第3話 沈没!?全乗客の命or ソイの引き渡し!

 リングに怖いことを言われたこともあって、必死で探していると、縁石に腰掛けているソイ君を見つける。そして、あれはシュガー!?


「え! シュガー!?」


 ソイ君と、シュガーがのんびり、私の方へ手を振る。なんて呑気なんだ!

 私はそのまま2人に駆け寄る。


「ソイ君! 心配したよー!」

「どうせ、聞いてないと思って、置き手紙していったよ。少しブラブラしてくるって」


 そういえば、何か紙切れがあったような。私はポケットから出してそれを見る。


「え!? これ文字!? 字、きたなッ!」

「すごい、失礼なんですけどー。そもそも聞いてないトーリがいけないのに!」


「何はともあれ、無事でよかったよ。ソイ君がさらわれたらどうしようって」

「さらわれるところだったよ」


「え!」

「シュガーに」


 シュガーが元気よく私にガッツポーズを向けてくる。

 なんでだ……。


「シュガー、何してんの?」

「いや、兄貴の行った方にいけば、勇者いるかなと思って、したら私の手柄に」

「もー」


 背後からリングの声がする。

「あ、ソイいたじゃん。シュガーまでいる」


 リングを目にした、ソイ君の顔がパッと明るくなる。


「最初から、リングについていけばよかった。トーリが全然かまってくれないんだもん」


 ソイ君はそう言うと、リングの方に行って、リングにパンチをしたり、それをリングが受けたりして、じゃれあってる。



 その間に私はシュガーに持ちかける。


「シュガー、正直助かったよ」

「え? 何?」


「一緒に王都まで行って欲しい」

「あ、兄貴が私に頼み事をしている!?」

 シュガーが大袈裟に、のけぞってみせる。


「真面目に聞いて、シュガー。私でも倒せない竜に遭遇したんだ。リングと2人でやっと倒せた」

「え! 兄貴が? てかリーゼント戦えるようになったんだ。チッ……」


 なんだか妹のリアクションが気になるけど、今はそこには触れない! それどころじゃないから!


「もしかして、何らかの変化があったのかも。他にも、そんな竜が出てこないとも限らない」

「マジで……」


「この港町の研究者に聞いたり、書物を片っ端から読んでるんだけど」

「それで?」


「特に明確な情報はなくて……」

「え、じゃあ、考えすぎなんじゃん?」


「そうだと、いいけど……」

「でも、いいよ! ちゃんと手柄は私にしてね!」


「え! リングと、私と、3人だからね!」

「うーん……。まあ、それでもいっか!」


 良かった。とりあえず、これで戦力は上がる。

 

 シュガーのいうとおり、これがただの私の気苦労で、これからも、何事もなく王都まで行けるといいんだけど。


ーーー


 トーリが僕がさらわれたって騒いだりしているうちに出港時間が着て、僕達は船に乗り込む。


 見たこともない大きな客船。


 村のみんなや、母さんと離れて不安なこともあったりするけど、さすがに、ワクワクしてくる。


 これに乗り込めば王都まで後少し。


 甲板に出ると、大海原が広がる。とうとう、船が出港する。



 手すりギリギリに体を乗り出すと、カモメが僕とタツコに、挨拶するように飛んでいく。


 嬉しくて、さらに体を乗り出して、カモメ達に手を伸ばす。


 そんな僕の服の裾を、トーリが引っ張る。

「ソイ君! 落ちないでよ!」


 もう、トーリがお母さんみたいになってきちゃった。

「大丈夫だよ!」


 剣を、抜いてから嫌な予感しかしなかった。でもトーリやリングに会えたし。旅も楽しい。

 船に乗ってる間、シュガーが剣の稽古をつけてくれるっていうし。それも楽しみだ。


 能天気なようで、僕はちょっと勘ぐり深かっただけなのかもしれない。


 船が出港して、数時間経つ。


 僕は海をずっと見ててもあきなくて、その隣でトーリは本を読んでる。シュガーは筋トレ、リングは……船酔い。甲板の椅子でぐったり風にあたってる。さっき水を持っていったけど、大丈夫かな……。


 そんなふうに過ごしてると、突然船に強い衝撃があって、僕は、危うく海に投げ出されそうになる。


 そんな僕をトーリが、しっかりと引き戻す。

「ソイ君ッ!」

「すっごい反射神経! さすがトーリ!」

「言ってる場合!?」


 何が起きたのか。本当に軽口を叩いている場合じゃない。僕達が乗る客船と平行して、進む船がある。


 その船に目が行っている間に、近距離で巨大な何かが跳ね上がる。


 海から飛び出し、また潜る。


 そして船に、また衝撃。


 トーリが叫ぶ。

「水竜ッ!?」


 本当だ。……竜だ。水竜。

 大海原を自由自在に泳いでいる。


 また、竜が海上に姿を現す。その竜の前に、またたくまに大きな魔法陣が、いくつも現れる。トーリの攻撃だ。


 一斉に火の矢がいくつも放たれるけど、攻撃を食らうまえに水竜は、すぐまた海に戻ってしまう。



 トーリの切羽詰まったような声が漏れる。

「速いッ!」


 また船に、衝撃が走る。


 3回目。


 大きな客船だけど、3回もの大きな衝撃。

 乗客達に不安が募る。叫び声が起きる。


「リングッ!」


 トーリはリングの名を叫ぶけど、リングはリングでそれどころではない。


「もう! リング! 海は青の家のフィールドでしょッ!?」

「す、すまん」


 力なくリングが答える。せめてもと、僕はリングの背中をさする。あわわわ。


 海の方を見ると、今度は、何匹もの水竜が海から飛び上がっては、潜ってを繰り返し近付いてくる。


 トーリが、またいくつもの大きな魔法陣を水竜達に向けるが、火を放っても、その前に水竜達は、素早く海に戻る。


 まるで、トーリの魔法を知り尽くしたような動きだ。


 水竜達で連携している。僕は嫌な予感がする。


 そこにシュガーが現れる。


「兄貴! 引き付けるだけ、引き付けて! ギリギリまで。一気にやる!」

「分かった」


 さすが兄妹なのか、それだけでトーリはシュガーの作戦を飲み込んだようだ。


 トーリがあたらない魔法をいくつも、水竜に放つ。

 船ギリギリまで水竜達が近付いてきてしまう。


 そこへシュガーが船から飛び出す。

 トーリの魔法にばかり気をとられていた水竜はシュガーの存在に気付いてない。


 船から飛び出したシュガーは水竜の頭上に飛び乗っては、直接竜の頭に火の魔法を放つ。


 水竜の頭を次々にとび越えては同じ魔法を繰り返す。海に逃げることも出来ずに水竜達は、シュガーの魔法に倒れていく。



 当たり一体の竜を倒して、ひらりと回転しながら、シュガーが甲板に舞い戻る。


 パチパチと乗客達がシュガーに拍手を送る。


 スゲー、シュガー!!!


 しかし、また船に衝撃が走る。

 乗客が叫び声を上げる。


 衝撃は……4回目だ。


 船は持ちこたえている。だけど、これ以上食らったら。

 

 乗客全員の頭に「沈没」の文字が浮かぶ。

 


 シュガーが取りこぼしてしまったのか? 


 海の方を見ると、向かいの船に待機しているように見える水竜が何匹も見える。

 

 取りこぼしたんじゃない……。

 シュガー一人じゃ、とても対処しきれない竜が控えてる。


 僕は遠くに見える船の甲板にいる人達を見る……。


 白いローブを着ている。シロが着ていたものと同じだ。


 胸が苦しい。……このトラブルは……僕のためにおこってる。僕の……せいだ。


 船員が叫ぶ。

「この中に、ソイという剣を担いだ子供はいますか?」


 剣を担いだ子供なんて、そうそういない。乗客達の視線が一気に僕に集まる。


「向かいの船から通信が入りました。自分達は竜使いであり、この攻撃を行っている。剣を担いだ子供を引渡せば攻撃をやめる」


 僕は手を上げる。そして、船員の方へ向かう。トーリも事情を把握しようとついてくる


 船員は僕に続ける。


「ソイさんですか?」

 

 僕は頷く。


「はい」

「『ソイ、自分で判断して選んで欲しい』そう、ソイさんに伝えて欲しいと。シロと名乗っています」


 やっぱり…シロ……。


 乗客達のいくつもの目が僕を刺す。


 僕はこれから、この目を向けられることが、どんどんと増えていくんだろう。

 そんな予感がする。


 母親に手を引かれた、小さな男の子が不安そうに僕を見ている。

 母親が、男の子を安心させようと、優しく微笑んで、包み込むように抱きしめる。


 昔の母さんと、僕みたいだな。

 僕はつい微笑んでしまう。


 そして深呼吸する。


 なるべく、なるべく、心配をかけないように、元気に明るく……。

「僕、行くよ!」


 当然、トーリが怒る。

「何言ってるの! ソイ君ッ! そんなこと絶対にさせない!」


 僕はおどけてみせる。


「いや、だってさ、竜に襲われるの3回目だよ。村でしょ? 旅の初日でしょ? 今でしょ? もう、探偵が毎回殺人現場に遭遇するみたいになってんじゃん!」

 

 僕はトーリに向かって笑う。


「全然、笑えないよ! ソイ君! ダメ。絶対に行かせない。だって、見て! 船に乗ってる人達! あの白いローブ集団! 絶対に、ヤバイ人達じゃん!」


 トーリは、続ける。


「それにソイ君の選択肢を奪っておいて『自分で判断して欲しい』なんて言ってる。これを伝えてきた人は……凄く怖い人だ」


 トーリもすぐ分かるんだ。そう、シロは怖い。

 だけど……、もう船が持たない。僕より小さな子だって乗ってる。


 僕は少し真面目な顔をする。トーリは、アホなようで、責任感が強い。


「トーリ……。僕は王都には行かない」

「ソイ君!」


 トーリはアホだけど、良い奴だ。自分や立場を犠牲にしても、僕を守ろうとする。

 だから、これをトーリに伝えよう。


「森でシロって竜使いに会ったって言ったの覚えてる? その人が今、攻撃してるんだ」 


 トーリに嫌われちゃうかもしれないけど、それはとても寂しいことだけど、伝えよう。


「その人がね、討伐一家は僕の敵だって教えてくれたんだ。王都には行ってはいけないって。だから、僕は王都には行かない」


 ああ……、これで、本当に村のみんなとも、お別れだな。母さんとも。


 でも、多分、僕はみんなと違う。これは仕方のないこと。


 これで最後。今の僕はトーリから、母さんにも伝わるだろう。


 笑顔で、笑顔で。明るく、元気良く。


「だから、ゴメンねトーリ。僕は、あっちの船に乗る。あっちに行くよ」


 トーリが僕の腕をきつく握る。厳しい顔だ。


 そりゃ怒るよね、1ヶ月近くも、ずっと寝食一緒だったのに『敵だ』なんて思われてたら。


 トーリが更にグッと僕の腕を握る。イテテ。




「ソイ君、それずっと一人で抱えてたの!?」



 トーリが心底、心配した泣きそうな顔で僕を見る。



 トーリ……。敵だって言ったのに、ちっとも怒ってない……。



 笑顔で、笑顔で、笑顔で、心配かけないように。


 笑顔で……。


 止まれ。泣くな。


 ダメだ。


 喉が詰まる。


 それを飲み込んでしまうと、次から次に、止めようと思っても、今までの不安と合わさって、涙が溢れ出てくる。


 それと一緒に、僕は溢れ出た感情をトーリに、ぶつけてしまう。


「だって! だって聞いてくれなかったじゃんッ!!!」


 ああ…やっぱり僕は子供だ。嫌になる。 


 トーリが僕の腕を引っ張って、抱きしめる。

「ゴメンね、ソイ君」

「ううん……トーリは悪くない。特にあの、ビビリーゼントが聞いてくれなかった」

「ビビリーゼントが全部いけないんだね」

「うん」


 リングの船酔いで苦しそうな声が聞こえる。

「おい、お前ら、俺をこういう時に便利なポジションに置くのやめような!?」


 トーリが僕に言う。

「赤の家が当主トーリは、ソイ君に約束する! 私は何があってもソイ君の味方だから!……それに、ソイ君のキレイなお母さんとも約束してるし……」

「あのさ……、いい加減人の親を、そういう目で見るのやめてくんない?」

「そうだね! ソイ君の前ではもう言わない!」


 ……。そういう問題じゃなくない!?


「ソイ君は絶対に渡さない! この船も守り切る!」


 トーリが乗客達に向かって、帽子を取り、ピンク色の髪をサラ〜ッと見せつける。


「私は討伐一家が、赤の家、トーリです! この船はこの私が守ります!」


 乗客の一人が叫ぶ。

「知ってるよ! 帽子被っててもピンクの髪見えてるし、てかさっき魔法使ってたし」


 トーリが寂しそうにする。

「何故どこに行っても、お約束のヤジなんだ……」


 トーリはそう言ってくれるものの僕は不安だ。相手はシロで、強力な水竜。トーリの攻撃を知り尽くしてる。


「でも……どうするの? 勝てる……の?」

「多分、シロって人は完全に私の攻撃を把握して調べ尽くしてる。だから赤の家が苦手とする海上戦にしたんだ。でも、シュガーの存在は知らなかった。だからシュガーの攻撃は効いた。リングの船酔いも知ってたのかもしれない!」

「リングの船酔いは……どうだろう。でも、トーリの攻撃は封じれちゃうからね……。それにシュガーもあんなにいっぱいの水竜は……」


 シュガーが、そーっと手を上げる。

「相手が把握してないっていうのが、必勝手段なら、伝えてないことが……」


 トーリが目を輝かせる。

「も、もしかして!?」

「う、うん……」



 

 

 


 





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