268.健全な運営
どうも、エヴァロティ王城で異種族役人3人衆の報告に耳を傾けている代官ジルバギアスです。
「――というわけで、魔獣避けの前線基地が建設完了。生活施設を拡充させ、最終的には村として活用するとのことです」
ポークンが報告書をペラペラとめくりながら言う。
「ふむ。なかなか順調に進めているようだな」
偉そうにふんぞり返って、うなずく俺。それにしてもポークン、かれこれ数ヶ月の付き合いになるが、横暴に振る舞うところを見たことがないな。まだ力をためているのか……?
「この『村』についてですが、命名は殿下の意見を仰ぎたいとのことです」
タヴォーがポークンの言葉を引き継ぐ。
命名……? ああ、そうか、一応は俺が領主だから、いくら自治区とはいえ勝手に名前をつけていいかどうかって話ね。
「ふん、木っ端どもの住まう村の名前など興味はない。どうせこれからも増えていくだろう、都度命名してやるほど俺も暇ではないのだ。好きにしろと伝えておけ」
「はっ」
めちゃくちゃ偉そうな態度で答える俺に、慇懃に頭を下げるタヴォー。よしよし。
「いやぁ、それにしても人族はよく働きますな! このニチャールめも感心いたしましてございます」
と、夜エルフ野郎がニチャニチャ笑いながら何か言い出した。
「忌々しい夏の日差しの下では、獣人どもも怠け癖を発揮してロクに働きませんからなぁ」
ニチャールの言葉に、毛むくじゃらの猫獣人の衛兵がジトッと目を細めた。怠け癖じゃなくて暑くて動けねーんだよ、とでも言いたげだ。
というか、それを言い出したら、お前ら夜エルフこそ日差しの下じゃ怠け者の極致じゃねーか……
「……その点、人族はひとたび動き出せば着々と仕上げていき、予定通りに仕事を終わらせるので扱いやすい! 彼奴らの労働力に着眼された、殿下の慧眼に感じ入るばかりにございます」
いやぁ人族は我々に奉仕するために生まれた種族なのかもしれませんなぁ、などと笑うニチャール。
「そうは言うが、だからこそ気が抜けないのだ。目を離した隙に、
タヴォーが呆れ顔で、そんなニチャールにチクリと皮肉げに言った。
「はん! 謀、大変けっこうではないか。叛逆は殿下も歓迎しておられるし、監視の目もあるのだ、大事にはなるまい」
ですよね殿下、という感じでこっちを見てくるニチャール。その通りなんだけど、コイツの言葉ってだけでなんか素直にうなずきたくなくなるな……
「ただ、幸か不幸か、最近の人族は従順です。むしろ衛兵隊の獣人族の方が、訓練に熱を上げているとの報告も」
表情を切り替えてニチャール。夏の熱波のせいでバテやすい獣人族だが、それをカバーするためか、最近は夕方から夜にかけて鍛錬に時間を割いているらしい。
対する人族は通常通り、むしろ活動が若干縮小気味だったりするのだとか。
ふーむ。
俺は、役人たちの背後に控えていた、吸血令嬢ヤヴカに目を向ける。
「吸血種はどうだ、それについて何か意見は」
「わたくしたちの間では、特にこれといった動きは掴んでおりません」
俺の血を舐めるときの乱れっぷりとは打って変わって、気品に満ちた態度で答えるヤヴカ。
「夜な夜な居住区を見回っておりますが、密会をするでもなし、至って健康的に暮らしているようですね」
それにしても、今日に至るまで吸血による死者はゼロだ。俺の血を褒美にしたのが本当に効いているな。
「昼間は?」
続けて問う。日光の下では活動できなくても、屋根裏とか床下に潜むのは得意だろ
しかし、ヤヴカは静かに首を振った。
「いえ、昼間もです。……元聖教会の関係者がいる場所は、聖属性の仕込みがあるかもしれないため、念のため近寄っていませんが、それでも大規模な集会などが行われた形跡はありません。ただ――」
ただ?
「――昼間に、自治区運営に携わっている上層部が、日当たりのいい屋外で歓談する様子は度々目撃されています。残念ながら、周囲に潜み込めるような場所がなかったため、会話の内容までは聞き取れておりませんが……」
闇の輩対策はバッチリってことか。
「ふむ。まあいい、
俺はそう言って、満足げにうなずいてみせた。
さて、今回の滞在はぼちぼち切り上げるか。最後にクレアに魔力補給がてら、人族の様子でも聞いてから帰ろうかな。
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