388.同族と共感
「なっ……」
ふわふわ浮かぶ銀色の霊体に、俺はもう、絶句しちまった。
――何やってんだよ、マーティンッ!!!!!??
『あ……私、何かやっちゃいましたか』
マーティンが、決まりが悪そうな顔でくるりと振り返る。
いや、やっちゃいましたかも何も、やっちゃってないことがねえよ!
やらかしの塊だよ!!!
アーサーが!! もうびっくりしちゃってんじゃん!!!
アンデッドがこんな真っ昼間に登場するとか思わないじゃん!!
しかも銀色!!! 聖属性に染まりきって!!
どうすんだよおい!! これまでのらりくらりと追求をかわしてた俺の努力! 窓から吹き込んだ突風じみて、伏せてた手札をオープンしてんじゃないよ!!
……でも冷静に考えたら、『人前で姿を現しちゃダメだからね』とは言い含めていなかった気がする。当然すぎる前提条件だと思ってたから。
「…………」
俺の痛恨の表情から、やらかしを悟ったマーティンもまた顔を曇らせる。
『すいません、故郷のことを思い出せたので』
うつむいて。
『つい、嬉しくて……』
…………。
わかるよ。
俺は、俺だけは、その気持ちに寄り添わなければならない。
俺も、さ。生まれ変わって、故郷の村の名前が、記憶から欠けちゃって。
アンテに指摘されるまで、忘れてしまったことにさえ気づいていなくて。
ずっと不安だった。悲しかった。自分のルーツが喪われてしまった。その事実を、直視するのも辛くて。
でも……緑野郎の戦績を調べてさ。
『タンクレット村』って単語を見つけて、頭の中でなくしてたパズルのピースがハマったみたいに記憶が蘇ったときは。
嬉しかった……なぁ。
思わず涙が溢れてきたもんな。一緒にいたソフィアには不審がられたけど、それでも止められなかったんだ、あの涙を。
休眠状態でまどろんでいたマーティンが、故郷の名が聞こえて、ハッと覚醒して、思わず飛び出してきちゃったとしても。
責められねえよ、俺……。
だって痛いほどわかるんだ、その心境が……。
故郷の名を取り戻せて、魂が震えちゃったんだよな。わかるよ……
『しかし実際どうするんじゃコレ……』
アンテが半ば諦念を滲ませながらつぶやいた。
それなんだよなァ~~~~~!!
俺は眼前、部屋の壁に立てかけた聖剣に手を伸ばしかけたまま唖然とするアーサーと、銀色に光り輝き所在なさげにふわふわ浮かぶマーティンとかいう決定的証拠に、改めて頭を抱えた。
「アレックス……これはいったい……?」
ゆっくりと、鞘に納めたままの聖剣を膝の上に置きつつ、アーサーが慎重に尋ねてくる。
死霊術だとは明かしたくない。『闇属性の勇者アレックス』を知られるのは、百歩譲って仕方ないとしても、死霊術が使えてホワイトドラゴンまで連れてるなんて情報は、知る者は少なければ少ないほどいい。
というか、エドガーひとりで充分だそんなヤツ。
いやでも、それならアーサーに教えてもよくないか? 吸血鬼を追い詰める上で、犠牲者から直接話が聞けるのであれば前提条件が大きく変わる。
それにアーサーの方がエドガーよりは死ににくいだろうし、光属性も扱えるから、万が一死んでエンマに呼び出されても自滅は可能だし……
いや、でも、死霊術だと明言する必要もないか。アーサーは英雄だ、いずれ前線で目覚ましい活躍を見せるかもしれなくて、だからこそエドガーに比べエンマの注意を引きやすい。アーサーが奮戦虚しく戦死してしまい、エンマに魂を引っこ抜かれて、自滅する間もなく掌握されてしまったら……
勇者アレックスと、魔王子ジルバギアスとの共通項が多すぎる。それはあまりにもマズい。
ここで『死霊術じゃない!』と強弁するのはそれはそれで厳しいが、せめて何か別系統の術だと思わせたい。
――せっかく銀色に輝いてることだしなァ!!!
「……バレてしまったからには、仕方ないな」
腕組みして唸っていた俺も、肩から力を抜く。
ええい、ままよ。
「……あ、マーティン、悪いけど戻ってもらえるか……」
これ以上致命的なボロが出る前に……。
『すいません……』
「いやいいよ、仕方ないよ……」
スンッと俺の胸ポケットに吸い込まれるようにして戻るマーティン、俺はそれを見届けてから、アーサーに向き直る。
「秘密にしていたが……これこそが俺の秘術」
可能な限り神妙なキメ顔で、俺は告げた。
「【聖霊術】だ……っ!」
ぱち、ぱちとゆっくり瞬きするアーサー。
「……死霊術ではなく?」
聖霊術だ……っっ!!!
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※昨夜、ファイナルラストキャラデザ公開で、アレクサンドルの生前の姿が紹介されております! それと書籍発売記念に、『村が滅びず、平和に暮らして大人になりつつあるアレク』の何気ない日常を描いたifストーリー『タンクレット村のアレクサンドル』を近況ノートに掲載しております! 魔王軍が存在しなければありえた、だけどそうはならなかった世界! ぜひぜひご堪能いただければ幸いです……!
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