377.当然の帰結
「占い……まさかきみは、未来がわかるというのか?」
にわかには信じがたい、といった様子で目を見開くアーサー。
「いや、どちらかというと、過去を読み取る秘術なんだ」
俺は慎重に答える。嘘は言っていない。
「水死体の遺物から読み取ったんだ、彼の足跡を……」
その結果が将来を占うというわけさ。厳密に『占い』と言っていいのかわかんねーけどコレ。
「…………」
「まあ、信用しきれないのも無理はない」
判断しかねているアーサーに、ゆるゆると首を振ってみせる。
「しかし、俺が夜エルフの存在に気づき、狩り出すことができたのは……この秘術のおかげと言っても過言ではないんだ」
まじりけのない真実。清々しいくらい嘘は言ってない。
世の中にはワケのわからねえ魔法や奇跡が山ほどあるからなぁ。「こういう秘術なんだ」と言い張れば、「そういう秘術なのか……」としか人は返しようがない。また神秘性や秘匿性の観点から、あまり根掘り葉掘り聞かないし、聞けないものだ。
『エドガー=ワコナン……』
アイツは例外。
そして、そんな風潮を悪用して適当なことを抜かす詐欺師まがいの輩もいるが、俺の場合、諜報員を見つけ出して速やかにブチ殺したという実績がある。それに勇者という身分もあわせると、一定の説得力はあるだろう。
「なるほど……」
アーサーも、ひとまず俺を信用することにしたらしく、俺がもたらした情報を吟味し始めた。
「徒党を組んだ吸血鬼、か……一応その可能性も考慮していたけど、厄介だね」
「現状、聖教会の支援は?」
「本国に遣いは送った。ヴァンパイアハンターが集結してくるはずだ、ツードイの街で合流する予定になってる」
ちなみにここで言う『本国』とは聖教国のことだ。
「ツードイの街ってのは?」
「アウリトス湖東岸の都市国家だよ。素晴らしく交通の便のいい立地で、周辺地域の人と物が集まる活気のある街さ。1週間後に寄港する予定だ」
「それは心強い」
「そして、中型以上の客船が襲われたとなると、かなり有力な手がかりになるだろうけど……素直には喜べないな」
アーサーが痛ましげな表情を浮かべた。
「まったくだ……」
マーティン以外の乗員乗客も犠牲になっているはず。おそらくその客船は行方不明扱いで、湖賊や魔獣のせいにされているんだろうが……アウリトス湖全体で見たとき犠牲者の数がどれだけ膨れ上がるか、考えたくもない。
打ち上げられた水死体は、まさしく氷山の一角に過ぎなかったってわけだ。
「許せねェな……!」
「ああ……!」
顔を見合わせた俺とアーサーは、どちらからともなくガシィッと握手する。
「彼らの無念を晴らそう」
「必ずや。ところで、その船がどの辺りで襲撃されたか、という情報は?」
「それはちょっとわかんないッス……」
固く握手したまま、俺は目を逸らして小声で答える。
「そっか~……」
(なぜ襲われた船の規模や被害者が死んだ状況はわかるのに、その位置はわからないんだろう?)という内心を押し殺していそうな神妙な顔でアーサーがうなずく。
「その……一応、あの水死体の故郷について、断片的な情報はあるんだが」
「うん」
「『カ』『エ』もしかしたら『ム』、このあたりが名前に含まれる街っぽい」
「…………流石にちょっとわかんないね、それだけじゃ……」
「だよな……」
アウリトス湖は広いしね……。
「ただ、それも重要な手がかりだし、ウチの船の船長に聞いてみるよ。僕より地名に詳しいだろうし」
「助かる」
マーティンの故郷が特定できれば、そこから出航していた航路をたどることで吸血鬼の生息域もかなり絞り込めるだろうからな……! 連中が移動していた場合はアレだけど。
「まだまだ特定には至らないけど、貴重な情報をありがとう。明日の朝にでも伝書鳩を飛ばすよ、ツードイの聖教会に敵が複数いる可能性を伝えておかないと」
「それがいいだろうな」
本国へさらなる支援を要請できるかもしれないし。
「じゃあ、俺はそろそろお暇するよ。家族団らんを邪魔しちゃって悪かった、奥さん寂しそうにしてたからな」
「大丈夫だよ、気にしないでくれ。あ、そうだアレックス」
笑顔で解散ムードを出しかけていたアーサーが、ふと気づいたように真面目な表情に戻る。
「さっき、『遺物から情報を読み取った』……みたいなことを、言っていたよね」
「……ああ」
それがどうかしましたか……?
「実は僕、これまで打ち上げられた水死体の遺物も、証拠としていくつか確保してあるんだけど……明日、それらを預けるから、何か他にも読み取れないか試してみてくれないかな?」
えっ、遺物から情報を!?
…………できらァ!
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