第4話 反撃! 雄叫びを上げる少女

 シュガーがそういうと、自信なさそうに続ける。


「でも、出てくるか、どうかは……」

「シュガーが言ってくれても?」


 トーリが、そんな不安そうなシュガーに言葉を返すけど、それでもシュガーはハッキリしない。


「うーん……。分かった。可能性はなくもないか……。一応行ってくるわ……」

「お願い!」


 シュガーが、足早に客室の方に向かう。そして、暫くして戻ってくる。そして、トーリに報告する。


「ダメだったわ……」

「ちなみに、何だって?」


 シュガーが申し訳なさそうに、なんとか口を開いて伝える。

「うーんっと……。すごく手短にいうと、恥ずかしいって……。うん……、恥ずかしいとしか言ってないわ!」

「もーッ!!!」


 シュガーから聞いた話の内容に、トーリは苛立ちのような叫び声を上げて、取り乱し始める。


「恥ずかしい!? そんなこと言ってる場合!? 巨大竜封印におけるキーになる少年と、乗客全員の命が天秤にかけられてるのに!?……私が行ってくる!」

 

 取り乱して客室に向かうトーリをシュガーが必死で引き止める。


「兄貴らしくないよ! それも大切だけど、ミミちゃんにとっては皆の前に、出ることも同じくらい一大事なんだから!!! ダメ! 逆効果だって!!!」


 トーリが自分の頭を掻きむしる。

「もー!!! じゃあ、どうしたら!!!」


 え……、何? トーリとシュガーは何を話してんの? まったく状況がつかめない。


 トーリとシュガーが僕の方を見る。……うん? 違う、僕じゃない。僕の傍らでパタパタと翼を動かしながら飛んでいるタツコを見ている。


 タツコの顔が青ざめていく。


 飛んで行ってしまおうとするタツコの足をトーリと、シュガーが、すかさずに掴む。


 トーリはタツコの左足、シュガーは右足。


 タツコが、翼をパタパタさせるが、兄妹が掴んでいるから飛んでいけない。


 タツコが離してくれと、「キューッ」と叫ぶ。


 え!? タツコに激甘で、噛まれても、血を流しても、躾さえしない兄妹なのに!? 何!? 


 僕はトーリと、シュガーを止める。

「ちょっと、二人とも! どうしたの!? タツコ、関係なくない!?」


 さすが兄妹と言った感じで、二人揃って声をそろえ、すごい気迫で返される。


「あるのッ!!!」


 わ、わー……。ちなみに、なんやかんや、僕にも、いつも激甘なんだけどな……。


 トーリがタツコを説得する。


「タツコ、お願い! タツコしかいない。逃げようとするってことは、もう、どうして欲しいか、分かってくれてるってことだよね!?」


 タツコがトーリから目をそらす。


「大好きなソイ君を守るためだよ、タツコッ!!!」

 

 シュガーもタツコを説得する。


「そう! 守れるのはタツコだけッ!!!」


 タツコが僕の方をジッと見つめる。タツコの目がウルウルしてる。え? 本当に、何!?

 そして少し考えたタツコが、覚悟を決めたように「キュッ」と、頷く。


 そして、客室の方へパタパタと飛んでいく。


 暫くして、タツコがで見たこともないスピードで飛んで戻ってくる。


 速ッ!!!


 その背後に長い金髪をなびかせた、黒いワンピースの女性が、これまた凄いスピードで走ってくる。


「竜ーッ!!!」


 と、血走った目で叫んでいる。


 怖い!!!


 


 女性が甲板に出ると、すかさず、トーリが飛んできたタツコを抱きかかえ、ジャケットでタツコを隠す。


「ありがとう! タツコ! もう、大丈夫!!!」


 トーリのジャケットの中から「キュッ」と声がする。


 そして、シュガーが、水竜の方を指差し女性を誘導する。


「ミミちゃん! あっち! あっちの船に、ものすごーい、たくさん竜がいるからッ!!!」


 女性がニヤッと笑う。年はトーリやリングと同じくらい。


 足元に魔法陣を作ると、フワリと体を浮かせ、臆することなく、飛んで水竜に向かってく。


 そういえば、リングが話してたな……。竜討伐のために生まれてきたような女がいるって……。


 タツコが僕の胸に飛び込んでくる。もう、全然分かんないけど、めちゃくちゃ頑張ってくれたっぽい!


「タツコ! ありがとうッ!!!」


 キューッ!!!と、鳴いてタツコは今度は僕の顔をなめる。次は頬ずり。すごい勢い。戦地から帰ってきたような? 達成感? が凄い? とりあえず、タツコの頭をなでる。う、うん……。本当はよく分かんないけど!


 そんな僕を見てトーリが説明してくれる。


「タツコは命を顧みず、作戦を実行してくれたんだ! 彼女の名はミミ。黄の家のミミ。とても、引っ込み思案の大人しい子だったんだけど、名物のダンジョンへの挑戦で覚醒してね……。竜を見るとDNAレベルで討伐一家の血が騒いじゃうみたいで、こんな感じに……」


 そうか、引っ込み思案で部屋から出てこないミミちゃん。だけど竜を見れば血が騒いで、倒さずにはいられないから、タツコは自分を見せつけることで、部屋から連れ出してくれたのか。


 僕はタツコをギューッと抱きしめる。ありがとう! タツコッ!!!


 シュガーが付け加える。

「そう、ちょっと見境なくなっちゃうけど、とても、優しい良い子だよ、ミミちゃん!!! 普段の趣味はガーデニングで、いつも静かに花を眺めているよ!」


 普段はお花を静かに眺めてるミミちゃんが叫ぶ。


「全部、全部、全部ーーーッ!!! 全部、私が仕留めるッ!!!」


 金色の髪をなびかせ、海のど真ん中でミミちゃんが雄叫びを上げる。


 そのまま、相手の船の方に向かっていったミミちゃんが突然ピタッと止まる。


 すると、ミミちゃんが、うずくまる。


 そして、メソメソ泣き始める。


「うーん……、やっぱり怖いよ〜……」


 あれ!? 急に我に変えちゃった!!! 本来のミミちゃんに戻っちゃった!!! チャンスだと言わんばかりに、水竜達がまとまってミミちゃんに飛びかかる。


 ミミちゃんッ!!! こ、ここから、トーリとシュガーでなんとか援護できるのか!?


 ミミちゃんが! 


 僕は不安でトーリの方を見る。トーリが僕の肩に手を乗せる。


 トーリが少し怯えた顔をしている。


 えっ! ミミちゃん……食べられちゃうってこと!? え!!!


 トーリが口を開く。


「瞬時に天性で、これらの竜が人に操られてるって感じとったんだろうね……」


 水竜達がミミちゃんに、襲いかかる。


 メソメソ泣いていたミミちゃんが、突然両手を上空にあげる。


 すると、足元だけでなく、竜たちに、いくつもの魔法陣が向けられる。


 そして、一網打尽に雷の矢が竜たちに放たれる。


「オラオラーーーッ!!! あはははッ!!!」


 ミミちゃん……。


 またたく間に竜が倒されていくが、海中に勢いよく、ミミちゃんに迫っていく水竜達の影が見える。


 凄い数で集まっていく。


 上からも、下からも!?


「甘いんだよッ!」


 ミミちゃんが、そう言って誰ともなしにメンチを切ると四方八方から電流が放たれる。


 一網打尽に竜が倒され、海中に浮く。


 倒された竜が水に打ち付けられた衝撃で、ふらついたミミちゃんが舞い上がる。


 これも......、演技かな? 


 いや、違う! 様子がおかしい。力を使い切ってしまったんだ。このままじゃ、ミミちゃんが海にッ!

 


 シュガーが叫ぶ。


「ミミちゃんッ!」


 シュガーとトーリが魔法陣を出すが、その魔法陣はミミちゃんをキャッチできない。


 トーリが叫ぶ!


「ミミッ!!!」


 ミミちゃんの華奢な体が、またたく間に落下して海面に迫っていく。


 そこに、巨大な青い魔法陣があらわれて、ミミちゃんをキャッチする。


 リングだ。


 顔面蒼白で手すりに捕まりながら、ミミちゃんの方に手を伸ばしている。


 トーリと、シュガーが叫ぶ!

「リングッ!!! 超、カッケー!!!」


 リングが力なく、親指を立てている。


 そのまま魔法陣は、力尽きたミミちゃんを甲板まで運ぶ。


 トーリが船員に叫ぶ。


「今のうちに全速力で逃げてください!!! まだ水竜が控えてます」

「はい!」


 船員が駆けていき、少しすると船のスピードが上がる。


 本当だ。まだ……、まだ水竜が追いかけてくる。


 マジで……まだ、いんの……。


 そこに、また大きな魔法陣が現れる。その魔法陣は大きな波を起こして、向かいの船を押し返していく。


 リングが力なく口を開く。


「少し、良くなってきた……。これと、船のスピードでなんとか逃げッ……うぷッ」


 トーリと、シュガーと、僕で、リングに抱きつく。


「リング、超カッコイイ!!!」

「や、やめて……、揺らさないで……。ううッ!!!」


 どんどんと、水竜と、向かいの船との距離が空いていく。


 やっと、やっと逃げ切れた。


 ミミちゃんは!?


 シュガーがミミちゃんの頭を膝に乗せている。


 心配そうな僕をみて、シュガーが言う。


「少し休めば大丈夫。力を使い切っちゃっただけ。見境なくなっちゃうからね、やりすぎちゃうんだよ」


 僕はみんなに頭を下げる。


「ごめんなさい……。僕のせいで!」


 トーリが僕の肩に手を置く。


「なんでソイ君が謝るの!?」

「だって……」


 だって。僕のせいで、ミミちゃんは力を使い切って、乗客のみんなを、こんなにも不安な思いにさせて、小さな男の子だって……。


 僕はまた泣きそうになってしまう。


 そんな時、僕の服を誰かが引っ張る。うん? 見ると母親に手を引かれていた小さな男の子だ。


 見上げて僕の顔をじっと見ている。


 うん?


「お兄ちゃん、勇者なの?」

「いや、どうだろー。違う気もするし……」


 男の子がすごく、すごく残念そうな顔をする。何か……すごく期待を裏切っちゃいけない気がする! 子供の夢!?的な何かを裏切っちゃいけない気がする! いいや! 言っちゃえ!


「えーっと、勇者かもしれない!」 


 男の子の顔がパッと明るくなる。


「カッコイイ!!!」


 そんな男の子の姿が可愛くて、男の子の頭に僕は手を乗せる。男の子がニコーッと笑う。


 そんな僕は視線を感じる。


 トーリと、シュガーと、顔面蒼白のリングが僕をニヤニヤ見ている。


 そしてトーリが僕を指さして言う。


「ソイ君が、お兄ちゃんしてるぅッ!」


 そしてウシシッと、また3人でニヤニヤ笑う。


 もう! そういうの! 本当にやめてほしい!!! めちゃくちゃ恥ずかしいから!



ーーー


 向かいの船。


 ソイ達の客船をじっと見つめるシロと、髪を肩くらいにまで伸ばしたソイくらいの年頃の少女。


 少女が心配そうにシロに話しかける。


「失敗しちゃったね…」


 シロが少女に微笑む。

「大丈夫」


 シロがどんどんと距離をとっていく船にまた目を向ける。


「どんな手を使っても必ず助けるよ、ソイ。君を討伐一家から、必ず守る」









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