190.魔王子再臨
よう! 魔族の王子、ジルバギアスだ。
さて、これはどうしたことかな?
気がつけば、
いったい何が起きている?
『……久しぶりじゃの』
おお、あんたか。魔神アンテンデイクシス。
久しぶり、なのか?
『あれからもう半年以上が過ぎとるの』
けっこう経ってるな。ちょっと待ってくれ……可能な限り時系列順に記憶をたどって、現状把握に努めてみる。
……なるほど。それで俺は王都エヴァロティ攻略軍の旗頭として参戦した、と。
なーんか記憶が飛び飛びでよくわからないんだが、なぜ家来が全滅したか、とか、なぜ市街地で魔族に大被害が出たか、とかは
『お主の人格では、そうじゃな、余計なことは知らん方が良かろう。物分かりが良くて助かるわ』
それで、どうしてまた俺の出番が来たんだい? 元の人格はどうした?
『色々あって、精神的に限界が来てしもうた。自責の念のあまり、消えてしまいたいと願ったようじゃの……無意識で禁忌の魔法を行使し、自我が封印された結果、現在に至る』
なるほど? で、耳がクソ痛ぇのは?
『幻聴に悩まされ、自ら耳を潰したんじゃよ』
えぇ……。
かなり深刻な症状に思えるんだが、大丈夫かよ、元の人格。言われてみれば、手に青い血塗れの短い矢も握ってるわ……これで抉ったのか……。
まあ、元の人格が色々と追い詰められた結果、俺の出番が来たらしい、ということはわかった。
それで、俺はどうすればいい? 『何かを為さねばならない』という使命感自体は残ってるんだが、中身がすっぱりと抜けてしまって、気持ちが悪い。
アンテンデイクシス、指示をくれ。
『本来の第1目標は、魔王軍の他の連中に先んじて、可能な限り多くデフテロス王国軍を殺すことじゃった。元の人格は、それで禁忌の力を――』
魔神さん、それ以上はよしてくれ。
今ならまだ疑念で片付けられるが、あんまり言われると、俺は
それは
俺は
『……その通りじゃ。迂闊じゃったわ』
いいってことよ。俺もあまり深く考えないように気をつける。
『物分かりが良すぎるのも考えものじゃのう。……元の人格は、これほどではないんじゃが』
それは先入観が邪魔してるからじゃないか? 頭の回転は変わらないはずだ。
で、話が逸れたな。どうする?
『第2目標として、そこな人類の新兵器を破壊して回る、というものがある』
……これか。この短い矢を撃ち出す武器? それほどの脅威か?
『ひ弱な人族が、夜エルフ並みの矢を放てる武器じゃ。魔族にとっては玩具にしかならんが、アンデッドの手に渡ると、後々厄介なことになるかもしれん。ここで全てを破壊できたとしても、知られるのは時間の問題じゃろうがの』
あー、エンマ対策か。なるほど。
了解。それならば
あと、耳が痛くてかなわねえ。音が聞こえないのも不便だし、サクッと転置呪用の敵も探しましょうかね……。
……俺さ、殺してもいいんだよな?
『……お主、ホントはもう全部わかっとらんか?』
いいや、そんなことはない。
『その躊躇いは、わずかではあるが、我が権能により力を生むじゃろう』
そうか。……そうか。
魔族であればこそ、力を求めるのは本能だからな。
『お主まで病んだら困るからのぅ、ほどほどにせよ』
大丈夫だ、せいぜい可愛い犬猫を手にかけるのは気が引ける程度の躊躇いさ。
魔神さん、あんたは音が聞こえてるんだろ? 俺の耳代わりになってくれ。
『よかろう。ちょうどよく、足元が騒がしいぞ……敵軍じゃ』
それを早く言え!
俺は剣槍を引っ掴み、階段を駆け下りた。
「! ……!!」
すぐに、人族の兵士たちと鉢合わせた。俺を指差し何事か叫んでいるが……
「悪いが何も聞こえんな!」
闇の魔力で、そいつを包み込む。
「【
ぶぱっ、と両耳から血を噴き出し、剣を取り落して悶絶する兵士。こっちは両耳の痛みが消えて、頭までスッキリした。助かったぜ。
「悪いな」
魔力を込めた刃で、そいつの頭をかち割り、楽にしてやる。……耳に血が詰まったままだなぁ、音が聞こえづらい。魔神さん、サポートよろしく。
『のんびり構えとる場合か! 勇者じゃ!!』
え? ……ああ、あの奥のやつ? 確かに他の兵士より魔力が強いなぁ。なんか盾突き出してるけど。
「【
――視界が真っ白になった。何も見えねえ。
『【接近を禁忌とす!】 下がれ!!』
了解。とりあえず近場の兵士に、目のくらみも押し付けとくか。
「【
――視界が回復した。目を押さえてよろめく兵士を押しのけ、銀色の光をまとった勇者が突っ込んできていた。
禁忌の魔法に絡め取られ、一瞬、ガクンと動きを止める勇者。
が、「【
『感心しとる場合かーッッ!!』
とりあえず俺もアイツの妨害を………………あ、
『戦場じゃぞ!! いい加減にせい!』
すまん。
「【我が名はジルバギアス=レイジュ 魔王国が第7魔王子なり】」
何はともあれ【名乗り】を上げる。一気に魔力が跳ね上がる感覚。間近に接近していた勇者が気圧されたように顔を引きつらせながらも、果敢に斬りかかってくる。
『【斬撃を禁忌とす!】』
――刃が鈍る。俺は軽く身を退いて悠々と避けた。
「悪いな」
お返しに剣槍を突き込む――!
だが勇者はかろうじて、盾で受ける。魔力たっぷりの剣槍の刃は容易くそれを打ち砕く。ばらばらに飛び散る盾の破片、左腕も半ば切断され、「ぐぅぅッ!」と苦しげに呻く勇者はしかし、目が全く死んでいない――
「【
そして、盾に視線が吸い寄せられていた俺の裏をかくように。
勇者の聖剣が、ぎらりと光る。
ジャッ! と銀色の光がほとばしり、水飛沫のように俺へ降り注いだ。ほとんどが鱗鎧の輝きに弾き飛ばされたが、顔にもちょっとかかる。
「何しやがるテメェ!!」
俺は思わずカッとなって、力任せに槍を叩きつけた。「うおおおッ!」と剣で刺突を放とうとしていた勇者が、鎧ごとくの字に折れ曲がり、壁に叩きつけられて赤い花を咲かせた。よう潰れとるわ。
「ヒィッ……!」
よりによって視界が回復した直後にそれを目撃してしまい、硬直する手近な兵士。ついでに、そいつの顔面に聖属性の傷も押し付けてから、剣槍で頭を叩き潰した。
「う……うわァァァ!」
「勇者様がやられたぁぁぁ!」
残りの兵士たちが、くるりと背を向けてダッシュで逃げていく。待ちやがれ!
『待てーッ! 待て待て!! 追うな!!』
えっ、なぜだ?
『戦い方が危なっかしくて見ておられんわ!! なんでお主、そんなに隙だらけなんじゃ!! おかしいじゃろ!!』
いやー、そう言われてもなぁ。
『あっ…………』
魔神が絶句している。
元の人格の訓練の賜物か、動きは体に染み付いてるんだが……
どういうときに、どう動けばいいのか、肝心な部分の記憶が飛び飛びでさ……
俺自身も、全然経験がないから手探りっていうか。なんか魔力は
『……そうか……これが、お主の本来の実力なわけか……』
なんだか、がっくりと項垂れていそうな雰囲気で、魔神が言う。
『……この状態で、導師やら剣聖入りの精鋭部隊と鉢合わせしたら命取りじゃ。交戦は極力避けて、例の武器の破壊にのみ注力せよ。場合によっては撤退も視野に入れて動いた方がよかろうな』
俺もそんな気がしてきた。
いつでも逃げ出せるよう、退路だけは注意しておこう。
魔神さん、サポートよろしく!
『かつてなく不安じゃ…………』
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