230.お披露目
――次なる食事会の日がやってきた。
エメルギアス=イザニスはかつてないドヤ顔で食事の間に足を踏み入れる。
「おっ。おおー!」
いつものように先に食べ始めていたスピネズィアが、食事の手を止めてまで感嘆の声を上げた。
そう。エメルギアスもまた、新たな装い――すなわちボン=デージ・スタイルに身を包んでいるのだ!
それは鮮やかな緑色の蛇革だった。一般的ボン=デージ・スタイルと違い、露出は控えめだが、ぴったりと身体にフィットした革が引き締まったボディラインを際立たせ、いつもよりも雄々しく、そして勇ましく見えた。
また、くせっ毛で好き勝手に跳ねていた緑の髪も、今日は同じ蛇革の髪留めでほどよくまとめており、スタイリッシュにキマっている。
「それいいじゃん兄上!」
「ふふ……だろ?」
エメルギアスのドヤ顔はとどまるところを知らない。
(なかなかイイじゃねえか……)
実際、彼はかなり機嫌が良かった。ボン=デージ・スタイル――今となってはみながハマるのも納得のクオリティ。傍から見ていたときは「何だこれ」という感じだったが、自分で着てみると良さがわかった。
快適さもさることながら、本当に、キマっているのだ。クセモーヌは装着者の魅力を最大限に引き立てるデザインを創り上げてくれる。
今日ほど魔王城を歩いていて、他者の視線を心地よく感じた日はない。エメルギアスのボン=デージ・スタイルには姿勢を矯正する機能もついていて、猫背になりがちな姿勢をキュッと正してくれるのだ。ほんのちょっとした立ち居振る舞いの差が印象を大きく変え、それで周囲の見る目も変わって、さらに自信が増す好循環。
もちろん、それなりに対価を払ったので様々なエンチャントがついている。まったくもって、非の打ち所がないボン=デージ・スタイルだった。
「ふふふ……」
定席でドヤっているうちに、ダイアギアスをはじめ、他の魔王子たちも続々と姿を現した。
「へえ、それいいね。似合ってるよエメルギアス」
「あら、格好いいじゃない。やるわね」
「素晴らしいぞ! お前も良さに目覚めたか!」
口々に称賛の声を上げる兄姉たち。……思えば、派閥も違い、男に興味もないダイアギアスに面と向かって褒められたのは、これが初めてではなかろうか。
「苦労して仕留めた甲斐があった……
エメルギアスがしみじみつぶやくと、アイオギアスが「ほう!」とさらに興味深げに身を乗り出す。
「その色合い、質感、ただの魔物ではないと思っていたが、なんとカイザーバジリスクか! よく仕留めたものだな……!!」
いつも上から目線なアイオギアスにしては珍しく、本気で感心していた。
人を簡単に丸呑みしてしまう巨体に、かすめただけで即死の神経毒を持つ牙。伯爵級くらいの魔族なら防護の呪文ごと絞め殺してしまうパワーに、巨体には見合わぬ瞬発力、何より森に紛れ込み音を立てない静粛性――かなり手強く、恐ろしい魔物だ。
もちろん、ただ殺すだけなら、ある程度の上位魔族なら問題ない。遠距離魔法を叩き込んでやれば、いかに蛇の覇王とて対抗するすべがないからだ。
が、革を利用するための狩りともなれば、話が別。本体を過度に傷つけることなく仕留めようとすれば、範囲魔法で薙ぎ払うようなやり口は封印せざるを得ず、魔法にせよ槍にせよ、かなりの技量を求められる。
そもそもカイザーバジリスクは警戒心が高いため、探し出すのも至難の業だ。あの魔王でさえそう簡単には仕留められない相手だろう。
しかしエメルギアスは、血統魔法【伝声呪】の長射程と【嫉妬】の権能を組み合わせ、
そして――見事、仕留めた。
得意の風魔法で足音を消し、伝声呪でわざと音を立てて、逆に待ち伏せを仕掛けたのだ。急所を槍でひと突き――即死だった。
「かなり充実した狩りでしたよ」
高難度の大物を仕留めてみせた、という自負もまた、エメルギアスの自尊心を高めている。
(父上に見せるのが楽しみだぜ……)
ドヤりながら、魔王ゴルドギアスが来るのを心待ちにするエメルギアス。
それにしても、まだ末弟が姿を見せていないようだが……
「おおっ……!!」
と、そのとき、扉の外から父の声が響いた。
ガチャッと扉が開き、珍しく興奮気味な父が顔を出す。
「おい、みな……すごいのが来たぞ」
と告げて、後続に道を譲るように身を引く父――
「うおっまぶしっ」
扉に近いスピネズィアが思わず仰け反る。
「どうも、遅れました」
入ってくる――
奴が、入ってくる……!
「これが、俺のボン=デージ・スタイルです」
――末弟が、光り輝いていた。
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