332.隠された一面
どうも、逃した夜エルフを追っかけたら、ぷすぷすと煙を上げながらふん縛られているところに出くわした勇者アレックスです。
「おお、アレックスか。奇遇だな」
「エドガー? なんでこんなところに」
そして縛り上げているのは、見知った神官――エドガーだった。
「なに、近頃の治安悪化を受けて、夜回りしていたらコイツに出くわしたんだ」
「あ、ああ……なるほど……」
夜エルフからすりゃとんだ災難だな。
「……なるほど、そういうことか」
そして思わずレイラと顔を見合わせる俺をよそに、何やら納得するエドガー。何が『そういうこと』なの!? この一瞬で何を悟られたんだ俺は!?
「この夜エルフが、『ツレが殺された』『人殺しに追われている』などと主張していたんだが――きみのことだったんだな」
……ああ、そういう。ヤベーことを悟られたワケじゃなさそうで、安心した。
この男を――
「一般人を装って、エドガーをやり過ごそうって魂胆だったのかな」
「おそらくは。まあ、ちょっと問い質したら、すぐに化けの皮が剥がれたが」
厳重に、諜報員の足をベルトで拘束し、さらに後ろ手にワイヤーで拘束し終えて、エドガーが肩をすくめる。
「こちらとしては、人族になりすました魔王子ジルバギアスである可能性さえ想定して、かなり緊張したんだが……」
…………。
「蓋を開ければ、ただの夜エルフで助かったよ。しかし、まさか、公都にまで魔王軍の魔の手が及んでいたとは……」
公都どころか、国中なんだよなぁ。
「アレックスも仕留めたんだろう? 夜エルフを」
「ああ、ひとりな。そっちは生きてるのか」
「30分もすれば目を覚ますだろうさ」
ぐったりした夜エルフの頬をぺちぺちと叩きながら、エドガーは言った。ってか、拘束にお
『いくらキレのある男でも、ここまで用意周到じゃと気持ち悪いのぅ』
だなー。そういう趣味でもあんのか?
『まあ、いたいけな少女にボン=デージ着せて、ぴちぴちのハイエルフ皮を身にまとっとるお主ほどではないが』
やめてくれアンテ。その呪文は俺に効く。
「……それにしても、よく生け捕りにできたもんだ」
状況からして、不意打ちしてきたであろう夜エルフを、自害すら許さずに鮮やかに無力化するとは。
魔法や奇跡、その他諸々の修行に時間を割かれる神官は、勇者に比べると白兵戦は苦手とされている。まあ武装神官とか剣の修道会とか、例外はいくらでもあるけど。エドガーも近接がイケるクチなのだろうか。
「【昏倒】の術を使ったんだ」
ニヤッと笑うエドガー。
「そんな術が? 初めて聞いたな」
「私の師匠が編み出した技さ。鎮痛の奇跡に、雷撃を組み合わせて、強制的に意識を遮断する魔法だ」
エドガー、雷属性なんだ……ってか新たな魔法を編み出すとか、サラッと言ってるけどすごい奴に師事してんな。
「かなり便利そうな魔法じゃないか」
「ああ。使い手は少ないが……生かして捕らえる余裕なんて滅多にないし」
「そりゃそうだ」
下手に手加減して、仕留め損なったら何をするかわかんないから、まずは確実に息の根を止めるつもりでいけ、ってのが聖教会の基本方針だからなぁ。
にしても、生け捕りにされたか……死霊術で情報抜き取りにくい、と思ったが、他にも何人かいるし、聖教会に情報が流れるからよしとしよう。
というか、オフィシアの家にいなかった残りふたりを、どうにかしなければ。
「とりあえず、こいつは聖教会まで連行だな……アレックスも来るだろう? 詳しく話を聞かせて欲しい」
「……ああ、もちろん」
この流れ、行かざるを得ない。
こうなったら残りの夜エルフ諜報員も、聖教会を巻き込んであぶり出すか?
「いったいどうやって、こいつらを見つけたんだ?」
気絶した夜エルフを肩に担いで、のしのしと歩きながらエドガーが問うてきた。
「実は、コルテラ商会に手紙の配達を頼まれていてな。その流れで、副支部長のオフィシアの家を訪ねたんだが、怪しい気配を感じて――」
俺はそれらしいカバーストーリーを語る。直感的に怪しい気配を察知したので、扉越しに聖属性を流し込み、ひとりを排除。もうひとりをレイラとともに追いかけてきた、と……
『直感』と『気配』だけで一般市民の家の扉をブチ破るという暴挙、怪しさ満点だが結果が出てるのでよしとしてもらおう。事実、エドガーもちょっと不審そうにしていたが、他にも気になる部分があるので流すことにしたようだ。
「コルテラ商会の副支部長の家に、夜エルフが……?」
エドガーは険しい顔で、何やら考えを巡らせている。
さて、どこまで伝えるべきか……。
「肝心の副支部長は?」
「いなかった」
「こいつらに殺されたんだろうか」
「いや、家が荒らされていたワケじゃない」
俺は一呼吸置いて、
「……個人的には副支部長も怪しいと感じている」
「コルテラ商会が、傀儡組織だと」
「可能性は高い」
どうなるかな、コルテラ商会。やっぱり取り潰しコースだろうか。他の商会に吸収合併される形で収められれば、とは思うものの……流石に俺の制御可能な領域を越えている。せめて、関係者全員が処断なんて事態は避けたいが……
「ふぅむ。何はともあれ、人を派遣して現場を確保した方が良さそうだな。急ごう」
事態を重く見たエドガーが走り出す。
「それ、持とうか?」
「……助かる」
割と長身な、ぐったりとした夜エルフ。肩に担いだまま走るのがキツそうだったので、俺が代わることにした。
日焼けしたように見せかける特殊メイクは、ところどころが拭い取られて、病的に白い地肌が覗いている。キツネ顔――こいつがパウロ=ホインツか。巡り巡って手紙の受取人とご対面だ。
『まともな死に方はできそうにないのぅ』
情報を搾り取ったら、日晒しだろうなぁ……
『尋問の途中で死ぬかもしれんぞ?』
いや、
『あー。やりすぎなければ延々に……』
「ああ、そうだアレックス」
「ん、どうした」
と、エドガーが何やら真剣な顔で話しかけてきた。
なんだろう。すっげー嫌な予感がする――
「こんな状況だ、またいつ夜エルフと戦闘になるかわからない。念のため
アッ!
ヤバいッッ!!!
「――私は光と雷属性持ち。上級治癒も使えるが、時間がかかるし連発はできない。どちらかというと、雷を交えた攻撃魔法の方が得意だな」
連携強化のため、自身の能力・得意分野を明かしたエドガーは。
「アレックスは、何属性持ちなんだ?」
――あっさりと踏み込んできた。
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