勇者の正体
第1話 俺TUEEE!……じゃなかった!!!
私は討伐一家、赤の家の次期当主、トーリ。
自分でいうのもなんだけど、周りから優秀だ、優秀だと言われて生きてきた。
竜討伐の仕事は危険だけど、それなりにこなしてきたと思う。
倒せない竜なんていなかったし、私より魔法ができる人も、強い人もいなかった。
だけど、ここ最近の自分の不甲斐なさ。
森で出会った竜はリングがいてくれたから倒せたし、今回の海上戦なんて何にもできなかった。
みんなが倒してくれた。
全部を一人でなんとかしようなんて、そんな傲慢なことは最初から思ってないけど……、だけど、やっぱり不甲斐ない。情けない。
ソイ君の話をちゃんと聞いてあげていれば、竜使いのことにもすぐに気づいたわけで……、ソイ君にも辛い思いをさせてしまって……嗚呼……。
あれから、竜使い達の船から、無事に逃げ切り、もうすぐ王都近くの港町に着く。
ソイ君はシュガーに剣の稽古をつけてもらったり、ミミとシュガーと客室で遊んだりしている。
ミミの体調を気にかけていたソイ君に、ミミが心を開いたみたいだ。
何気に白一点だね!? ソイ君!
あと、船で出会った小さい男の子とも、よく遊んでいる。ミミの客室ばかりにいると、タツコが寂しくて、怒り出してたから……。
大変なことがあったけど、元気そうで良かった。
リングはというと、船酔いと戦いつつ、筋トレしたりしてたな。
いろいろと、順調でなにより……。
だけど、だけど、私は結構、凹んでいる!!!
リングは10年もの長い間苦しんで、それを克服して、これから、もっと、もっと、どんどん強くなっていくんだろうな。
海上戦でも体調不良にも関わらず、すごかったし。
リングとは兄弟のようなものだから、関係性が変わったりなんかはしないけど、焦り? これは嫉妬? なのかな??? そんなものを感じてしまう。
このことをリングに相談したら、「何いってんだよ! 俺なんかずっとお前に嫉妬してきたぞ!?」とか何とか言って笑い飛ばしてくれちゃうんだろうけど……。
そう言えちゃうところが、笑い飛ばしてくれるところが、もう大人っていうか! なんというか!!!
若いうちに苦労しろとは、よく言ったものだね……。
私は討伐一家、それも赤の家の次期当主、トーリッ!……なのだから、もっとしっかりしないと!!!
今、私にできること! 持っている書物で勉強して、少しでも強くなること! うん!!!
後は考えても仕方がない!
そんなこんなで、船が無事に港町に着く。
凹んでいるとはいえ、あの海上戦。本当に無事で何より。
ホッとしながら、みんなで船を降りる。
えーっと、これからこの港町でも、少し竜使いの情報を集めて、それから……。
今後のことを考えながら船を降り、陸地に足をつけると、突然、大きな魔法陣が現れる。
これは……魔法を封じる結界!
私以外にも、リング、シュガー、シュガーの背後に隠れながら立つミミにも、タツコにまで!
私達のことを知り尽くしている人物。
そして、討伐一家の魔法を封じる程の、こんな大きな結界を作り出せるのは、ただ一人。
討伐一家の隊に私達は、あっという間に囲まれる。
私達に剣先を向けてくる。
どういうことだ……。
なんで身内に包囲されなくちゃいけないんだ。
隊が規律よく整列し、敬礼する。
その中心に立つのは、私と同じピンク色の髪の女性。
討伐一家、赤の家、現当主リリー。
私の……母だ。
ソイ君の方をみると、ソイ君が討伐一家に拘束されている。
隊員がソイ君から剣を取り上げる。それを研究者に引き渡す。
研究者が母に間違いないという内容を伝える。
母が私に告げる。
「トーリ、さすがだ。よくやった」
私は叫ばずにはいられない。
「これはいったい!」
シュガーがソイ君を助けようと動き出す。シュガーなら、魔法が封じられても、動ける!
訓練に訓練を重ねた討伐一家の精鋭部隊。シュガー一人ではすぐに取り押さえられてしまう。
そんな私達を見て、母が言う。
「やはり随分と、情が移っているな……。すべてを伝えておかなくて正解だった」
母が何を言っているのか、分からない。なぜ、まだ子供のソイ君をこんなふうに突然拘束する必要があるのか。
拠点、拠点で、本部に随時報告はしていたが、こんな仕打ちをされるためじゃない。
母の行動とは思えない。
私は憤る。
「説明してくださいッ!」
母は私を見てため息をつく。
「優秀なお前に勇者探しを任せたかった。だが長い旅になる。甘いお前は情にほだされて、任務を放棄する可能性があると思った。だから、すべてを伝えなかった」
何を言ってるか、分からない。
「説明になっていません!」
憤る私に、母がその言葉を伝える。
「『勇者』とは名ばかりで、その子供は監視対象だ」
勇者が監視対象? 一緒に巨大竜を封印するために戦うんじゃないのか?
「監視対象って! まだ13才の子供なのに! こんなふうに拘束するなんて! 今すぐ、解放してください」
「安心しろ。非人道的な真似はしない。教団に、この子供が渡らなければ、それでいい」
「教団?」
「後で説明する」
ソイ君、いや……シロという人が言っていた言葉が思い出される。
討伐一家は、ソイ君の敵……。
ソイ君が連行されていってしまう。
ソイ君の側にはタツコもいない。
私は叫ぶ。
「ソイ君ッ!!!」
ソイ君が振り返る。ソイ君は……笑顔だ。
「心配してないよ! だって、トーリと、シュガーのお母さんでしょ?」
「ソイ君! 私は! 私は、絶対にソイ君の味方だから! 何があっても! 絶対に敵なんかじゃない!」
ソイ君がまた笑顔で頷く。
「分かってるよ! 今までの旅で、うんざりするくらい分かってる!」
「ソイ君、必ず、必ず、助けにいくから!!!」
助けに? 何から? 討伐一家から? 私が討伐一家なのに?
自分で言っていて、戸惑いが隠せない。
連行されていくソイ君が、また笑顔で振り返る。
「トーリのお母さんも、すごいキレイな人じゃん。……仕返し! ね? 何か照れくさいっていうか、あんまり良いもんじゃないでしょ?」
ソイ君がニコッと笑う。
普段は子供らしい程に子供なのに、本当に不安な時は、周囲に心配をかけまいと、平気なふりをして、軽口を叩く。
つまり、これはソイ君が強く不安を感じてる時……。
大人達に囲まれ、連行されていく、笑顔の13才の子供。
自分の不甲斐なさに涙が滲んでくるが、私は叫ぶことしかできない。
「ソイ君ッ!!!」
私は自分を名乗るときに、討伐一家と頭に付ける。
それも、自慢気に。
違う……、違う、違う、違うッ!!! 全然違うッ!!!
私はずっと、ずっと、間違え、勘違いし、うわっついて生きてきた。
地に足をつけるんだ!
私の名はトーリ。
その名だけで、私は私を形どれる。
ソイ君、私は必ず君を助ける。
それが、たとえ討伐一家からだったとしても。
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