が、そう告げていた。
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